第113話 リゾートのプレオープン(3)

 午後5時から始まったウェルカムパーティには招待客ゲストの他、オレの新たなブレーンも参加した。

 メインダイニングのステージ上には『祝!アクアスター・リゾート開業』と書かれた大段幕が掲げられてプレオープンを演出していた。


 メインダイニングには4つの大きな円卓に椅子が6脚ずつのセットされており、出席者が最初に座る席だけ決められていた。


 このウェルカムパーティには、ひとつだけルールがあり、同じテーブルにとどまれるのは最長30分で、30分ごとに指定された席へ移動しなければならないのだ。


 そうすることで、多くの出席者と交流することができると言うサクラが考えたアイデアである。

 どこぞの婚活パーティのようなシステムだが、『出席者が交流を深めるには効果的』とサクラが言っていた。


 出席者全員が揃ったところで、サクラが『開会の挨拶をお願いします』とオレに言った。

 挨拶は苦手なので、避けたいところだが、今回はそう言うわけにも行かず、オレは渋々ステージに上がった。


「皆様、こんばんわ、このリゾートの総支配人を務めますハヤミ・カイトです。

 本日は当リゾートにご宿泊下さいまして、誠にありがとうございます。


 3ヶ月間の準備期間を経て、本日開業することができましたのは、ご出席の皆様、並びにスタッフ一同のお陰です、重ねてお礼申し上げます。

 さて、アクアスター・リゾートは湖と森に囲まれ、幸運なことに温泉にも恵まれた、他に類を見ない滞在型のリゾートで、十分なポテンシャルを秘めています。


 開業したばかりで、至らぬ点も多々あるかと思いますが、お気付きの際は遠慮なくご指摘いただき、改善すべきところは改善して、より良いリゾートにしていきたいと考えています。

 サービス改善はスタッフの意見も取り入れ、みんなで検討してして行きたいと考えております。

 スタッフからは既に有望な改善案が幾つか提案されています。

 現実的なアイデアも提案されておりますので、今後実現可能か費用対効果を合わせて検討して行きたいと思います。

 さて、長い挨拶は私も嫌いですので、これ位にさせていただきますが、招待客ゲストの皆さま、このリゾート滞在中は日常を忘れ、ゆっくりお寛ぎいただきたい思います」


 オレが挨拶を終わらせようとすると、サクラがグラスを持ってクイクイと上げる仕草をして、どうやらオレに乾杯の音頭も取れと指示しているようだった。


「え~、乾杯の挨拶も一緒にやれとサクラが目で合図しておりますので、私が乾杯の音頭を取らせていただきます。

 それでは皆様、グラスをお持ち下さい。

 皆さまのご健康とアクアスター・リゾートの繁栄を祈念して、カンパ~イ!」

 そう言うと、一同はワイングラスを掲げ『カンパーイ』と唱和してくれた。


 ウェルカムパーティの料理はテーブルに大皿で用意されているものを自分の好みで選ぶ方式だ。

 傍にはメイドが待機しており、料理を指定し、量を言えば席まで運んでくれるのだ。

 今日の料理は、アクアパッツァ、ローストビーフ、ヒレステーキ、パエリア、エビのカクテル、スモークサーモン、虹鱒の塩焼き、ロテサリーチキン、フルーツサラダ、ポタージュスープ、12種類のピンチョス、チーズとハムの盛り合わせ、5種類のミニケーキなど24種類の大皿料理が用意されていた。


 最初にオレと同じ席になったのは、ジェスティーナとアルテオン公爵夫妻、娘のエレナ、それにソラリア・シュヴェリーン師だった。


「カイト殿、早速温泉に入りましたぞ。

 森の湯と湖畔の湯、両方とも入ったが、泉質も景色も違うから、入りがいがありますな~」と公爵が言う。

「特に湖畔の湯は、混浴なのが良い」と鼻の下を伸ばした。


 それを聞いていた女性陣は一斉に非難の声を上げた。

「あなた!」と公爵夫人が、

「父上」とエレナが、

「叔父様」とジェスティーナが

 一斉に声を上げ、公爵を睨んだ。


 ソラリア師は、その様子を見て只々呆れていた。


 さすがは国王の弟だ、血は争えない。

 聞くところによれば、アルテオン公爵には2人の側室と5人の妾がいて、その間には8人の子がいるそうだ。

 公爵は女性たちの非難をものともせず笑っていた。


「それよりカイト殿、屋上の露天風呂は何時いつ出来るのかな?」と別の話題に切り替えるあたり、公爵は打たれ強い性格のようだ。


「あ~、あれはまだ構想の段階なので、作るかどうか未定ですが、そんなに費用も掛からないので、決定すれば1ヶ月位で出来ると思いますよ」


「ほ~、そうかそうか、それじゃあ、その日のために予約せねばならんなぁ」


「ありがとうございます、既に1ヶ月先まで予約が埋まってますので、予約されるのでしたら、早めがよろしいかと思います」

 オレはフロントスタッフを呼び、公爵は2ヶ月先のスイートルームの予約を入れてくれた。


「皆さまご歓談中のところ、失礼致します、30分経ちましたので次の席へ移動をお願いします」とサクラの言葉に招待客ゲストたちは席を立った。


 次の席にはリカール・バレンシアとアスナ、それにスーとソフィアがいた。

「カイト殿、ここは素晴らしいリゾートですなぁ。

 静かだし、部屋は豪華だし、食事は美味いし、温泉もあるし、それにメイドはみんな美人揃い、ところで露天風呂にメイドは入るのですかな?」とニヤニヤしながら言った。


「そうですね、夜遅くなら入ってる可能性はありますね」


「そうか、夜遅くか、なるほど、覚えておこう」

 それを聞いていた、娘のアスナは呆れた顔をした。

 男のさがと言うのは、万国共通のようだ。


「そう言えば、カイトが作ってくれた予約システムなんだけど、担当から機能追加のリクエストが来てるんだけど、対応できる?」とアスナが聞いた。


「う~ん、可能は可能だけど、最近忙しいから、少し時間掛かるかなぁ」

 オレがそう言うと、ソフィアと一緒に美味しそうにケーキを頬張っていたスーが反応した。

「カイトお兄ちゃん『ぱそこん』ってなあに?」と、あどけない表情で聞いた。


「う~ん、パソコンを言葉で説明するのは難しいな~。

 簡単に言うと人間の代わりに計算してくれる機械だけど、スーは興味あるの?」


「うん、興味あるよ、カイトお兄ちゃん、スー、それ見たいな」

 ケーキを食べている姿は、どうみても普通の幼女にしか見えないのだが、スーはIQ180の天才なのだ。


「分かったよ、それじゃ明日の朝、スーにパソコン教えてあげるね」


「うん、カイトお兄ちゃん、約束だよ」と言うと、またケーキに集中しだした。


 更に30分が経過し、次の席へ移動する時間となった。

 今度は、踊る銀ねこ亭の女将の隣だった。

 

 女将の隣には既にトリンが座り、話し相手になっていた。

 女将はアルコールが入り、上機嫌だ。

「おやカイトさん、いらっしゃい。

 トリンちゃん、良い子だね~。

 私の心配してくれてさぁ、お酒付き合ってくれてるんだよ」

 見るとトリンもワインを飲んでおり、目がトロンとしていた。


「でもカイトさんの宿、凄いね~。

 うちらの安宿と比べちゃいけないけど、部屋が豪華すぎだよ。

 部屋の中には風呂もバルコニーはあるし、窓からの眺めは絶景だし、それに露店温泉が2つもあるんだからね~」と感心した。


「さっきマリンと、チラッと会ったけど真面目に働いてるみたいで安心したよ」


「マリンちゃんの仕事が終わったら会えるから、もう少し待って下さいね」


「分かってるよぉ、それまでは酒飲んで大人しくしてるさ。

 ここはさぁ、酒も料理もみんな美味しくて、ついつい食べ過ぎちゃうんだよね」


「でもここの料金って高いんだろ、いったい1泊幾らなんだい?」

 女将は宿の経営者として料金に興味があるらしい。


「往復の飛行船送迎代込みで2人1泊で金貨1枚」とオレが答えた。


 それを聞いた女将は絶句した。

 金貨1枚と言えば日本円で約10万円なのだからだ。


「と言う事は、2人で1週間宿泊したら金貨6枚(円換算で60万円)ってことかい」

 女将の顔から血の気が引いていくのが分かった。


 そこへトイレに行っていたジェスティーナが戻ってきてオレの隣の席に座った。

「カイト~、お待たせ~、今度はこのテーブルなのね」


「お帰り、ジェスティーナ、このご夫婦が、踊る銀ねこ亭のご亭主と女将だよ」と二人を紹介した。


 すると、女将はジェスティーナを見て明らかに緊張した様子でこう言った

「お、王女殿下、お初にお目にかかります、思いもかけず、お会いできて光栄でございます」と緊張した様子でペコペコ頭を下げた。


「あら、初めまして、丁寧なご挨拶ありがとうございます。

 でも、ここは王国じゃないし、今日はプライベートなので、気軽に名前で呼んで下さいね」とにこやかに言った。


「め、滅相もない」と女将は両手を横に振った。

 確かに今日のジェスティーナはカジュアルな服装であるが、内面から滲み出る育ちの良さを隠しきれるものではなかった。

 スリムながらもスタイルの良いジェスティーナは、どんな服を着ても似合うのだ。


「ところで女将、温泉は入ったかい?」


「トリンちゃんに案内してもらって森の露天風呂に入ってきたけど、あれはいいね~。

 温泉って、初めて入ったけど、疲れがス~って抜けていく感じだよ」


「それは良かった、湖畔にも露天風呂があるから、後で入るといいよ」


「そっちは混浴なんだろう、あたしゃ体形に自信ないからねぇ…

 でも、せっかくだから後で入ってみるよ…」と女将は言った。


 ウェルカムパーティは2時間で終了した。

 招待客ゲストたちの親睦を深めると言う当初の目的は達成できたようだ。

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