第25話 カイト、カミングアウトする
堪りかねた当主は大声で言った。
「別の世界?、嘘も大概になさい!
冗談にも程がある」
そう言って
「嘘じゃありませんよ、証拠をお見せしましょう」
リカール・バレンシアに異世界から転生した人間であることを信用させるには、元いた世界の技術水準を示すしかない。
今、唯一見せられる異世界技術、それは『アウリープ号』だけだ。
「私がストレージに格納しているモノを、ご覧いただければ、ご納得いただけると思います。
しかし、ここでは家具や調度品を壊してしまうので、どこか広い場所をお借りしたいのですが…」
「それほど仰るのなら、その証拠とやらを見せていただきましょう。
ここで宜しいですかな?」
バレンシア
当主は少し離れた場所から
オレは覚悟を決め、異空間収納からアウリープ号を取り出して
そして絞り出すような声でオレに聞いた。
「な、なんですか、これは?」
「これは中に人が乗り、馬で
オレはドアを開け、運転席に乗り込み、エンジンを掛けた。
低く小気味の良いエンジン音が
鳩が豆鉄砲を食らったと言う言葉があるが、今の当主がまさにその状態だろう。
「ご当主様も乗ってみませんか?
宜しければお嬢様も」
ソニアが後席のドアを開けると、当主が恐る恐る乗り込んできた。
アスナは反対のドアから乗り込んだ。
「この広さじゃ、
そう言ってシフトレバーをDレンジに入れて、ゆっくりと走りだした。
「う、動いている、信じられん、馬も牽いてないのに…
この乗り物はどうやって動いているのだ?」
「エンジンと言う動力装置で車輪を動かし、燃料は水を燃やしています」
「み、水を燃やす?、そんなこと出来る筈が無い」
当主は目を白黒させてオレの言葉を理解できない様子だった。
「このエンジンという物が、車輪を回転させて走らせるのか」
商売をやっていて、常に新しい物を見聞きしているので理解は早いらしい。
「そうです、簡単に言うと、このエンジンの中で水を分解して爆発させて、その力を車輪に伝えて回転させているのです」
「ほ~、なるほど、これは実に画期的な技術だ」
どうやら何となく理解してくれたようだ、やれやれ。
それから暫くは、当主が次々と質問してきて、それに答えるだけでも大変だった。
当主の質問に、ひと通り答え終わると、ようやく納得した様子だった。
「確かに、これはこの世界の物では無いようだ。
あなたの仰ることを信じましょう。
しかし、どのようにこちらの世界へ来られたのですか?」
「え~っと、これは言っちゃっていいのかな~?」
ソニアの顔をチラっと見ると、頷いているので大丈夫なようだ。
何せ、ソニアは女神様の直属の部下(らしい)なのだから。
「実はあちらの世界で事故で死んだのですが、女神フィリア様の力で、元の世界の記憶をもったまま、こちらの世界へ転生させてもらったんです」
そう言うと、またまた
オレは転生してからの出来事を掻い摘んで説明した。
黙ってオレの話を聞いていた
「すると、ハヤミ様は女神様から賜わった白亜の館で暮らしておられるのですね…
その領地で薬草やハーブ、スパイスを栽培されポーションも作っておられると…
ということは、ハヤミ様は女神様から領地を拝領した領主様なのですね」
とアスナが興奮気味に言った。
「言うなれば、女神フィリア様がハヤミ様の後ろ盾ということになりますなぁ。
なるほど、この世界に、これ以上の後ろ盾はございません。
当商会は喜んでハヤミ様とお取引させていただきます。
どうか、末永くお取引のほど宜しくお願い致します」
そう言うとバレンシア商会当主はオレに握手を求めてきた。
そしてアスナも同様に全員と握手した。
「今日は良い縁を結ばせていただきました。
このご縁を下さった女神様に感謝しなければ…
それにしても、ハヤミ様が異世界からの転生者とは、
当主は、未だに信じられないと言った表情だ。
「この事が大っぴらになると何かと支障がありますので、どうか内密に」
オレは当主に釘を刺しておいた。
オレたちは応接室に戻って取引の話を詰めた。
バレンシア商会はトリンが作ったポーションの品質を高く評価し、全数買い取ってくれた。
提示額はポーションと薬草、ハーブ、スパイスを合わせ、金貨120枚だった。
日本円に換算すると1200万円くらいの価値だ。
予想よりも高値の評価だったので、その金額で契約することにした。
バレンシア商会とは継続的売買契約を締結することで合意した。
今後の取引は、後日改めて打ち合わせすることとなった。
取引は無事成立したが、懸案事項がもう一つ残っていた。
「ところで、ひとつご相談があるのですが」
「どうぞ、何なりとお申し付け下さい」
「実はトリンの錬金工房には、まだ錬金釜がないので、生産効率や品質が課題でして、錬金釜を設置したいと考えております。
錬金釜は新しく造る以外、入手する手立ては無いと聞いていますが、錬金釜を造ってくれる方をご存じありませんか?」
「はい、それでしたら、同業の錬金術師に聞くのが間違いないかと存じます。
当商会で紹介状をご用意致しますので、明日にでも訪ねてみては如何でしょう」
「なるほど、それは思いつきませんでした。
それでは、明日その錬金術師を訪ねてみることに致します」
オレたちはバレンシア
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