休日(前編)

 旭視点


「こんにちは。お世話になっております」

「お帰りなさい。今梨華ちゃん呼びますね」

「お願いします」


 今日は早く仕事が終わったから、私が迎えに行くと唯華ちゃんに連絡をした。職場から保育園に直行して、まずは梨華のお迎え。

 迎えの登録もしてもらっているし、もう何度も来ているから、顔を覚えてもらえて誰の迎えか確認されることも無くなった。


 梨華は幼稚園に通っていたけれど、唯華ちゃんの復職のタイミングで保育園に転園して、今はもうすっかり慣れて毎日楽しいらしい。


 先生に呼ばれた梨華がこっちを見て、手を振れば笑顔で振り返してくれた。うん、今日も元気そう。

 梨華が準備をしている間に、連絡事項が書かれたボードを確認すれば、今日は製作をしたみたいで、何を見せてくれるのだろうと楽しみになる。


「あーちゃん、みて! つくったの」

「梨華、おかえり。おー、凄いね。これは?」

「ロボット!」

「そっか、ロボットか。リュックに入れておこうね」


 走ってきた梨華が空き箱をくっつけて作ったロボットを嬉しそうに見せてくれて頬が緩む。可愛いなぁ。


「今日は……の活動をしています。こちらの内容は大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございました」


 先生から今日の出来事を簡単に聞いて、梨華が挨拶をするのを見守って、手を繋いで悠真のクラスに向かう。ロボットの取り合いにならないといいけどな……


 悠真のクラスの前まで行けば、梨華と私に気がついてぱあっと笑顔になった。迎えを喜んでもらえるのは何回だって嬉しい。ママじゃないってガッカリされるかなって最初はドキドキだったから。


「あーちゃん!」

「悠真、おかえり。先生、ありがとうございました」

「今日も元気に過ごしました。お手帳に連絡事項が書いてありますので、確認してください」

「分かりました」


 3歳までは連絡帳があって、たまに私も書かせてもらっている。先生方が毎日細かく書いてくれていて、よく見てくれているなぁ、って尊敬。



「りーちゃん、それなに?」


 車に乗って直ぐに梨華がロボットを取り出すと、悠真が興味を示した。


「ロボット!」

「りーちゃんだけずるい! かして!」

「りかがつくったの!」

「あーちゃん、りーちゃんがかしてくれない!!」

「あーちゃん、りかのだからだめっていって!!」

「あはは、あーちゃんは2人で遊んだ方が楽しいと思うなぁ~」


 予想通り後ろの席で取り合いを始めた2人だけど、ある程度取り合いをしたら満足したのか一緒に遊び始めた。そのうちもっと大変になるのかなぁ……それとも少しは楽になる? まぁ、どちらにしても可愛いことは間違いない。



「「ママ、ただいまー!」」

「おかえり。手洗っておいで」

「「うん!」」


 ご飯の支度をしている唯華ちゃんの元に2人が駆け寄って、競うように洗面所に走っていった。


「旭、おかえり。迎えありがとう」

「ただいま。私も手洗ってきちゃうから待ってて。まだやる事あるよね?」

「うん。ありがとう」


 唯華ちゃんだって仕事をしてきて疲れてるだろうし、少しくらいは負担を軽くしたい。



「さて、明日は何の日でしょうか?」

「「はいっ」」


 ご飯を食べ終えて、唯華ちゃんが2人に明日の予定を確認すれば、元気よく手が上がった。


「おさかな!」

「すいぞくかん!」

「2人とも正解!!」


 かっわ……何これ? 何これ? 

 きゃっきゃしている3人とニヤニヤする私。ちょっと、いやかなり? 怪しいと思うけど気にしない。今からでも動画撮っておこう。


「あーちゃん、しゃしん? どうが?」

「動画だよー。明日の水族館楽しみな人ー?」

「「はーいっ!!」」

「はい可愛いっ!」

「ちょっと旭、私は写らないようにしてよ?」

「残念、もう入ってまーす」


 あー、もう本当に可愛い。

 明日は水族館に行く予定で、2人は決まった時からあと何回寝たら? と楽しみにしてくれていた。楽しい思い出になったらいいな。



「唯華ちゃん、2人とも寝た?」

「うん。寝たみたい」


 大騒ぎしながら荷物を詰めて、明日が楽しみでなかなか寝なかったけれどようやく寝てくれた。寝顔が天使すぎる。


「楽しみにしてくれてるのは嬉しいけど、もうこんな時間……明日起きてくれるかな」

「うーん、そこまで朝早くないし、大丈夫だと思うけど……水族館行くよって言えば飛び起きるでしょ」

「確かに。まぁ、車で寝てくれたらいいしね。唯華ちゃんも車で寝てていいからね」

「起きてるって。……帰りは自信ないけど」


 自信が無いと眉を下げる唯華ちゃん、可愛すぎません?


「可愛いっ!」

「ちょっと、起きちゃうから!」

「あ、やばっ」


 思わず抱きついたら怒られた……ごめんって。


「旭はまだ寝ない?」

「うん。明日のイベントの確認とかするつもり。唯華ちゃんはどうする?」

「それなら私ももうちょっと起きてようかな」


 え、何それ可愛い。今日は何もしないつもりだったのに揺らぐんですけど……



「唯華ちゃん、くすぐったいよ」

「ふふ、可愛い」


 これは、誘われてる……?? どう考えても、可愛いのは貴方ですが??


 リビングに移動して、ラグに腰を下ろせば唯華ちゃんが足の間に座ってきて身を委ねてきた。それだけでも可愛いのに、今は唯華ちゃんのお腹に回した腕を撫でてきて、いたずらっぽく見上げてくる。

 正直、調べている内容は殆ど頭に入ってこない。


「んっ……ちょっと、調べ物は?」


 吸い寄せられるように唇を重ねれば、唯華ちゃんから抗議の声。


「うん。ある程度はもう調べてあるし、明日の朝にする。唯華ちゃん、シてもいい?」


 本当は調べ終わったら大人しく寝ようと思ったんだよ? でも絶対誘ってたと思うんだ。


「ダメって言ってもいいの?」


 その挑発的な目、最高なんですけど。OKってことでいいよね? ね?


「やだ」

「ふふ、聞く意味な……っん……ゃ」


 首筋に唇を寄せれば、ふるりと震えて声が漏れた。あぁ、いい声。


 私に触れられる度に我慢するように唇を噛みしめてるけど、いつまで我慢できるんだろうね? 


 体勢を変えて組み敷いたところで気がついた。ここで最後まで、ってダメか……背中痛いよね。ソファでってOKしてくれるかな……


「ごめん、奥の部屋布団敷いてないや……ソファでもいい……?」

「だめ」

「だよねぇ……やっぱりしないって言われそうだから、唯華ちゃんも一緒にいこ?」


 失敗したなぁ……今日は本当に大人しく寝る予定だったんだよ……雰囲気台無しだけど、唯華ちゃんが笑ってるからなんでもいいや。

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