【完結】内気な少女と人気者の彼

金石みずき

本編

第一話

 えーっと……多分この辺かな。


 学校の図書室を彷徨う。

 目的は友達にお薦めされた作家さんの小説だ。

 いきなり長編を読むと、合う、合わないがありそうなので、まずは短編集から読んでみようと思う。


 作家名で五十音順に並べられた文庫本の背を辿っていく。

 か……さ……た……な……なせ………あっ。

 もうすぐ目的の『なな』に辿り着きそうなところで、先に書架から文庫本を取り出す人がいた。

 思わず顔を見ると、同じクラスの長瀬くんだった。


 ふーん……。長瀬くんって本読むんだ。


 正直、本を読む印象は全くないので驚いた。


 彼は人気者。明るく、いつも目立っている。――私とは住む世界の違う人。


 ――あ!


 彼の取り出した本を何気なく見ると、手に取っていた本は私の目的の本だった。

 返しますように、返しますように、返しますように……。

 他の本を探していたふりをしながら、適当に書架から一冊抜き出して横目で様子を観察。


 長瀬くんは「ふーん……」とそれほど興味のなさそうな表情でパラパラとページを捲り――


 ――そのまま本を持って書架の前から消えていった。


 えー……。


 なんてついてない。今日は完全にあの本を読む気分だったのに!


 とはいえ、文庫本一冊だ。今日は月曜日。貸出期限は二週間あるものの、今週中のどこかできっと返ってくるでしょう。


 内心そんな風に考えながら、さっき適当にとった文庫本に初めてきちんと目を落とす。

 せっかくだし、これ借りて行こうかな。これも何かの縁――って何これ!

 慌ててパタンと本を閉じ、急いで書架に戻す。

 ――なんで学校の図書室にこんな本置いてあるの!

 先ほどまで開かれていたページには、その……妙に性描写が過激に書かれていて、読んだことはないけれど……官能小説と呼ばれるものの一歩手前……そう、つまるところ大人の小説だった。


 顔が火照って暑い。手でぱたぱたと扇いで涼をとる。

 み、見られてないよね? 大丈夫だよね? こっそりエロい小説を読む子だとか思われたらどうしよう。


 教室で「綾瀬って……実はむっつりらしいよ……」とか噂されることを想像してゾッとする。

 違う! 違うの! 確かに全く興味がないわけではないけど……それは年頃だから! そう、普通! 普通の範囲! 決してむっつりなんかじゃない!


 誰に言い訳するわけでもなくそんなことを考えたところで脱力し、もういいやと目的だった短編集は諦めた。

 長編でも大丈夫かなと、試しに最初の数行を読んでみたけれど……うん、これならいけそうだ。これにしよう。

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