第13話 友助 ①
小学生のころの四谷友助は友達が多かった。クラスではムードメーカーの一人だった。地元の山を愛し、秘密基地を作って友人たちと兎の親子を愛でるような天真爛漫な小学生だった。
彼の性格が一変したのは、地元 熊本を離れて東京に移り住んだ時だ。
小学6年の冬である。
彼が愛した地元の山は・・・東京の暴力団がらみの土建会社に買収された。
その山からはコンクリートに適した良質な砂利が取れたらしい。
山はまっさらになるまで掘りつくされた。運び出された砂利は、今頃どこかの街のビルや道路に生まれ変わっているだろう。
人類の営みは人類の価値観では「悪」ではない。だが四谷友助の価値観では「悪」に変わった。
なにより・・・彼が愛した山を潰したのは、彼の父が経営する会社だったからだ。
四谷の父はやり手のビジネスマンだったが、その反面、外に愛人を何人も囲うなど、家族を愛する男ではなかった。そんな男であるから見合い結婚した四谷の母との営みは友助が産まれた後は絶え、彼には兄弟姉妹はいなかった。
四谷の母も、父との冷え切った関係を、外との営みに求めた。出会い系だのマッチングアプリなどで男を漁り、息子への愛情は殆ど注がなかった。
その代わり、一般的な家庭よりかなり多めの小遣いや高額なゲーム機などを与え、彼の好きにさせていた。塾の成績さえよければ、なんでもいいという反応だった。
彼の学習態度はある意味、なんでも無難にこなすが人との関わりは極力避ける。
それでいて成績はクラス上位ではなく、真ん中より少し上の程度だった。
小学6年の冬という中途半端な時期に転向した四谷。彼は転入初日の自己紹介で失敗した。熊本を離れる際に、友人に「絶対戻って来るけん」と言ったものの、友人の顔はもはや友好的ではなかった。
彼の父親の会社が、自分たちの秘密基地をぶっ壊したことは、友人で知らぬ者はいなかった。
そんな心の闇を抱えての転校。自己紹介で彼はドモリ・・熊本の方言で噛んだ。
クラスは爆笑で包まれたが、それを彼は自分への侮蔑としか受け取れなかった。
友人なんて、中学に入ってから作り直せばいい。
だが、中学校の人間関係と言うのは、特に友達グループというのは小学校のグループを引き継ぐ事が多い。結局、四谷は一緒に進級した小学校の連中からは変人としてみられ、そして他の小学校から来たクラスメイト達に対しても心を開くことは出来す、
彼が中学に入学してから、両親は一度も授業参観や運動会に顔を出さなかった。
いつしか天真爛漫だった少年の心は歪み、独善的な優勢思想になっていった。
クラスでも孤独を好み、授業以外の休み時間はひたすら机に顔を埋め寝るか、他人の声を遮断する。部活動も一年の半ばで退部・・帰宅部になった。
修学旅行の班分けの時、彼を誘う友達というものは誰もおらず、あぶれ物として人数の少ない班に無理やり入れられた。そして彼は修学旅行を欠席し、自宅でゲームに没頭することにした。
塾と学校とゲーム・・・それが彼の中学3年間の殆どだった。
友人なんて、どうせ高校に入るか大学で作り直せばいい。
彼のクラスには美人で読者モデルもやっていた新堂衣宇も居たが、彼は彼女のグループには近づきがたい何かを感じていた。
(早く家に帰ってゲームの続きがしたい)
そんな性格だから、このゲームみたいな異世界に一番早く順応出来た。
だが、彼は大きな勘違いをしていた。
この世界はゲームではなく、並行宇宙の地球というリアルな世界であり、
成り行きと復讐が重なったとはいえ、彼はこの世界の住人を殺した。
殺した直後は、蚊を潰したほどの良心の呵責も感じなかったが、クエストをクリアし、クリア報酬の質問を4人目のプレイヤー・時館由香が質問した時、彼の心は凍り付いた。
時館『この世界って、結局、仮想空間ってことでいいんだよね?』
数日前に時館が四谷と話したことだ。
時館「この世界で、この世界のキャラとキスしたら、それってファーストキスに含まれると思う?」
あの時の質問は、質問された時には、よく意味が分からなかった。
後日、5週目のクエストで分かった事だが、4週目にクエストを助けるために同行してくれたこの世界の女性騎士カハベルがガーゴイルに刺されて重傷を負った時、四谷が古代遺跡の遺産であるガーゴイルを動かす人工血液に含まれる魔力を使ってカハベルを治療のために使用した。
おそらく魔法使いとしての限界を超えたのだろう。カハベルの命は助かったが、四谷は3日間ほど意識不明になるほど爆睡した。その時にカハベルにキスをされていた
・・・・
話を戻そう・・・時館由香の質問にゲームマスターは答えた
GM「並行世界という概念がございま。並行世界は過去の時間で分岐するほど現実離れした剣や魔法・ドラゴンの存在する世界になりま。」
GM「我々は特殊な技術を使って「特定条件を満たした並行世界」を観測・移動することができま。」
GM「仮想空間ではございませ。地球と同じ場所に存在する惑星でござ。」
相変わらずネットスラングのように、語尾を省略するGMの冗長な回答だった。
四谷「何・・で・・架空じゃない? あの異空間に出し入れできる武器や服は?あの怪我をしても血が流れない体は?」
四谷「プレイヤーとその装備品だけがバーチャルで、そのデジタルな肉体で並行世界に入っているのか?」
GM「君に質問権はございませ。」
クエストクリアした結果、現実世界に戻ったあと震えが止まらなかった。
【俺は人間が嫌いだ。他の生き物を自分勝手な理由で絶滅させたり家畜化するような人類なんて、いっそのこと滅びればいい】
始めて参加した3周目のクエスト報酬のゲームマスターへの質問で、四谷は『10周のクエストクリア、またはその後、俺たちは何をする』と質問した。
その未来人=ゲームマスターの回答は、彼らの未来線で実際に起きた映像だった。
・・・・・・・・・
東京とおぼしき街並み、だが道路には横転した車が転がり、あちこちのビルからは火災の煙が上がっている。
そんななか、四谷たち勇者が並んでいる。四谷や新堂・箱崎はいかにもファンタジーものの主人公とおぼしき鎧で身を固め、空を見上げている。
四谷(未来バージョン)『次が最後の召喚獣だ。いくぞ!散会!』
上空に魔法陣のようなものが浮き上がり、その中から凶悪なドラゴンの姿が現れる
・・・・・・・・
四谷友助は思った。もし、俺がクエストを放棄したら、大嫌いな東京をぶっ壊すことが出来るんじゃないか? 俺に無関係な人間なんて死のうがどうなろうが知った事か。
・・・・・・・・・・・
ずっとそう思っていたのに、たった1人・・それもプレイヤーたちに悪意を向け、殺そうとしてきたデオック王国の兵隊を殺しただけなのに、動悸が止まらなかった。
奴らが先にこちらを殺しに来た。女性騎士カハベルの家に使えるコルトネルの兵士ビムズバーグさんは、奴らデオック兵の姦計により地下迷宮で命を落とした。
四谷が殺したのはデオック兵1人であり、残り2人のデオック兵はカハベルさんが殺した。宣戦布告こそなかったものの、あれは戦争だ。本来なら良心の呵責に囚われることでもないのかもしれない。
だが75年以上、他国と戦争をしたことのない、そして学校や社会は「人殺しは絶対悪」と教える現代日本に育った四谷のメンタルはそれに耐えられず、またしても歪んだ。
3日間、手の震えが止まらなかった。そしてホワイトガール・・・幼女の姿をしたゲームマスターが 四谷の自宅の部屋の中に現れた。
四谷の家はタワーマンションの上層階・・普通の人間が突然、部屋の中に入ってくるようなセキュリティではない。
幼女マスターは麦藁帽を被り、虫とり網を持ち・・そして虫かごを肩からクロスでかけていた。しかし、その虫かごの中には水が満ち。見たこともないような人面魚が入っていた。
GM「やーー・・・あのさ・・・メールの返信してよ」
Q 人を殺した率直な気持ちはどう?
友助「おまっ、マスターか?・・いや未来人側の別の奴?」
GM「君に質問権はございませ。」
友助「あ・・・まあ相手は俺が『死んでもいいと思っている人間」に半分だけ当てはまる奴だった。でも、半分は違う・・・あの世界はバーチャルなものだと思っていた。だから殺してしまったのは俺のミスだったと思う。バーチャルじゃないと知っていたら殺す気は無かった」
GM「・・・・・・・・・・・」
友助「うん、おわり」
(俺は強がりを言った。)
そのあと、GMに連れられて街に出た俺は、鳥居啓太が組織の金をネコババして逃げようとした麻薬密売人を殺害しようとしたのを阻止した。
GM「ちょっとだけ話をしよう。今日、君は殺人を止めたね。ようやく命の大切さを理解してくれた?」
友助「いや、あの兄弟が捕まったらクエストクリア率が下がるんだよね?」
GM「・・・・・」
友助「さっきの話、時館さんを助けて得られた恩恵は、確か『クエスト成功率の上昇』・・・4週目のクエストで「MAP5%踏破」を最後に決めたのは時館さんだ。彼女が最後まで頑張れたのは『自分の裸画像が流失していない世界』彼女が帰りたいと現実世界が思えたからじゃないの?」
友助「メンタルの面でしかないけど、最後に彼女が諦めずに立ち上がったからこそ、クエストは成功し、俺たちは死なずに済んだ。今回は新プレイヤーにとって帰りたいと思える『自分や弟が逮捕されていない世界』を作った・・・」
GM「・・・それだけ? 命の尊さとかの感想は無いの?」
幼女の姿をした未来人・・ゲームマスターの顔はドン引きしていた。
友助「は? 尊くねーだろ?騙されて人殺しの仕事を受けよう様な馬鹿は一人残らず死ねばいい。あ、ざまああ。(鳥居に殺人を行わせようとした893は警察に)連行されやがる。よし、あの兄弟はつかまっていないな!!」
GM「・・・・・・・・・」
友助「本当は人間なんて価値の低い順に全員死ねばいいんだ。あの金髪もプレイヤーじゃなきゃ要らないんだけど・・・新堂さんや箱崎さんの生還率を1%でも上げるために助けてやったんだよ」
GM「人の価値・・・か・・・匿名のネットユーザーみたいに 勝手に上から目線でそれを判定して、君自身は何様のつもり?」
友助「何物でもないさ・・ただのガキさ。ただの中二病のクソガキだよ。そして俺は《自分の考えは本当は間違ってる》って事を知識としては知っている。認めてやんよ。本当は分かっているんだ。命の価値は大切だって。」
GM「じゃあ、君自身が弱い立場に落とされたとしたら、そこから命の価値の大切さを認められる?」
・・・・・・
オリジナル設定が入っています。
1.地元の山を潰した会社は、現時点では四谷友助の父親の会社という設定は無い
2.そもそも四谷友助の家族の描写はいまのところ、原作漫画には一切ありません
3.四谷の8週目の職業が《娼婦》になったのは、幼女戦記からの影響です。
GM≒存在Xみたいなものですね。彼にはこれからも理不尽な目に遭いつつ、彼の自己中心的な考え方を変えていくのが本作の裏目標だと思います。
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