第264話 暗黒竜「ポチ」

 護衛達を全員飛行船に乗せ、離陸して上空から暗黒竜ダークドラゴンの様子を覗った。

 すると体のあちこちがピクピクと動いており、死んではいないようだ。


 暫くすると目を開け、起き上がるとこちらを睨み付けた。

 なんとタフな暗黒竜ダークドラゴンだ。


 そして、こちらに向かって大きな口を開け咆哮した。

「痛てぇ~な、何しやがるんだ~、人間の分際でぇ~」


 オレには、確かにそう聞こえたのだ。

「あれ?、あの暗黒竜ダークドラゴン、なんか、喋ってる…」


「えっ?、暗黒竜ダークドラゴンが喋るわけ無いでしょ…」

 ジェスティーナはそう言うが、確かにそう聞こえたのだ。


 しかし、オレには思い当たることが1つあった。

 そう言えば『英知の指輪』に異言語理解のスキルがあった筈だ。

 もしかして、そのスキルが機能したのかも知れない。


 オレはステータス画面を表示させた。

『マルチリンガル(自動言語翻訳)レベル5』

『最大8つの言語の理解と読み書きができるスキル』

 マルチリンガルの詳細設定を開いた。

 するとそこには言語一覧があり、その中の1つにこう書いてあった。

『古代ドラゴン語』New!

 暗黒竜ダークドラゴンの咆哮を聞き、オレはいつの間にか古代ドラゴン語を習得したのだ。


 オレは、飛行船の外部スピーカースイッチを入れ、マイクに向かって『古代ドラゴン語』で話しかけた。


 ※以下、古代ドラゴン語

「お前は、なぜオレたちの領地を破壊するのだ」

 オレがマイクに向かって何やら吠え始めたのを見て、傍らにいたジェスティーナ始め女性たち一同は、目を剥いて驚いた。


 それよりも、もっと驚いたのは当の暗黒竜ダークドラゴンであった。

「な、なにぃ~、お前、 俺の言葉が解るのか?」


「解るぞ、女神フィリア様から与えられたスキルだからな」


「けっ、何を言ってやがる。

 女神フィリア様が人間如きにスキルを与える筈は無かろう」


「だが、現にこうしてスキルを使っているではないか」


「ふん、それなら証拠を見せろ、証拠を!」


 オレと暗黒竜ダークドラゴンのガオガオと叫び合っているにしか聞こえないやり取りを、ジェスティーナたち女性陣は、ぽかんと口を開け見守っていた。


「よし、それなら証拠を見せてやろう」


 オレは飛行船を着陸させて、タラップから地上に降り立った。

 そして右手に付けた『英知の指輪』を掲げてこう叫んだ。

「これが、その証拠だ!」


 その瞬間『英知の指輪』は七色の輝きを放ち、まばゆい光が辺りを包み込んだ。


「そ、それは、まさしく『英知の指輪』…

 う~む、信じられぬ。

 だが、確かにお前は、女神フィリア様の加護を受けた者のようだ……」


「解かったか!

 ならば問う。

 お前は、何故オレの領地を破壊したのだ」


「そ、それは…

 俺様の安眠を妨害したからに決まってるだろ。

 ここ最近、地下を掘る音が煩うて、ゆっくり寝ておれんかったのだ。

 それにあの小賢しきワイバーンどもが、オレの縄張りを荒らすのを見過ごせなかったからだ」


 あ~、なるほど…

 エネジウム鉱石を採掘するのに、ここ数ヶ月間、地下を採掘していたから、その音が煩くて目を覚ましたのだろう。

 それにナツナとミナモの飼っているワイバーンの気配を感じて反応してしまったようだ。


「そうか、それは悪かったな。

 だが、オレたちは神域には入っていないし、女神フィリア様からこの領地を与えられ、エネジウム鉱石の採掘許可も頂いているのだからな」


「なに?、女神フィリア様のお許しがある?

 そ、そんな馬鹿な……」

 暗黒竜ダークドラゴンは、明らかにたじろいでいるように見えた。


「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…

 お仕置きされるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~!」


 暗黒竜ダークドラゴンは、大粒の涙を目に溜め大声で泣き始めた。

 デカい図体を小刻みに震わせ、震えているではないか。


 それと同時に空一面に暗雲が立ち込め、ゴロゴロと雷が鳴り雨が振り始めた。

 やがて雨は激しくなり、それも尋常の量ではない集中豪雨となった。

 森や畑で燃え盛っていた火災は、バケツを引っくり返したような豪雨で、あっという間に鎮火した。


 オレは豪雨を避け、船内に避難しハッチを閉めた。

 その瞬間、激しい稲光いなびかりが空を駆け巡り、雷鳴が響きわたると巨大な雷束が暗黒竜ダークドラゴンを直撃した。

 この世の終わりかと思わせるほどの巨大な雷束と鼓膜が破れるくらいに大きな雷鳴が二度三度と鳴り響くと暗黒竜ダークドラゴンを何度も直撃し、その爆風で辺り一面の物をなぎ倒した。

 飛行船『空飛ぶイルカ号Ⅱ』は再び、防御バリアを展開し、その爆風から保護してくれた。


 暫くすると暗雲は去り、嘘のように雨は止んだ。

 そして日差しが戻ると快晴の空となった。


 暗黒竜ダークドラゴンを見ると、その周囲を含め真っ黒焦げになっており、ブスブスと燻っていた。

 流石の暗黒竜ダークドラゴンも絶命したであろう。

 正に天罰が下ったかのような様相ありさまだ。

 暗黒竜ダークドラゴンを中心に同心円状に爆風の跡がくっきりと残っていた。


 しかし、何故暗黒竜ダークドラゴンを巨大な雷が何度も直撃したのであろう。

 オレには思い当たる節があった。


暗黒竜ダークドラゴン、雷に打たれちゃったね…

 それで、結局、どうなったの?」

 ジェスティーナがオレに説明を求めた。


「ん~、要約すると……

 オレたちのエネジウム鉱石掘削工事で安眠を妨害されたのと、ナツナとミナモのワイバーンが縄張りを荒らしたと思い込み、暗黒竜ダークドラゴンが勝手にキレて殴り込みに来たって云う感じかな~」


「えぇぇ~、そんなのありぃ?」

 そんなやり取りをしていると、オレのスマホが鳴った。


 案の定、電話してきたのは女神フィリアである。


「もしもし、カイトです~」


「あ、カイトくん…

 うちのポチが迷惑かけちゃって、ゴメンね~」


「ぽ、ポチですか?」


「そう、うちの番竜ばんりゅうの名前なんだけどね。

 あいつ、悪い奴じゃないんだけど、思慮が足りないというか、短気というか。

 たまに問題起こしちゃうのよね~」


 女神フィリアの話によると、番犬ならぬ番竜のポチ(正式名:ポセイディアス・チザルトヴォルグ・ダークドラゴニウス、略してポチ)は、神域の守護者として1万年以上もの長きに渡り、この一帯に睨みを利かせ、普段はミラバス山の火口の奥深くに棲み、眠っているそうだ。

 人間と同等以上の高い知性を持ち、目覚めている時は理知的でまともだが、寝起きが悪く、特に安眠の邪魔をするとキレて破壊行為に及ぶこともあるそうだ。


「なるほどね~、それで神域に近づくなって、言ってたんですね。

 それだったら、暗黒竜ダークドラゴンがいるから起こさないように気を付けろって、言ってくれたら良かったのに」


「いや~、それ話すと、みんな怖がるかな~って思ってね。

 敢えて言わなかったんだよ。

 神罰与えておいたから、勘弁してやってね」


「え、でもあいつ、雷直撃して死んじゃったんじゃないですか?」


「いやいやいやいや、大丈夫!

 あいつ、そんなやわな奴じゃないから…

 2~3日は、死んだふりして動かないと思うけど、その内起き上がってねぐらに逃げ込む筈よ…」


 暗黒竜ダークドラゴンは、オレの想像を遥かに超えたタフな奴のようだ。


「そ、そうなんですか……

 でもフィリア様、勘弁してくれって言われても、それは無理ですよ。

 ここまで破壊されると、うちのリゾート、営業できないですから。

 第一、上下水道も電気も使えないから、人も住めないですし…

 どうしてくれるんですか?」


「う~ん、だから謝ってるでしょ」


「フィリア様、世の中には謝って済むことと済まないことがあるんですよ…

 ポチってフィリア様の番竜ばんりゅうって言ってませんでしたっけ?

 と言うことは、ポチの飼い主として責任がありますよね」


「ま、まあ、そう言うことになるかな…」


「それなら、飼い主として、しっかりと責任取ってくれますよね、フィリア様!」


「だいじょぶ、だいじょうぶ…

 ちゃんと、責任取るからさ、あはははは…」


「その言葉に、二言は無いですね!」


「う、うんうん。

 ちゃんとするからさ、心配しなくていいよ」


「分かりました。

 それじゃあ、これから被害状況を調査して、後で報告しますから」


「了解、それじゃ、カイトくん、またね~」

 女神フィリアは逃げるようにして電話を切った。

 これほどオレから追求されるとは、思っていなかったのだろう。


 オレたちは、とりあえず完成したばかりの公爵領公邸に避難する事にした。

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