第2話 兆候
妹背宗馬は、ツジテレビ局員の25歳。
自他ともに認めるアイドルオタクで、仕事のない日にはあらゆる地下アイドルのライブに行ったりもするものだ。
次世代スター発掘にも一役買っているのがそのオタクぶりである。
「winners circle」のメンバーで、その絶対的エースである雨城怜未を発掘し、一躍スターにしたのも宗馬だ。
そんな彼が今何をしているのかというと、深夜番組のアシスタントディレクターである。
ここで将来のテレビ番組プロデューサーを目指し、宗馬は日々奮闘をしている。
この日の収録後、宗馬は怜未の楽屋に挨拶に行こうと足を運んだのだが……。
ノックしても反応はない。
もしかしてもう帰ったのか……? 宗馬はそう思ったが、扉を開けると荷物はしっかりと置いてある。
しかし18歳とは思えない、地味な私服と鞄だ。
大人気アイドルがこんな地味な格好をするのか……? と、宗馬がそう思った時、「winners circle」のマネージャーがやってきた。
「スタッフさんですか? わざわざ挨拶に来てくださってありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそ。怜未ちゃんの良さを活かせる企画ができてよかったです。……ところで……怜未ちゃんは今、どちらに?」
そのマネージャーは30代前半くらいの男性だったが、何か知っているかのような顔を浮かべていた。
「あー……怜未なら今トイレですよ。なんて言うんだろ……ルーティンになってるんですよね。」
「ルーティン? トイレに行くことがですか?」
「そうそう。怜未は案外繊細な子でね、ああ見えて。ライブ後や収録後に必ずトイレに行くんですよ……理由を聞いても言ってくれないんで、どう対応したらいいかも分からないし……」
「……そうですか……」
この時、宗馬は違和感を覚えていた。
アイドルの世界は彼にとっては輝いて見えるものであって、怜未の人柄も決して悪いわけではない。
明るく、愛想のいい怜未だからこそ、宗馬にとっては考えられない行動だったからだ。
とにかく怜未の全てを、まだ宗馬を含め、日本国民全員が知らないというのが宗馬の中でハッキリした。
宗馬はこの日を境に、仕事の合間に怜未の過去を調べ上げることにしたのであった。
その頃、怜未は、というと。
「ウッッッッッ……!! オエッッッッ!! ガハッ……!! ガハッ………!!」
マネージャーの言っていた通り、トイレで嘔吐をしていた。
とても人前では見せられるものではない。
「完璧美少女」というイメージの怜未が崩れ去ってしまうからだ。
嘔吐した後の怜未の目は、何かに怯えているような目だった。
(ダメだ……やっぱり吐いちゃう……クソッ………!! クソッッッッッ…………!!!! あんなヤツさえ居なかったら………!!!!!!)
発作のような動悸も同時に起こる。
これがライブ後や収録後に怜未の身に起こる症状だった。
何を思ったのか、怜未はトイレットペーパーをガガガガガガガッッッッ!!! と自分の手に絡めとり、丸めて口に咥えた。
トイレットペーパーに唾液が染み込む。
荒くなっていた息も、トイレットペーパーを咥えることで徐々に徐々に収まっていく。
これも怜未の事後ルーティンの一つになっていた。
発作が治まると、怜未はトイレットペーパーを吐き出し、レバーを引いて嘔吐物と共に水に流した。
左拳を大きく握り、怜未は個室の壁をドカン!! と叩いた。
そして、一言呟いた。
「なんで……なんで私の記憶に出てくるの……!! 母さん………!!!」
灰被りの毒林檎 〜大人気アイドル・雨城怜未のシンデレラストーリー〜 黒崎吏虎 @kuroriko5097
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