第22話 フローリア・フェスティバル

 荷物を宿に置き、さっそく王都見物に出掛けた。

 この日は、年に一度のフローリア・フェスティバルの初日で、街は混雑していた。


 王都の路地には、たくさんの露店が出ており、珍しい品々に目移りした。

 16歳トリオの3人は、あちこちで立ち止まりながら、目を輝かせて街を見物していた。

 トリンたちが露店で買った美味しそうな餅菓子を、歩きながら食べていると、マーチングバンドの軽快な音楽が聞こえて来た。


 フローリア・フェスティバルのメインイベント「フラワーパレード」の開幕を告げているのだ。

 慌ててメインストリートまで行ってみると、既にパレードは近くまで来ていた。


 毎年、この時期に開催されるフローリア・フェスティバルは、王都のメインストリートが千種類以上のカラフルな花で飾られる。

 その中を華やかなパレードがメインストリートの突き当りにある王宮正門まで行進するのだ。


 今日は、特定の花をテーマに装飾した山車だしに「花の妖精」に扮した少女が乗り、メインストリートの見物客に笑顔で手を振っていた。

 その周りでは何人もの花娘がいて、色とりどりの花びらをフラワーシャワーにして沿道に撒いていた。


「何これ、すごくキレイ」

「え~、こんなの初めてみるわ!」

「こんなにたくさんの花、見たことない」

 16歳トリオの3人は、キラキラと目を輝かせながら、食い入るようにパレードを見ていた。


 夕方までの約3時間、フラワーパレードや露店をあちこち見物してオレたちは「踊る銀ねこ亭」に戻った。


「おかえり~、パレードは見られたかい?」と女将が出迎えてくれた。


「ああ、見られたよ…

 今まで見たこともないような綺麗なパレードだったよ

 花の妖精の娘は、みんなキレイだったし、こんなに大規模な祭りだとは思わなかったよ」とオレが感想を述べた。


「ホント、花のパレード、すっごくキレイだったよぉ」とトリンが興奮冷めやらぬ様子で続ける。


「そうだろ~、王都周辺の選りすぐりの美女が、この日のために集められるんだからねぇ。

 でも、明日はこんなもんじゃないよぉ、もっとキレイな美女が来るのさ」

 女将の話では、明日はソランスター王室の美しい3人の王女たちが『花の女神』に扮して、パレードのメインを飾るので絶対見逃さないように、とのことだった。


「もう少しで夕食が準備できるから、部屋で待っといで」

 そう言われて、部屋で休憩していると、夕食の準備ができましたと宿の使用人が呼びに来た。


 オレたちがテーブル行くと前菜、魚介のロースト、焼いたパン生地の上にチーズを乗せたピザみたいな料理、サラダ、パン、スープなどが所狭しと並べられていた。

 飲み物はオレがエール、女性たちはレモネードやジンジャーエールを注文した。


「じゃあ、夕食いただくとするか。

 王都への無事到着を祝って、カンパ~イ」


「運転お疲れさまでした~」とトリンとメイドたちが労ってくれた。


 オレたちが食べ始めると、他のテーブルにも次々と客がやって来て「踊る銀ねこ亭」は満席となった。


 1杯目のエールが空になる頃、美味そうな匂いがする料理を持って女将がオレたちのテーブルへやって来た。

 女将が王都の名物料理をサービスしてくれるらしい。


「さあ、食べとくれ、これはあたしからの特別サービスさ」

 そう言って長さ60センチほどの鉄串に刺した大きな肉の塊を持ってきて、テーブルに置いた皿にナイフで削ぎ落とし始めた。


 あれ、この料理どこかで見たことあるぞと、暫く考える。

 そして2つの料理を思い付いた。

 それはシュラスコとケバブだった。

 シュラスコは大きめの鉄串に牛や羊の肉を刺して岩塩を振って炭火で焼き、出来上がった肉の塊を厚切りで削ぎ落として食べるブラジル料理で、どちらかと言うとバーベキューに近い。


 かたやケバブはシュラスコよりも大きな肉の塊を鉄棒に刺して回しながら、じっくり焼いて、焼けた部分をナイフで薄めに削ぎ落として食べるトルコ料理だ。


『踊る銀ねこ亭』の名物料理は、その中間と言ったところか。

 女将が切り分けてくれた肉は、ジューシーで柔らかく、ハーブと岩塩がいい感じに効いてとても美味かった。


「女将、ありがとう、この特別サービスとても美味いよ。

 ここの料理、どれも美味いけど、誰が作ってるの?」


「これは、全部うちの亭主が作ってるのさ、美味いだろ。

 料理の腕だけは確かなんだよ」


「へ~、旦那さんが作ってるんだ。

 最高に美味うまい料理だって、伝えておいてよ」


「ああ、分かったよ、そう言っとくよ」


「ところで、この料理の名前何ていうの?」


「これは王都名物の『リンダーブレスト』って言うんだ、覚えとくといいよ」

 それは『じっくり焼いた肉の塊』と言う意味だと女将が教えてくれた。


 その夜は大いに飲んで食べて、満腹になったオレたちは部屋に戻った。


「ねむ~い……」

 トリンは何度もあくびして、眠そうだった。


 因みに、この宿に風呂は無い。

 風呂は街の共同浴場まで行かなければ入れないのだ。

 今日は濡らしたタオルで体を拭くだけにして風呂は明日にしよう。


 明日はポーションと薬草の売り先探しと、錬金釜が作れる鍛冶師を探さなければならない。

 長旅の疲れも手伝って、その夜オレたちは早めにベッドへ入り、朝までぐっすり熟睡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る