第249話 3王国合同軍事裁判

 その日、オレは『ゲート』を使ってフォマロート王国の王都にあるエルサレーナ宮殿へ飛んだ。 

 フォマロート王国に捕縛監禁されているゴラン帝国皇帝と重臣10名の罪状を明らかにし、量刑を決める『3王国合同軍事裁判』に出席するためである。


 出席者は下記の通りである。

 ◎フォマロート王国

  元首代行   リアンナ王女

  軍務大臣代行 ベルガー将軍

  外務大臣代行 ミューレン将軍

  内務大臣代行 サンドバル将軍

 ◎アプロンティア王国

  軍務大臣   シュトラーゼ伯爵

  外務大臣   ライゼン子爵

 ◎ソランスター王国

  軍務大臣   リーン伯爵

  情報大臣   シュテリオンベルグ伯爵


 開会に当り、リアンナ王女が挨拶した。

「皆様、本日はお忙しい中、遠路はるばるお越し下さいまして、誠にありがとうございます。

 本日は、我が国並びに同盟国へ侵略戦争を仕掛けたゴラン帝国指導層の軍事裁判でございます。

 この裁判は軍事裁判でありますので、被告人の戦争責任を明確にし、その罪状を審議し、刑を確定する場でございます。

 限られた時間ではございますが、審議のほど宜しくお願い致します」


 最初の被告人であるゴラン帝国皇帝ミアゲーテ・ゴラン4世は、手錠を掛けられ、両脇を兵士に抱えられ、ふてぶてしい表情で登場した。


 最初にリアンナ王女が罪状を読み上げた。

「被告人ミアゲーテ・ゴランは、ゴラン帝国皇帝と言う地位を利用し、自国の軍隊7万2千名に命じ、我がフォマロート王国に侵略戦争を仕掛けた。

 また3年以上も前から多数の秘密工作員を我が国に不法に潜入させ、サルーテ将軍並びにロズベルグ公爵を調略し、クーデターを起こさせた。

 我が国に侵攻したゴラン帝国兵は、罪もないフォマロート王国民を捕縛し、拷問の上、3千名余りの民を死に至らしめ、更には罪もない婦女子を暴行凌辱した。

 また、民家に押し入り、破壊略奪の限りを尽くした。

 更には、クーデター発生時、王宮にいたフォマロート国王、王妃、王太子を始めとする王族全員を…、サルーテ将軍に命じて死に追いやった……」

 リアンナ王女は、言葉を詰まらせながら、言葉を続けた。

「以上があなたの罪状です。

 ゴラン皇帝、何か言う事はありますか?」


 そこまで黙って聞いていたミアゲーテ・ゴランが口を開いた。

「何か言うことも何も、これが裁判と言うなら、余の弁護人はどこにおるのだ?」


「皇帝、何か勘違いしているようですが、これは通常の裁判ではなく、軍事裁判です。

 罪状を明らかにし、刑を決めるための場ですから、弁護人は必要ないのです。

 ただ単に刑を言い渡す前に発言の機会を与えているだけです」


「そ、そんなの裁判じゃないぞ…

 よ、余を誰じゃと思っておる。

 ゴラン帝国皇帝ミアゲーテ・ゴランなるぞ」

 ゴラン皇帝は、自分の威光を示し、如何に偉大な皇帝であるか捲し立てたが、聞く耳を持つ者は誰もいなかった。


「御託は、それだけですか?

 他に言うことが無ければ、審議に入りますが、宜しいですか?」


「か、勝手にしろ!」


 審議の結果、ミアゲーテ・ゴラン皇帝は、フォマロート王国他3王国へ対する侵略戦争の首謀者と認定され、死刑が言い渡された。

 他10名の重臣も審議の上、全員に死刑が言い渡され、刑は即日執行された。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 その夜、エルサレーナ宮殿の小ホールに於いて慰労会が開かれた。

 メンバーは『3王国合同軍事裁判』の出席者8名である。


 大きめの円卓を囲み、開会に当たりリアンナ王女が立ち上がり挨拶した。

「皆様、長い戦が終わり、罪人たちの刑執行にも終わり、ようやく平穏な時を過ごせるようになりました。

 これも偏に、この場にいらっしゃる皆様方のお陰でございます。

 特に、シュテリオンベルグ伯爵には、公私に渡り一方ならぬお世話になりました。

 この場を借りしまして、お礼申し上げます」

 リアンナ王女は一同に対し、深々と頭を下げた。


「しかし、戦後処理は、これだけではありません。

 これからは、復興という長い長い道が続いています。

 遥かに遠いゴールではございますが、皆様方のお力をお借りして一歩一歩着実に進んで参りたいと存じますので、ご支援ご協力のほど宜しくお願い申し上げます」


 リアンナ王女の挨拶が終わると、スパークリングワインが注がれたフルートグラスが全員に配られた。

「乾杯のご発声を、シュテリオンベルグ伯爵にお願いしたく存じますが、宜しいでしょうか?」

 リアンナ王女の突然の指名に、オレは少々戸惑ったが、断ることも出来ないのでステージへ上がった。


「ご指名でございますので、乾杯の発声をさせていただきます。

 フォマロート王国は、ゴラン帝国の侵略、それに呼応した反逆者によるクーデター勃発と言う未曾有の危機をようやく乗り越えました。

 しかし、先ほどリアンナ王女も申されたように、これからは復興と言う辛く長い茨の道が待っています。

 千里の道も一歩からと言う諺がございますが、地道な努力が身を結ぶと私は信じております。

 私どもソランスター王国は、私個人を含め、フォマロートの友人たちに最大限の支援をお約束致します。

 3王国で力を合わせ復興を完成させ、豊かで暮らし易い国にして参りましょう。

 それでは乾杯致します、皆様グラスをお持ち下さい。

 フォマロート王国、並びにアプロンティア王国、ソランスター王国の一層の繁栄を祈念して、カンパーイ!」


 オレがグラスを掲げると、隣同士や近くの人とグラスを合わせる「キン」と言う音が辺りに響いた。

「いや~、シュテリオンベルグ伯爵は、流石ですなぁ」

 そう言ってきたのは、シュトラーゼ伯爵であった。


「え、何がですか?」


「乾杯の挨拶のことです。

 即興で、あれほどの挨拶ができるとは、流石に慣れていらっしゃいますなぁ」


「あ~、あれですか?

 ほとんど、口から出任せですよ」

 そう言えば、オレも色々な場面で挨拶する機会が増え、場数を踏んでいるので突然指名されても困らないようになってきたのは確かである。


「えっ?、それでは『最大限の支援をします』と言うのも出任せですか?」

 そう聞いてきたのは、リアンナ王女であった。


「いや、あれは本当ですよ。

 心から、思っていたことが口から出ただけですから…

 信じて下さい」


「分かってます。

 揶揄っただけですから…」

 リアンナ王女は、悪戯っ子のように笑った。


「今夜は、今ご用意できる限りの最高の食材をご用意致しましたので、どうぞお召し上がり下さい」

 テーブルには、フォマロート王国の郷土料理を中心にたくさんの美味そうな料理が並べられていた。


「アクアスターリゾート滞在中は、本当にお世話になりました。

 戦争の真っ最中に、温泉に入らせてもらって良いのかしらと思いましたが、今思えば、アクアスターリゾートの皆様のお心遣いと温泉に心の傷を癒やされたのだと、後で思い知らされました。

 ジェスティーナ王女殿下、アリエス王女殿下、フローラ王女殿下、それとスタッフの皆様にも改めてお礼を申し上げたいので、近い内にお邪魔したいと考えているのですが、宜しいでしょうか?」

 リアンナ王女は、改めてオレに礼を言った。


「はい、いつでもお待ちしております」


「ほぉ~、温泉ですか?」

 近くで話を聞いていたサンドバル将軍が話に加わってきた。


「はい、私の領地に3つの源泉がありまして、それぞれ泉質が違うのです」

 オレは、湖畔の湯、森の湯、天空露天風呂の話をした。

 湖畔の湯は混浴であると話すと、男性陣の目の色が変わった。

「こ、混浴ですか?」

 ミューレン将軍が身を乗り出してオレに確認した。


「はい、源泉かけ流しで、24時間入り放題ですから、仕事終わりのウチのメイドなども入りに来ます」


「そ、それは良いですな~、私もぜひ入ってみたいものです」

「しかし、伯爵の領地に陸路で向かうとすれば、少なくとも2週間以上掛かるし、時間短縮できる交通手段があれば良いのだが…」

 そう言ってオレの方を見たのはミューレン将軍であった。


 暗にオレに飛行船で迎えに来いとでも言いたげである。

「その時は、飛行船でお迎えに上がりますよ」


「おぉ、それは願ったり叶ったりです。

 私も、前から飛行船に乗ってみたいと思っていたのです」


「そうだ、この機会に飛行船の定期航路を開設すると言うのはどうでしょうか?」


「ほほぉ、それは良いアイデアですな」


「その定期航路の話、我が国も加えていただけませんか?」

 そう言ってきたのは、アプロンティア王国外務大臣のライゼン子爵であった。


「そうですか…

 思ったよりも需要が有りそうですので、帰国したらクラウス国王と相談してみます」

 3王国間の飛行船による定期航路開設は、言うなれば国際線の参入であり、願ってもないビジネスチャンスだ。

 

「我が国もレオニウス陛下に奏上して勅許を得ますので、ぜひとも定期航路を就航させて下さい」

 ライゼン子爵は真剣な眼差しでオレに訴えた。


「フォマロート王国も正式に定期航路の開設を要望致しますわ」

 リアンナ王女も、オレの手を取り真剣な目で訴えた。


「わ、分かりました。

 帰国次第、前向きに検討します」


 それから2時間ほど、色々な話に話が咲き、慰労会は8時半にお開きとなった。

 オレは、そのまま『ゲート』で帰ろうと思ったが、リアンナ王女が客間を用意したと言うのでエルサレーナ王宮に1泊することにした。


 部屋へ戻り、シャワーを浴びて寝ようと思っていたら、ドアをノックする音が聞こえた。

 オレはガウン姿のままで応対に出ると、ドアの前に立っていたのはリアンナ王女だった。

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