第282話 アクアリウム・ラウンジ

 ジップラインは、想像以上に爽快なアトラクションだった。

 ただ、再度ジップラインに乗るには電動カートで高層ホテル棟のロビーまで移動し、箱型反重力エレベーターに乗り屋上まで上がらなければならず、それが少々面倒なのだ。


 次はウォーター・スライダーに挑戦だ。

 エメラルド・リゾートに設置されたウォーター・スライダーは全部で3種類ある。

 1つ目は全長777mと長いが、全体的な傾斜角がやや緩やかなスライダー。

 2つ目は全長120mと短いが、急角度な絶叫系のスライダー。

 3つ目は全長280mほどの傾斜角が緩やかな子供用のスライダー。

 今回挑戦するのは777mのウォータースライダーであるが、途中数カ所にイベントが用意されている。

 螺旋状にクルクル回る箇所や、360度反転するコーナーがあったり、滝のような大量の水が流れ落ちる中を通過したり、最後はプールに勢いよく着水する形でフィニッシュするが、その時に大量の水を被るのである。


 このウォータースライダーの幅は1m程で、強化アクリル樹脂が使われており、上面がない底面と側面のみのオープンエアタイプである。

 言うなれば傾斜角の付いた流れるプールのような感じで、誰がどこを通過しているか一目瞭然なのだ。

 それが平行して2レーンあるので速さを競う事が出来るようになっている。

 このウォータースライダーは、空気が入った2人乗りの長円形のエアチューブに乗って滑り降りる仕組みだ。

 ジャンケンで組み分けした結果、オレはセレーナと一緒に乗ることとなった。


 婚約者フィアンセたち7人は、Tシャツとショートパンツの下に水着を着用しており、上に着ているものを脱ぐだけで、すぐにウォーター・スライダーに乗れるのだ。

 Tシャツとショートパンツを脱ぐ様子を、すぐ傍で見ていたが、何れ劣らぬ美ボディの美女達がカラフルな水着姿となるのを見ていると、オレの下半身もついつい反応してしまう。

 ムフフな楽しみは今夜に取っておくとして、まずは目の前にいる美女たちの水着姿を堪能しよう。

 フローラは白に花柄のビキニ、リアンナはボディラインがはっきりと分かる黒のワンピース、アリエスは露出多めの真っ赤なビキニ、アスナはエメラルド・グリーンのビキニで、どうしても彼女らの胸元に視線が行ってしまう。

 セレーナは、レモンイエローの爽やか系のビキニにスポーツキャップを被り、後ろの隙間から黒髪ポニーテールが出ていて、それがまた萌えるのだ。

 前席にセレーナが座り、後席にオレが座った。

 対戦相手はジェスティーナ・エレナチームである。

 ジェスティーナはスカイブルーのビキニに金髪ポニーテール、エレナはピンク地に花柄のワンピースに金髪ツインテールで出発準備は既に整っていた。

「私たち、負けないわよ~。

 カイト兄ちゃん、負けたら罰ゲームよ」とエレナが言う。


「えっ、罰ゲームってどんな?」


「負けたチームが、勝ったチームの言うことを何でも1つ聞くのよ」


「分かった、だが負けないぞ」


 出発準備が整うとカウントダウンが始まり、ゲートが開いた。

 オレたちは、やや出遅れたが、体重差を利用して中間地点でジェスティーナ・エレナチームに追いついた、しかし360度反転するコーナーのターンに失敗し、僅かな差でジェスティーナ・エレナチームに敗北したのである。

 フィニッシュは、両チームとも大量の水を被ったが、外気温35℃の炎天下では、むしろ涼しくて良いくらいだ。


「ティーナ姉、勝ったね」

「うん、勝った勝った」

 ジェスティーナとエレナはハイタッチで勝利を祝った。


「おかしいな~、オレたちが負けるはず無いのに…」


「すいません、多分、わたしのせいです…」


「いや、どうせ遊びだし気にすること無いよ」

 しかし、この負けによる罰ゲームに、この後苦しめられることになろうとは、この時予想だにしなかった。


 その後、皆んなでグラスボートに乗り、カフェテリアで美味しいランチを食べ、ダイビングで色鮮やかな熱帯魚を観察して、ウミガメやマンタなど水中生物と戯れ、スパ&エステでリフレッシュした後、今宵の宿『エメラルド・ヴィラ』に向かった。


『エメラルド・ヴィラ』は、エメラルド・リゾートの中で1棟のみの最上級ハイエンドなヴィラで、地上20mの小高い丘のような半島部分に建つ3階建てヴィラと海中展望塔からなる宿泊施設だ。

 ヴィラの屋上にはテラスがあり、専用インフィニティプールもある。

 寝室はキングサイズのツインベッドルームが5室、テラス付きリビングダイニング2箇所、パウダールーム2箇所、トイレ3箇所、浴室2箇所、一度に10人まで入れる大型ジャグジーバスが1つある。

 岬の脇にある階段を下りて行くと白い砂浜と入江がある専用ビーチに出る。

 3階建てのヴィラから海中展望塔までは、地上20mの岬の突端から長さ50mほどの桟橋が掛けられており、徒歩で行き来することが出来るようになっている。


 海中展望塔は海上部分と海中部分に別れており、最下階は海底12mに高さ3.6m、直径12mのドーム型の部屋『アクアリウム・ラウンジ』があり、そこから水族館のように熱帯魚が見られるのだ。

『アクアリウム・ラウンジ』は、天井を含む壁面全体が透明な強化アクリル樹脂で出来ている。

 全面がマジックミラーとなっており、外の光は室内に通すが、外から中を覗くことはできない仕様になっているのだ。


「うわ~、ホントに海の中にいるみたい」

「見てみて、ウミガメがいるわよ」

「なにコレ、涼し~い」

 7人の美女たちは、初めてのアクアリウム・ラウンジにご満悦の様子であった。


 ここは水深12mの深さにあり、確かに見た目にも涼しいが、気温的にも涼しいのである。

 夜間は、LED照明により周囲がライトアップされるので、昼間とは違った海中の様子が見られるのである。


「今日の夕食は、このラウンジに用意してもらうから、もう少し待っててね。

 ここはベッドルームもあるから、もし希望するなら泊まることも出来るよ」


「はいはいは~い、わたし、今日ここに泊まってみたいです」

 エレナが手を挙げ、目を輝かせて泊まりたいと熱望した。


「いいけど、エレナ1人で泊まるの?」


「そんなわけ無いでしょ…

 カイト兄ちゃんも一緒に泊まるのよ」


「えっ、オレも?」


「カイト兄ちゃんだけじゃなく、他の7人全員でここに泊まってHするの」

 エレナはとんでも無いことを考えていたが、意外にも反対意見は出なかった。


「え~、ここでするのか?

 でもベッド2台しか無いけど…」


「ここのベッド、大っきいし2台連結すれば大丈夫よ」

 アクアリウム・ラウンジのベッドルームには、壁際にキングサイズ・ベッドが2台あり、寝転びながら水中を眺められるようになっているのだ。

 確かに皆んな細身だし、2台のベッドを連結させれば寝られなくもない。

 因みに、キングサイズベッドの横幅は2.4mあるのだ。

 この部屋にはコの字型のコーナーソファもあるし、それとは別にカウチソファもあるので、寝る場所は何とかなるだろう。


 そのような相談をしている内に、リゾートスタッフ達が隣室のリビングルームに夕食の準備を整えてくれた。

 今日はエメラルド・リゾートのオリジナル・コースメニューである。

 水中展望塔の1階には厨房があり、そこで調理された料理が海中にある『アクアリウム・ラウンジ』に運ばれ提供されるのである。

 何とも贅沢な晩餐だ。


 オレ達は、少しだけドレスアップして8人掛けの円卓に座った。

 オレは夏らしい白いTシャツにライトブルーの七分袖のサマースーツ、女性たちは花柄やトロピカルな柄のサマードレスを着ているが中は水着のままである。


 最初に食前酒としてキリッと冷えたスパークリングが供された。

「このワイン美味しいですね、どこのワインですが?」

 そう言ったのはセレーナであった。


「悔しいけど美味いんだよなぁ、このスパークリング」

 オレはセレーナにワインボトルのラベルを見せた。

 ラベルにはアルカディア・ワイナリー『プラチナムセレクト』と書かれていた。


 残念ながら、アクアスター・ワイナリーのワインはアルカディア・ワイナリーのワインには、僅かながら及ばないのだ。

「へ~、わたしこのワイン、飲みやすくて好きです」

 セレーナはプラチナムセレクトが気に入ったようだ。


「アプロンティア王国でもワインは作ってるんだろ?」


「はい、標高が高く冷涼でワインに適した土地が多いので、ワイン造りは盛んです」


「今度、アプロンティアのワインも輸入してみようかな~。

 もうすぐ飛行船の定期航路も開設されるし…」


「あらカイト、それならもうバレンシア商会のバイヤーが現地に乗り込んで買付の話を進めてるわよ」


「え、もうそんな話までしてるの?」

 さすがはバレンシア商会である。


「リアンナ、フォマロート王国もワイン造りは盛んだったよね」


「ええ、そうよ…。

 でも確か、フォマロートにもバレンシア商会のバイヤーが来たって誰か話してた気がするわ」


 商魂逞しいバレンシア商会父娘おやこに死角はないようだ。


 その日の晩餐は、前菜としてカプレーゼ、サーモンのカルパッチョ、トマトと生ハムのブルスケッタから始まり、冷製スープのビシソワーズ、金目鯛のアクアパッツァ、バルサミコソースが爽やかな牛肉のタリアータと続いた。


 ここでリゾートスタッフが「牛肉料理に赤ワインは如何ですか?」と気を利かせてくれてアクアスター・ワイナリーのアクア・ルージュと言うワインを勧めてくれた。


「このワインも美味しいです、牛肉料理によく合いますね」

 セレーナは、かなりのワイン通のようだ。


「これは我が領地、アクアスター・ワイナリーでローレンが丹精込めて作った赤ワインだよ」

 オレは、自分の領地で造られたワインが褒められて嬉しかった。


 続いて口直しのソルベ、ロブスターのマスタードグリル、シーザーサラダ、デザートとしてティラミス、イチゴとマンゴーとオレンジのカットフルーツ、最後にコーヒーが出てきて締めとなった。


「どの料理も美味しかったわ~」

「わたし、もうお腹いっぱい」

「私は、まだもう少し入るわよ」

「美味しすぎて、ちょっと食べすぎたかも」

 7人の美女は、それぞれにディナーの感想を述べた。


 日はすっかり沈み、外は夜の海がライトアップされて、その光に様々な魚が寄ってきていた。

 それから暫くは食後のカクテルなどを楽しみながら歓談タイムとなった。


 30分ほどして、リゾートスタッフが食事の後片付けを終え、全員アクアリウム・ラウンジから退出すると、それを待ち構えていたようにエレナが立ち上がり、オレの肩に手を掛けてこう言った。

「カイト兄ちゃん、そろそろお楽しみの時間よ」


「そうね、昨日私たちを放ったらかしにした責任も取ってもらわないとね」

 そう言ってジェスティーナが立ち上がると、他の婚約者フィアンセたちも、立ち上がり隣の寝室へと向かった。

 こうなることは、ある程度予想していたが、どうやら今夜は長い夜になりそうだ。

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