第190話 『ゲート』を使ってみた

 領都エルドラードでの予定が終了し、王都経由でアクアスター・リゾートへ戻る日となったが、その前にオレにはやるべき事がある。


 それは、異空間転移スキルの出入口である『固定ゲート』の設置である。

 飛行船で再び領都に来るのは、1ヶ月後の予定なので今日を逃すわけには行かないのだ。


 サエマレスタ・リゾートを早めにチェックアウトし、ジェスティーナたちがショッピングモールで土産物を選んでいる間に、オレ一人でエルドラード市庁舎の領主執務室に来たのだ。


 今の内に固定ゲートを設置してしまおうと考えていた。

 領主執務室内にある居間の壁に向かって『ゲート・インストレーション』と呪文を唱えると、固定ゲートが設置された。

 設置自体は実に簡単で、10秒もあれば完了する。

 これで、いつでも好きな時に領主執務室に来ることが出来るのである。


 ドアプレートを良く見ると、名称を変更できるようになっていた。

 『固定ゲート1』では分かりにくいので『エルドラード市庁舎領主執務室』に変更しておいた。

 これで行き先を間違えないだろう。


 その後、ジェスティーナたちと合流し、市庁舎屋上の飛行船ポートから『空飛ぶイルカ号Ⅱ』に乗り、王都へと向かった。


 その日の天候は快晴で、雲もなく眼下に広がる山や川、緑の森、その中を縫うように続く道がハッキリと見えた。

 オレは飛行船で旅をしながら、空から景色を眺めるのが好きだったが、ゲートを使うようになると、こうして飛行船上からノンビリと景色を眺める機会も減るであろうと、少し寂しさを感じた。


『空飛ぶイルカ号Ⅱ』は3時間半の空の旅を終え、王都の王室庭園中央広場に着陸した。

 オレは、所用があるとジェスティーナたちを王宮へ残し、そのまま情報大臣公邸へ向かった。

 目的はもちろんゲートの設置である。

 中へ入ると執事のピオーネがオレを迎えた。

「ご主人さま、お帰りなさいませ」


「ピオーネ、何か変わったことは無かったかね」


「はい、指示されておりました面会の日時が確定致しました」

 それは、オレが指示していた20数件に及ぶ面会の日時を先方に伝えたとの報告であった。


「その後も10件ほど、面会申込みが入っておりますが、如何なさいますか?」


「ん~、流石さすがに今月は予定が一杯だから、来月に廻してもらおうかな」


「はい、畏まりました」

「それでは、その旨、先方にお伝え致します」


「うん、宜しく頼む」


 オレは、一人で公邸執務室の隣りにある居間に入り『固定ゲート』を設置した。

 ゲートの名称は『王都フローリア公邸執務室』である。


 その後『秋桜の館』に寄り、居間に『固定ゲート』を設置した。

 このゲートの名称は『秋桜の館リビング』でいいだろう。


 後は、アクアスター・リゾートの居住専用スペースに『固定ゲート』を設置すれば、一連の作業は完了だ。


 アクアスター・リゾートへ帰る飛行船の中、オレは『ゲート』について公表することにした。

 何れにせよ『ゲート』を使い始めれば、異空間転移スキルの事は、みんなの知るところとなるからだ。

 それに、今ここにいるのは、オレの信頼できるスタッフだけだから好都合だ。


「みんなに重大発表がある」


「え、突然重大発表ってなんなの?」とジェスティーナ。


「実は、新しい能力スキルが使えるようになったんだ」

 オレは、ジェスティーナたちに異空間転移スキル『ゲート』のことを説明した。


 女神から与えられた『英知の指輪』のスキル『ゲート』を使えば、どんなに離れている場所でも、瞬時に移動できること。

『ゲート』が設置できるのはオレだけであること。

『自由ゲート』を使えるのはオレだけで、『固定ゲート』は『天使の指輪』を持つ者が使えること。

 既に領都1ヶ所、王都2ヶ所に設置したことを明かした。


「なるほどね。

 それで私を放ったらかしにして、コソコソしていたのね」とジェスティーナは手厳しい。


「ゲートって『天使の指輪』を持ってない人は通れないの?」


「大丈夫、ゲートが開いている内なら通れるよ」


「へ~、それは便利ね。

 ドアを開けると、すぐに王都と云うのは、とても助かるわぁ。

 うちの実家にも『固定ゲート』付けてくれないかしら?」とアスナが云う。


「ん~、確かにアスナの自宅に付けたら、仕事上便利かも知れないけど…

 それは、ちょっと考えさせてくれないかな」

 それを聞き、アスナは不服そうだったが、仕方ない。


「帰ったら、早速ゲートを試してみよう」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それから1時間余りで『飛行船空飛ぶイルカ号Ⅱ』は、アクアスター・リゾートの飛行船ポートに到着した。

 ハッチが開き、タラップが自動で接地すると、いつものようにローレンとソニア、メイド達12名の他、支配人のエミリアも出迎えてくれた。

 そして「お帰りなさいませ~、ご主人さま」と全員で声を揃えて挨拶してくれた。


「ただいま、出迎えありがとう。

 留守中、何か変わったことはなかったかな?」


「はい、何点かございますので、打ち合わせさせていただきたいのですが…」

 そう言ったのはローレンであった。


「了解、それじゃ30分後に11階のダイニング・ラウンジに集合で…」

 オレはそう言い残して12階の専用居住スペースへ向かった。

 打ち合わせ前に固定ゲートを設置しようと思ったのだ。


 『英知の指輪』の性能を疑うわけでは無いが、本当に1600kmも離れた領都に一瞬で移動できるのか、すぐにでも試してみたかったからだ。

 専用居住スペースのリビングで、マニュアル通りの呪文を唱えると『固定ゲート』の設置が完了し、名称を『アクアスター・リゾート自宅』に変更した。

 その様子をジェスティーナ、アリエス、アスナ、サクラ、ソフィアと護衛たちも一緒に見ていた。


 あとは『ゲート・オープン』と呪文を唱えれば、固定ゲートが開くのだが、ただ単にドアノブを引くだけでもゲートは開くのだ。

 もちろん、固定ゲートが見えてドアノブにれられるのは『英知の指輪』また『天使の指輪』(もしくは『女神の指輪』)を持つ者のみである。


 試しに確認してみる。

「ここにドアがあるのが見える人、手を上げて」

 オレがそう言うとジェスティーナ、アリエス、アスナが手を上げた。

 いずれも『天使の指輪』保持者である。


「カイト様、私には何も見えませんが、そこにドアがあるのですか?」とサクラが言った。


「ああ、サクラには見えないだろうが、ここにドアがあるんだよ」


 そう言うとサクラは信じられないと言った顔をした。


「サクラ、これを付けてみて」

 オレはサクラに予備用に持っていた『天使の指輪』を渡した。


 サクラは『天使の指輪』を受け取り、指につけた。

 すると、今まで無かったお洒落なドアが見えるではないか。


「カイト様、ドアが見えます…」


 全員分の『天使の指輪』は用意していないので、オレはゲートを開けてみせた。

 すると、何もない壁に突如として入口が現れ、中に白い部屋が見えた。

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