第143話 二人の女神と妖精族

 その夜、オレたちは女神フィリス、女神フィオナと会食した。

 メインダイニングに8人掛けの円卓をセットしてもらい、ホスト側はオレ、ジェスティーナ、アスナ、サクラ、スーの5名。

 スーは女神2人から異世界テクノロジーを学ぶ予定なので、その顔合わせを兼ねて同席させたのだ。


 女神フィオナは、真紅に金の刺繍の入ったチャイナドレス。

 女神フィリスは、純白に銀の刺繍が入ったチャイナドレス。

 二人とも妖艶な色香を漂わせていた。

 ジェスティーナは、スカイブルーのイブニングドレス。

 アスナは、コバルトグリーンのイブニングドレス。

 サクラは、コーラルピンクのカクテルドレス。

 今日は3人とも着飾って目一杯オシャレしていた。

 眼を見張るような美女が5人もいるテーブルは、当然の如く注目を集めた。

 スーも純白に金の縁取りの可愛いドレスに、長い金髪のツインテールが、いつもに増して可愛く見える。


 今日の料理は中華のフルコースである。

 女神が着ているチャイナドレスに合わせた訳では無いが、次々と運ばれてくる中華料理にみんな舌鼓したつづみを打った。

 12種類の飲茶やむちゃに始まり、麻婆豆腐、海老のチリソース煮、2種類の火鍋、北京ダック、青椒肉絲チンジャオロースー、炒飯、酢豚、回鍋肉と続く。


「うわ~、中華って初めて食べたけど、すっごく美味しいわね」と女神たちが感激している。


 チャイナドレスを着ているのに中華料理は初めての女神って……とオレが思ったのは内緒だ。


 その豪華料理を味わいながら、オレは女神に聞いた。

「湖畔の温泉はどうでしたか?」


「ええ、とても良いお湯でした。

 なんか、染みる感じのお湯で、気に入ったわ」


「そうですか、ありがとうございます。

 湖畔の湯は混浴だったと思いますが、気になりませんでしたか?」


「えっ、そうなの?

 女の人ばかりだと思ってたわ

 でも私たち、そう言うの気にしないから大丈夫よ」

 あのメイドは肝心なことを伝え忘れていたようだ。


「それにしても、まさか女神様自ら来ていただけるとは、思いませんでした」


「いいのよ、ちょうどフリーだったし、フィリアの依頼だから断れないのよ」


「あれ、女神一族ってパラレルワールドを管理してるんですよね」


「そうなんだけど、対象が限られてるから、管理者は収益ランキングで決まっちゃうのよ」


「え?、収益ランキングですか」


「女神一族で1人いくら稼いだかを競う『収益ランキング』があって、上位をキープしないと閑職に回されちゃうのよね~。

 今の私たちのように」


 女神フィリスの話によると、180のパラレルワールドを1単位として管理者が任命されているが、その管理を任されるのは収益ランキング優秀者の上位555名だけと言うことだ。

 もちろん、パラレルワールドの管理者には数々の特権が付与されるので、収益を上げるには自ずと有利なわけだ。


 その『収益ランキング』で、女神フィリアがダントツの1位なのだ。

 恐らくパラワショッピングやパラワネットワーク、異世界宅配便などを始めとする多角経営で儲けているからだ。


 女神一族には999人の女神がおり、その内444人が管理者になれず、サポートに回されていると言う。


「フィリアは、面倒見はいいし、悪いじゃないんだけどね~、人使いが荒いのよね」

 それは、確かにいつも聞かされる話だ。


 女神一族は全て従姉妹いとこで、女神フィリアは、一族の中でも一番若いのだと言う。

 一番若いと言うが、いったい何歳なのかは聞かないで置いた。


「そういう訳で、私たち2人はフィリアに命じられて、ここに来たの」


「そうなんですか、女神さまも色々と苦労されてるんですね」


「でも、今回の仕事は悪くないわね。

 こんな美味しい食事が毎日いただけて、温泉入り放題なんだから」


「その代わり、ご指導の方も宜しくお願いしますね。

 そうだ、この子、スーって言うんですが、まだ小さいけど、『リトルジーニアス』って呼ばれるくらい優秀なんですよ。

 スー、女神様にご挨拶して」


「女神さま、スーだよ、よろしくね」


「へ~、まだこんなに小さいのにね~、天才だなんて…

 あら?…、でもあなた、もしかして妖精族じゃない?」


「えっ、妖精族って?」


 スーは、ん?というような顔をしている。

「間違いない、あなたは妖精族ね。

 しかも、もう成人してるじゃない」


「せ、成人って?」


 女神フィオナによると、妖精族は正式には『幼成族』と呼ばれる希少な一族で、人の2倍早く成熟し、8歳で成人すると言われている。

 身長は120cm前後、体重は25kgほど、人間で言えば8歳位の見た目で成長が止まり、幼い姿のまま一生を終えると言う。


 寿命は人間とほぼ同じ。

 妖精のように純真無垢な姿かたちから『妖精族』の異名で呼ばれている。

 論理的な思考で頭脳明晰、成熟すると生殖器も完全に機能する状態になると言う。


「ちぇ、バレちゃった。

 あ~あ、女神のオバさん、なんでバラしちゃうわけ……

 お兄ちゃん、もう少し騙して遊べると思ったのになぁ」

 スーの口から今まで聞いたことのないような毒舌が吐かれた。


「へ?」

 その言葉を聞いて、オレは空いた口が塞がらなかった。

 純真無垢で天使が舞い降りたように可愛い金髪ツインテールのスーが成人してる?

 確か12歳と聞いていたから、もうとっくに成人していることになる。


「スー、妖精族って話、ホント?」


「そうよ、女神様の仰る通り、私は妖精族なの。

 さすがは女神様、何でもお見通しね」


 『天使のように純真無垢で可愛い幼女』としか思っていなかったスーが、実はもう成人した大人の女だったとは。


 その話を聞いてジェスティーナもアスナもサクラも一様に驚いていた。


「あ~あ、これでもう、お兄ちゃんにレスリングだとか言い訳させて、揶揄からかえなくなっちゃった」


 その言葉で、オレはあることを思い出した。

 ある日、オレとサクラがベッドの上で組んずほぐれつの愛の営みに集中している時のことだった。


 隣の部屋でパソコンに夢中になっていたスーのことを、オレはすっかり忘れていたのだが、いつの間にかベッド脇で頬杖付いて、あどけない表情でオレたちにこう言ったのだ。

「お兄ちゃんとお姉ちゃん、何してるの~?」


 薄暗い中、誰も居ないと思っていたのに、スーに突然声を掛けられ、オレとサクラは飛び上がるほど驚いたのだ。


 その時、パニくって咄嗟に閃いた言い訳をオレは口にしたのだ。

「えっとね、お兄ちゃんたちは、今レスリングしてるんだよ。

 スーは、レスリングって言うスポーツ知ってるかな~?」


 何してるの~、と言うスーの言葉は、オレたちが何をしているか知った上で、純真無垢な幼女のフリをして聞いたと言う事だ。


 サクラを見ると彼女もオレと同じことを考えていたようで、頬を抑え、耳まで真っ赤にしていた。


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、大丈夫よ。

 レスリングのことは、秘密にしてあげるから」


 スーが何を言っているのか、オレとサクラ以外は、理解できないのは当然のことだ。

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