Endpoint OF Feelings

秋野 瑞稀

第一部:〜紅蓮の闇に燃ゆる〜

《 グレン編 》

第壹話:蠢く憎悪、流れる日常

 ――いつからだったろう、おもせないんだ。だれおれおしえてくれないだろうか……。此処ここ何処どこで、おれだれだ……? 何故なぜこれほどまでいかりがおさまらないのだろうか……。すべてがにくい。うつるモノすべてがにくいんだ……。だれか、おしえてくれ……!!


「なぁ、おまえ。おまえおれ一体いったいだれっているか?」


 こたえは、ない。此奴こいつもダメだ。何故なぜなにこたえない? 下半身かはんしんんだ程度ていどで、何奴どいつ此奴こいつなにこたえなくなる。こたえないこいつもにくい。だからのこ上半身じょうはんしんやしてやろう。


「ばば、ばばばば、バケモノめ!!」


 そんなこえこえてころにはおれ背中せなかからはらにかけてけんけていた。だが、いか以外いがい感情かんじょうわすれたおれ最早もはやいたみなどかんじることもなく、只只ただただいかりが増幅ぞうふくしていく。


ぶぉふぁえおまえは、おれ何者なにものな……ぶぉふか、こたえられるのか?」


 いている。くちなかには血液けつえきまり、かなりはなしにくい。

 ……ダメだ、此奴こいつにくい。そうおもったころには、此奴こいつ憎悪ぞうお黒炎こくえんきていた。



 ――もとあか刀身とうしんだったはずおれ感情刀かんじょうとうは、いつのころからか、くろ刀身とうしんへと変化へんかしており、この感情刀かんじょうとうったものは、きるまでけっしてえることのい “ 憎悪ぞうお黒炎こくえん ”でかれることになる。


 いつまで、おれはこうしていなければいけない……? だれか、おしえてくれ……。

 もう……つかれたんだ。わらせてくれ。この意味いみおれ生命いのちを……。



 そしてまた、ひとつの都市としえていく。えることのくほほのおかれ、くろけむりをもくもくとそらのぼらせながら、くろやみうごめいていた――。



 すことおくに人影ひとかげえた。ぐにおれほうへとかってくる。


「やっと……、やっといついた……! グレン!!」


 グレン……。だれかがおれ名前なまえぶ。……!! そうだ、おれは……グレン……!!


「あなたは、……あなたは、わたしころします……!!」


 おれことるおまえは、だれだ!! ……いや、分かる。此奴こいつは、いや彼女かのじょは……。


おれは……。俺の名は……グレン……」


 そうだ。おれはグレン。ここまで、おおくのいのちを、くろほのおやしてきてしまった……。


ころしてくれ……」

「うん……」

有難ありがとう」

あとは、わたしまかせて……」


 ――感触かんしょくなど、とおくしていたとおもっていた……。しかし、むねつらぬくそのやいばは、とてもあたたかく…………――。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「ほら!! はやーきーろ、グレン!!」

「トリシュナ……」

「はいはい、わたしだよ」


 ハッ! と、める。まだかす視界しかいには、おさななじみであり、そして恋人こいびとである、“ トリシュナ・シーハ ”のかおえた。


ーきーろー!! 今日きょうはおにいちゃんの見送みおくりのだぞ!!」


 トリシュナにかたつかまれ身体からだすられる。たしかにおれ普段ふだんからきるのがおそほうだが、それにしても何時いつもよりこしかた本気ほんきだ……。

 ……あ、そうか。……そうだった、今日きょうはトリシュナのあにであり、トリシュナと同様どうようおさななじみである、“ ラズライト・シーハ ” の徴兵ちょうへいため出発しゅっぱつだった。

 まだねむこすり、モゾモゾとがる。


「まったくもう! グレンは本当ホントにお寝坊ねぼうさんだね……!!」


 トリシュナはあきれた口調くちょうで、しかしやさしく可愛かわいらしいかおで、苦言くげんていした。そして、そのながれでなんの脈略みゃくりゃくもなく、おれくちびるへ、“ チュッ ”とあまくちびるかさね、


「ほら! さっさと支度したくする!! お義母かあさんは、もうっちゃったよ!!」


 直後ちょくごに、遠慮なく、“ バンッ! ”と背中せなかたたかれた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 身支度みじたくえ、朝食ちょうしょくをさっとまし、トリシュナと二人ふたり見送みおく場所ばしよであるむら北広場きたひろばへと、会話かいわわしながらかう。このころまでると、二人ふたりともあきら半分はんぶんで、それなりに普通ふつうあるいていた。


「ねぇ、グレン。なにいやゆめでもてたの?」

「ん? なんことだ?」

今朝けさこすときに、かなりうなされてたから、その……になって……」


 うなされていた、らしい……。ゆめ、か……。まぁ、うなされていたとしても、それはそうだろうとゆめていたのはたしかだ。


「……たしか、俺自身おれじしんだれなのか、……何者なにものなのかもからなくなって、何処どこかもからない場所ばしょで…………、ここからさき上手うまおもせん……」


 ……なにかにひどいかり、にくしんでいたようなもする。「おもせない」とうより、「おもしたくない」の方が近いな。


「そっかぁ……、悪夢あくむだったんだね……そっかそっかぁ……」


 悪夢あくむ……か。「でもま、ゆめゆめだしっ」と、トリシュナはそのはなしをサクッとげ、ようやくえて北広場きたひろばかい、おれはじめる。


「おい馬鹿ばか、トリシュナ! きゅうるな……!!」

「え!? なーあにー??」


 体制たいせいくずしながらもいておれさけびに、こえているはずのトリシュナのとぼけるそのかおは、とてもにこやかであいらしく、これ以上いじょうおれはこのたいなにかをにはならない。


なん! でも! ない!!」


 けじとおれし、トリシュナよりもまえてやる。


「ほら、はやくぞ!!」

「え、ちょっとぉ!! ったらころぶー!!」


 今度こんどおれがトリシュナをく。


「ね、ころぶってばぁー!!」



 今日きょうただ、ゆるりとすずしさをはこかわみずのように、あまやさしい時間じかんながれてゆく――。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ようや辿たどいた北広場きたひろばには、ラズライトを見送みおため、かなりの人数にんずう村中むらじゅうからあつまっていた。


おそかったなぁグレン、トリシュナ! 出発しゅっぱつまでにわないかとおもったぞ」


 ラズライトの言葉ことば嫌味いやみまったい。「ま、大方おおかたグレンの寝坊ねぼうだろうけどな!」などといながら、ラズライトは豪快ごうかいわらっていた。


「ああ、そうだよ! わるかったな!! ったんだからいだろ!!」


 わるびれるわけでもなく、おれわらいながらかえす。そのいをまわりの大人おとなたちは「やれやれ、またか」などとあきがおをしつつやさしく見守みまもり、悪友悪友たちは「いいぞいいぞ!」「もっとやれ! 言い争え!」などとはやしてきたりしていたが、これもまたいつものことだ。そう、日常だ。

 しかし、きゅうにラズライトは真剣しんけんかおつきに戻った。

 この程度ていど冗談じょうだんでラズライトがおこるとはおもえないが……。なにか、さわったか……?

 ラズライトはかおかおとがれそうなほどおれおれづいてくる。咄嗟とっさ身構みがまえたが、なぐられる……なんてことはなく。おれにだけこえるように、ボソッと「トリシュナをたのむぞ」と耳打みみうちし、即座そくざはなれていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 そのは、何事なにごとかったかのように笑顔えがおもどり、談笑だんしょうもそこそこに、見送みおくりのみんなり、むら出発しゅっぱつした。


 何故なぜきゅうに「トリシュナをたのむ」なんてあらたまってってきたのだろう。あらわしにくい、なにくない予感よかんが、おれなか渦巻うずたいていた――。

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