5.初デート?

「はぁー、可愛かったぁ……」


 1階の自分の部屋に戻って、大きく息を吐いた。

 唯華ちゃんは全くそんなつもりは無いんだろうけれど、上目遣いで見上げてきたり、身を委ねてきたり、唯華ちゃんも私の事好きなんじゃ、って勘違いしそうになる。むしろ勘違いしてしまいたい。


 唯華ちゃんと付き合えていたのに、満足に想いを伝えられなかったヘタレな自分が情けなくて、何度も後悔した。


 好き、と伝えて、答えを聞きたくなくて部屋に戻ってきてしまった私はやっぱりヘタレなのかもしれないけれど……

 でもまだ初日だし、初めから攻めすぎて引かれても嫌だし、階は違うけど一緒に住んでるんだから会おうとすれば毎日会える。


 明日は一緒に出かける約束だってしたし、私にしては上出来だと思う。行先はスーパーだけど。


 明日着る服も決めたし、こんなに明日が楽しみなのは久しぶり。



「あーちゃん!!」

「ぐっ……」


 元気な梨華の声と衝撃で目が覚めた。


「梨華……?」

「あそぼ!」

「今何時……?」


 時計を見れば、7時前。早起き……


「まだ早いから、もうちょっと寝よう? おいで」

「うん!」


 梨華を呼べば、まだ眠かったのか少しして寝息が聞こえてきた。30分くらい一緒に寝て、朝ご飯の支度をしようかな。



「旭、おはよう」

「ん……? 唯華ちゃん?」

「うん。朝ごはん作ったけど、食べられそう?」

「食べたい。……今何時!?」

「9時ちょっと過ぎ」

「うそ!?」

「昨日帰国したんだし、疲れてるでしょ。起こすか迷ったんだけど……」


 いつの間にか一緒に寝ていた梨華は居ないし、30分だけのつもりだったのに……


「ごめん。起こしてくれてありがとう」

「梨華がもう待ちきれなくて……ご飯食べたら買い物行ける?」

「うん。大丈夫。着替えてリビングに行くね」

「待ってるね」


 唯華ちゃんに朝起こして貰えるとかなんのご褒美?


 着替えてリビングへ行けば、両親はもう仕事のようで居なかった。

 テーブルには私の分の朝食が準備されていて、二度手間になって申し訳ない……私がいるから、今日はこっちで作ってくれたのかな?

 2階にもキッチンがあって、土日は2階で作ることが多いって言ってた気がするし。


「あーちゃん!! おかいものいく?」

「うん。ご飯食べ終わったら行こうね。待っててくれる?」

「まってる!!」

「ありがとう」

「ゆーも!!」

「うん、悠真もありがとう」


 あぁ、朝から可愛いが溢れてる……



「唯華ちゃん、ご馳走様でした。洗い物変わるね」

「あとは食洗機に入れるだけだし、大丈夫」

「何から何までごめんなさい……」


 お昼と夜ご飯で挽回しなくては……


「梨華と悠真の着替えお願い出来る?」

「任せて!!」

「ふふ、よろしくね」


 食い気味に返事をしてしまって笑われたけど、朝から幸せです……



 スーパーに到着して、それぞれ子供用のカートを押しながら食品をカゴに入れていく。

 今まで気にしてなかったけど、子供用のカートって凄い。運転席みたいになっていて、ちゃんとハンドルが付いていて、2人とも楽しそうに乗ってくれている。


「子供用のカートって凄いんだね」

「いつもは取り合いなんだけど、今日は1人ずつ乗せられるから助かる」


 そうだよね。1人で2つは押せないもんね。


「これから一緒に来ようね」

「……うん」


 やった。これからも一緒に買い物してくれるってことだよね。



「1個ずつ選んでおいで」

「「「はーい」」」

「え、旭も??」


 駄菓子コーナーで、梨華と悠真と一緒に駄菓子を選ぶ。まず子供と一緒じゃないと立ち寄らないしね。


「りか、これ!!」

「ゆーも!!」

「あーちゃんも?」

「うん、同じので。ママの分もとってくれる?」

「「うん!!」」


 素直で可愛いなぁ。強請られたらなんでも買っちゃいそう。



 会計を済ませて、唯華ちゃんの車に買ったものを積み込む。私の車はまだ納車されないから、暫くは唯華ちゃんに頼ることになっちゃうけど、納車されたら私が運転するからね。


「唯華ちゃん、運転ありがとう」

「運転嫌いじゃないし、気にしないで」


 助手席から見る唯華ちゃん、かっこいいなぁ。ニヤニヤしながら眺めていたら眉をひそめられたけど、そんな所も好きだなって思う。



「あーちゃんー!!」


 家に着いて、お昼ご飯の準備をしていれば梨華が走ってきた。


「どうしたの?」

「これ、あーちゃんの」

「あぁ、ありがとう」


 買ったお菓子を届けに来てくれたらしい。頭を撫でれば、嬉しそうに笑うのが可愛い。


「梨華、あーんして?」

「おいしい!!」

「良かった。もう少しでできるからね」

「うん!」


 ちょうどいいところに来てくれたから味見をしてもらおうとチキンライスを食べさせれば、満面の笑顔で美味しいと言ってくれてホッとした。


 オムライスを皆で食べて、片付けは唯華ちゃんがしてくれる、と言うからお言葉に甘えて、外に行きたがる梨華と悠真を連れて庭に出た。


「転ばないようにね」

「「うん!」」


 走り回る2人を座って見ていたけれど、呼ばれて一緒に走らされる。走るのなんて久しぶりすぎて体力が……


「はぁ、は……2人とも、中入らない?」

「はいらない!!」

「ない!!」

「おお……そっか……」


 これは体力つけないとついていけない……


「梨華、悠真、お昼寝するよ」

「「や!」」

「夕方ぐずるんだから、早く」

「……はーい」

「旭、ありがとね」


 さすが母、強い。

 唯華ちゃんも一緒に昼寝するのかな? 起きてくるまで何してようかなぁ……


 ソファに横になりながらぼーっとテレビを見ていれば、レジャー特集が始まって、食い入るように見てしまった。色んなところに一緒に行けたらいいなぁ。


 スーパーのカートもそうだけれど、環境が変わると気になるところが変わるというか……前までなら、一緒に行きたい人もいないし、たいして興味を持たなかったと思う。

 私にとっては、こんな変化も嬉しかったりする。


 唯華ちゃんに選んでもらえるように、頑張ろ。

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