万鬼夜行帖 弐の巻
くろぽん
1頁
弐の巻
* * *
『──鵺(ぬえ)、口寂しいのか?』
深く吸い込んだ煙をゆっくり吐き出すと、僅かにそこへ溜め息が混じった。
『お前、いつもそうやってよく爪を噛んでいるな。些か、目に余るものがあるぞ』
『あ? だったら何だってんだ』
いつもと変わらぬ笑みをこちらへ彼女は向ける。
『煙はやらんか? 貰い物だが、お前にも一つやろう───』
古びた煙管(きせる)を見つめ指先で弄(もてあそ)ぶ。胡座(あぐら)の上にてついた頬杖。鵺は溜め息を吐き出し、幹へと背を預けた。
「あー! こんな所に居た!」
不意に上がったその声へ、鵺はチラリと視線だけを向けた。
「もう。里中、探し回ったんだから!」
「何の用だ、小娘──」
「小娘…」と小さく繰り返し、一度ムッとした様子をみせたが。小夜(さよ)は一つ頭を振って、仕切り直した。
「あのね。最近、この辺り一帯で“付け火”が多発してるらしいの。鵺さん、何かと顔が広いでしょ? 何か知らない?」
コンッ、と煙管から灰を落とし鵺は高い木の枝の上へと立ち上がった。
「何故、それを俺に訊く?」
「え…。だから、鵺さん。いつも変な事、何でも知ってるから………」
「俺に訊くのは、端から見当違いだな。他を当たってくれ」
小夜は、納得のいかない顔をしていたが「お時間取らせて、ごめんなさい」と頭を下げ一つ詫びると、また里の方へと駆けていった。
「……………、くくっ──」
歪む口元と、微かな忍び笑い。鵺は片手で顔を覆い、その後にて真顔へ戻ると……
「…希死念慮(きしねんりょ)に応えただけさ───」
吹き抜ける風に木々の葉が揺れ、ざわめく。赤い瞳は不気味に光彩を放っていた。
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