第81話 美人客室係エミリア
前夜『ステーキ&ワイン黒ひげ亭』で、しこたま飲んで食べ、日中はかなりの距離を歩いたせいもあり、オレは朝までぐっすりと寝た。
気が付くと既に日は昇っており、小鳥が
夜中、とても寝苦しかったが、目が覚めてその原因が判明した。
それは、クラリスが後ろからオレに抱きついて寝ていたからだ。
「カイトさま~、おはよ~ございま~す」
そう言ってクラリスは寝ぼけ
「おい、クラリスいつの間に侵入したんだ」とオレが問い詰める。
「え~、昨日からずっといましたよ~」と悪気もない様子。
「私って、抱き枕がないと寝られないんですよぉ」と訳の分からないことを言っている。
「オレは抱き枕代わりか…」
もう呆れて怒る気もしない。
「も~、カイト様ったら
いい事しようと思って来て見たら、寝てるんですもの~」と今度はクラリスが頬を膨らませ怒り出した。
クラリスに何を言っても
オレが朝風呂から上がって、バルコニーで涼んでいると、ドアがノックされ
「お早うございます、お食事のご用意が出来ましたので、レストランまでお越しください」と爽やかな笑顔で告げた。
「分かりました、すぐ行きますね」とオレも笑顔で返事をした。
「はい、それではレストランでお待ちしております」と部屋を出ていった。
オレたちが1階のレストランに行くと、スイートルーム専用の個室が用意されており、そこには豪華な朝食が用意されていた。
チーズたっぷりのオムレツ、3種のボイルソーセージ、オマール海老とトマトのフラン、彩り野菜サラダ、ズワイガニのパスタ、クロワッサン、ヴィシソワーズ、5種類のカットフルーツ、絞りたてオレンジジュース、フレッシュミルク、エスプレッソコーヒーなど食べきれないほど並んでいた。
エミリアは鮮やかな身のこなしで、料理を小皿に取り分け、ジュースを注いでくれたり、付きっ切りで給仕してくれた。
その度に左右に揺れる美しい黒髪ポニーテールをオレはつい目で追ってしまう。
「どの料理も鮮度抜群で味付けも良くて、最高に
するとエミリアが満面の笑みを浮かべて言った。
「お気に召していただき、ありがとうございます」
「ところで皆さま、本日は何かご予定はございますか?」
「市内観光に行こうと思っていたけど、お勧めの場所があれば教えていただけますか?」
「定番ですと、セントレーニア大聖堂でしょうか…
あとはローズガーデンやハーブ園、果樹園、ワイナリー、レーニア牧場、スパ、市内観光と言ったところですね」
「へ~、けっこう色々あるんだ」とオレが感心する。
「はい、オプショナルツアーとなりますが、馬車をチャーターして、
ツアーには施設の入場料や昼食代金も含まれておりますし、個別に廻るよりも時間は短縮できますよ」と上手な営業トークで勧めてくれた。
「ほ~、なるほど、そんなツアーも有るんだね。
因みにそのツアー、料金はお幾らですか?」
「はい、市内観光1日コースは、3名様で金貨1枚となります」
市内を1日観光して金貨1枚(円換算で約10万円)とは結構な金額だが、自分たちで馬車を手配をしたり、昼食の店を探さなくて良いのだ。
そして美女のエミリアが専属ガイドとして同行してくれるのだから、多少高くても納得できると言うものだ。
「それじゃ、お願いしようかな」
「はい、ありがとうございます。
それでは手配して参りますので、お食事がお済みになられましたら、ラウンジでお待ち下さい」
オレたちが食事を終え、ラウンジでお茶を飲みながら待っていると『アルカディア観光』の文字が入った馬車が宿の前で停まり、ほどなくエミリアがオレたちを呼びに来た。
「お待たせ致しました、馬車のご用意が出来ました」
エミリアが手配したのは、小洒落た制服を着た御者が操る2頭立ての馬車で内装も乗り心地も悪くなかった。
どうやら旅亭アルカディアのグループ会社の馬車らしい。
朝の爽やかな光の中、
多くの人で賑わうメインストリートをゆっくりと進み、15分ほどで最初の目的地セントレーニア大聖堂に到着した。
この大聖堂は聖人レーニアを
内部は30mの高さの吹き抜けで、中心部に有るドーム型の天井は全面がステンドグラスで出来ており、朝の光を浴び美しく輝いていた。
「この大聖堂は完成してから700年近く
エミリアの話を要約すると、セントレーニア大聖堂は聖人レーニアが、約730年前に建設を開始し、35年の歳月を掛けて完成したそうだ。
セントレーニア大聖堂には聖地巡礼を目指す人々が王国各地から集まり、それに伴い宿泊施設や飲食店、土産物店が軒を並べ、それが徐々に増え大聖堂を中心とした今のセントレーニアの街に発展したのだ。
聖人レーニアは王国国教であるフィリア教の布教に努めた他、産業振興や道路整備にも積極的に取組み、この地の発展に大きく寄与し、多大な功績を残したそうだ。
オレは女神フィリアが神として崇められているのは知っていたが、そんな昔からとは思わなかった。
セントレーニア大聖堂を見学した後、次の目的地のローズガーデンへ向った。
今度は馬車で30分ほどかかるらしい。
「やっぱりここは南にあるだけあって暑いね~」
そう言うとエミリアが冷たいお茶を出してくれた。
「皆さんは、どちらから来られたのですか?」とエミリアが尋ねてきた。
「オレたちは王都から来たんだ」
「え、そんな遠いところからですか?」
「そう、流石に遠かったよ」
「お仕事でいらしたんですか?」
「半分は調査、半分は観光かな~」
「調査ですか?、もし差し支えなければ教えていただけますか?」
「今回の調査は、国王陛下から直接許可をいただき、王国全土を見て歩きリゾートの候補地を見つける旅なんだ」
「え、国王陛下から直接ですか?」と目を丸くした。
実際にはオレの要望を国王が承認したに過ぎないのだ。
「そうなんだ、王室発行の通行手形を持ってるから王国内どこでも行けるよ。
この2人はオレの護衛と旅先案内人として同行してるんだ」
「まあ、そうでしたか。
お綺麗な女性を二人もお連れでしたから、どのようなご関係かと思ってました」とエミリアは笑った。
「でも、今回は3週間で帰らないとならないんだ」
「え、何か用事があるのですか?」
「実は3週間後にリゾートホテルのプレオープンを控えてて、それまでに戻る必要があるんだよ」
オレはエミリアにアクアスターリゾートのことを詳しく話した。
ソランスター王国の北、ミラバス山麓の湖畔にある館でリゾートホテルの開業準備をしていること。
大自然に囲まれたリゾートには、庭園と2つの温泉があり、夜は星空がきれいで、湖ではカヌーや釣りをしたり、プールで泳いだりできると説明した。
「え~、素敵ですね、行ってみたいです」
「もし宜しければ、来ませんか?、ご招待しますよ。
そして可能なら、そのままうちのリゾートで働いてもらえると助かるんだけどな~」
オレがそう言うとエミリアがその言葉に驚いている。
「実はそのリゾート、新人ばかりで、エミリアさんみたいな宿泊業のプロは1人もいないから、もしホントに来てくれるなら大助かりなんだけど」
「カイト様ったら、ナンパですか?」とクラリスが
「いや、ナンパと言うよりスカウトかな…。
オレは真剣にスカウトしたいと思ってるんだ。
エミリアさんの接客はとても素晴らしいし、こんなハイレベルな接客ができる社員がスタッフにいてくれたらな~って思ったんだ。
もしホントに来てくれるなら、それなりのポジションを用意するし、給料は1ヶ月金貨4枚、いや5枚は保証してもいいかな」
「金貨5枚ですか?、凄いですね」とエミリアが驚いている。
エミリアは、しばらく考えてからこう言った。
「とてもありがたいお話ですが、今の契約がありますので、ご要望にお答えすることは出来かねます」
「まあ、今すぐとは言わないけど、もし興味があるなら考えてみてよ」
エミリアは美人で性格も良く、立ち居振る舞いや笑顔も実にいい。
「オレたちは、明後日からサンドベリアに行って、帰りにまたここに寄ろうと思ってるから、それまで考えて欲しいんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます