11月15日 月曜 晴れ
うつりと
堀幸
朝、
早い時刻に
目的地のある
最寄駅に着く
書店で
詩集のコーナーを
覗いて行こうと
ふいに思い立ち
駅ビルの2階にある
大きな書店に向かう
まだ開店前、
店員さんが
平積みの新刊コーナーを
忙しなく整えている姿を
ガラス越しに見ている
後ろを振り返ると
家族連れや
学生らしい若い人が
並んで待っている
開店前の書店に
並ぶ人がいることが
うれしくて
マスクの下で微笑んでしまう
10時、
自動ドアが手動で開放される
後ろの家族連れの中から
子供たちが
我先にと
店内へ駆け込んで行く
「ダメでしょ、先に並んで
いる人がいるんだから」
母親らしき人が
子供たちに注意する
「大丈夫ですよ。
お先にどうぞ」
順を譲る
私が子供だったら
同じように駆け込んで
行っただろう
アルコール噴霧器に
手をかざして
書店の中へ
新刊コーナーの前を
通り過ぎた辺りで
顔を伏せる
来年度の手帳や
カレンダーが
所狭しと並んでいる
(いずれは買わなくては
ならないそれらを)
まだ直視することができない
胸が苦しくなる
急いで
書架の間を
左へ折れ
右へ折れて
詩集のコーナーへ辿り着く
屈みこんで
一冊、一冊
タイトルを眺めていく
先日買い求めた
何冊かの詩集が
補充されていて
何故かホッとする
気になるタイトルの詩集を
手に取ってみる
装丁
佇まい
重さ
手触り
大きさ
だいたいここまで当たりだと
この詩集は
きっと好きな詩集だ
本を開き
最初の一編を読んでみる
ああ、
やっぱり
心に響く言葉が
さあ読んで!と
次々に踊って待っている
しばらくは
この詩集と共に
生きるのだ
そして
どこかで出費を
削らなくてはならない
目的地への到着には
まだ早い
近くのカトリック教会に、
足を踏み入れる
「どなたもどうぞご遠慮なく
聖堂にお入りください」
最近見つけた
落ち着ける場所
信者ではないが
何かに
誰かに
今生きて
ここにいることに
ただしばらく祈り
教会を後にする
目的地に着き、
階段を上る
上りきったところ、
鉢植えの中で
小さな苺が
赤く実を結んでいるのを
見つけた
おはようございます
11月15日 月曜 晴れ うつりと @hottori
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