第十三話

「何それ。かなり脈ありじゃん。と、言うよりもほぼ確定?」

「え………ええええ! いやいやいやいや、そんなことないって!」


 何日か時間が空いてしまったが、先日、長瀬くんと電話で話したことを簡単に咲良に報告したところ、いきなりそんなことを言いだした。


 そりゃあ、私だってちょっとは……ほんのちょっとはそういうことを考えないことはなかった。でもやっぱりどうしてもそんなふうには思えない。だって、彼が私なんかを好きになるには、不釣り合いが過ぎる。長瀬くんには可愛くて明るくてみんなに好かれる、そういう女の子がお似合いだ。私とは正反対。


「でもそんなふうになる理由がないよ。だって私、長瀬くんを困らせるばかりで良いことなんて何一つしてないもん」

「文栞にとってはそうでも、彼にとっては違うかもよ? 文栞は相手の何気ない行動や言動に、心動かされたりした経験ってない?」


 ある。むしろありまくる。例えば私が彼のことを好きになるきっかけになった一件とか。

 人間誰しもが、誰のどんな行動がきっかけで、その結果どうなるかなんてわからない。


 ――少しは期待しても、いいのかな。


 ここでふと咲良を見ると、どこか遠いところを見るような透き通った目でこちらを見ていた。


「どうしたの?」

「ううん。青春だなぁ、良いなぁって思って」

「なにお年寄りみたいなこと言ってるの。ーーそういえば咲良の方こそ、そういう話は何もないの?」


 思えば咲良とこういう話はあまりしたことがない。浮いた話も聞いたことがない。私があまり興味なかったからかも。

 きっと咲良なら素敵な恋をしているに違いないーー

 そう思っての質問だったが、私の言葉に咲良はわかりやすく狼狽えた。


「え⁈ わ、私? 私はねー……」


 うーん、とちょっと眉根を寄せて悩むような仕草を見せた後、苦笑いを浮かべて


「私の方は、ちょっと難しいかも……」


 とだけ言った。

 

 あまり聞いて欲しくなさそうなその様子に、私はそれ以上何も聞くことができず、この話はそれで終わりになった。

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