3.帰国

 帰国を控えて、両親、唯華ちゃん、姪っ子の梨華、甥っ子の悠真へのお土産を沢山買った。


 唯華ちゃんは変わらず実家に居てくれて、離婚して1年後くらいからビデオ通話をさせて貰えるようにお願いをして、週に一度話せるようになった。

 唯華ちゃんとたわいもないことを話したり、梨華と悠真も沢山話してくれるようになって、会えるのが待ち遠しい。



 待ちに待った帰国日当日、空港に到着して、唯華ちゃんに到着の連絡を入れた。

 迎えに来てくれる、と言ってくれたけれど大変だから、とお断りした。早く会いたいのはもちろんあったけど、梨華と悠真の準備とか大変だしね。


 唯華ちゃんに食べたいものを聞いて、夜ご飯をテイクアウトして、真っ直ぐ実家に帰る。梨華は小さかったから会ったことなんて覚えていないだろうし、悠真は初めて会うから懐いてくれるかな、なんて思いながら玄関のドアを開けた。


「ただいまー!」

「あーちゃんだー!!」

「あーちゃー!!」

「梨華、悠真、ただいま!!」


 心配は不要だったらしく、元気よく走ってきた2人を抱きとめる。天使……!


「旭、お帰り。お疲れ様。」

「唯華さん、ただいま……」


 うわ、なんか照れる。2人に少し遅れて唯華ちゃんも出てきてくれた。私も実家に住むことになっているから、これから毎日会えると思うと嬉しくて仕方がない。


「いっぱいお土産買ってきたからね」

「おみやげー!」

「やげー!」

「あー、かわいい……天使……」

「旭、あんまり甘やかさないでよ?」

「努力します……」


 唯華ちゃんに、梨華に悠真。許されるならでろでろに甘やかしたいです……



 唯華ちゃんにもお土産を渡して、仲良くお土産を広げている2人を見ていたら、横から視線を感じた。


「唯華さん、どうしました?」

「久しぶりだけど、あんまり久しぶりな感じがしないなって」

「あー、そうですね。週1でビデオ通話してましたし」

「こんな風にまた話せるようになるなんて思ってなかった」

「……私もです。でも、私は嬉しいです。ずっと忘れられなかったので」


 会った時に、と思っていたから今まで伝えてこなかったけれど、私の気持ちを知っておいて欲しい。


「……うん。私も嬉しい」

「昔も今も、唯華ちゃんが好きだよ。もちろん、恋愛的な意味で」

「……ありがとう。でも、私は……」

「待って。返事はしないでください。2年経ったとはいえ、まだ傷は癒えないでしょうし、すぐに、なんて考えてません。ただ、そばにいさせて貰えれば充分です」


 唯華ちゃんを困らせたい訳じゃない。一緒にいられるだけで幸せだから。



 両親が帰ってきて、みんなで夜ご飯を食べて、賑やかで楽しい時間を過ごした。向こうでは1人でご飯を食べることが多かったからな……


「梨華、悠真、お風呂入っちゃおう」

「や!! あーちゃんとはいる!」

「あーちゃ!!」


 唯華ちゃんの呼び掛けに拒否をする2人。ビデオ通話をしていたとはいえ、こんなにすぐ懐いてくれるなんて思っていなかったから嬉しい。


「唯華さん、私が入れてもいいですか?」

「いいの?」

「はい」

「じゃあ……お願いしようかな」

「よし、一緒に入ろっ」

「はいるー!!」

「るー!!」


 あぁ、可愛い……


「お風呂案内するね」

「はい。着替え取ってきますね」


 2階に上がるの初めてで緊張する……リフォームをして、玄関と1階のリビングは共有で2階部分は兄夫婦の空間だったから、入ったことがなかった。


「お邪魔します……」

「散らかってるけど、どうぞ」


 おもちゃが沢山あって、子供がいるおうち、って感じ。なんかいいなぁ。


「2人の着替えの用意とかお願いしてもいいですか?」

「もちろん」


 3人でお風呂に入れば、顔に水がかかっただけで泣く、と聞いていた梨華が泣かなくなっていて、子供の成長って早いなぁ、ってじーんとした。


「旭、2人の着替えここに置いておくね」

「ままー! ゆー、でるー!」

「悠真、出るの? 待ってね。唯華さん、悠真出るのでタオルお願いしますー」


 悠真を抱き上げて浴槽から出て、ドアを開ける。目を見開いた唯華ちゃんに悠真を任せて、再び湯船に浸かった。

 悠真はまだ一人じゃ出られないし、と自然と抱き上げていたけれど、浴槽から出すだけで、唯華さんに開けてもらえばよかったのか、と今更ながら思った。

 いや、私の裸を見たところでなんとも思わないか。


「梨華、そろそろ出る?」

「でるー!」

「じゃあ、10まで数えようか。出来る?」

「できる!」

「よし、いーち、にー、」


 数え終えて出れば、もう唯華ちゃんと悠真は居なくて、梨華を拭いて用意されていたパジャマを着せる。自分でもできると聞いているけど、つい手伝っちゃう。バレたら唯華ちゃんに怒られそう……


 梨華と自分の髪の毛を乾かしてからリビングに行けば、唯華ちゃんに抱っこされて寝ている悠真の姿。唯華ちゃんも悠真も可愛すぎて……


「旭、お風呂ありがとう」

「いえ。梨華も眠いよね? 自分でお布団まで行ける?」

「あーちゃんと寝る……」

「いいけど、ママいなくて眠れる?」

「ママも……」

「梨華、旭困らせないの。行くよ」

「やだ」

「梨華……」

「よし、あーちゃんがお布団まで連れて行ってあげる。おいで」


 梨華を抱っこすれば、唯華ちゃんが眉を下げた。可愛い……


 布団に寝かせて絵本を読んであげていれば、あっという間に寝てしまった梨華を眺める。可愛いなぁ。

 あれ、唯華ちゃんも寝てるじゃん。かわい……


 可愛い3人の寝顔を眺められるなんて、こんなに幸せなことがあっていいんだろうか? 唯華ちゃんの寝顔なんて、付き合っていた時でもほとんど見たことないもんね。


 名残惜しいけれど、いつまでもここにはいられない。いつかここで寝れるようになりたいなぁ……


 布団から抜け出て、起こさないようにそっと部屋を出てドアを閉めた。


 あれ、そういえば唯華ちゃんはお風呂どうするんだろう? 気持ちよさそうに寝てたし、朝でいいのかな。いや、でも寝落ちしちゃうと最悪、って言ってたことあったしなぁ……


 うーん……


 1度だけ声をかけて、ダメなら寝かせてあげよう、と戻ってそばに腰かければ、眠っている唯華ちゃんの頬を伝う涙。

 あぁ、やっぱりこんなにも傷ついてる。

 クソ兄、全人類から呪われろ……


「唯華ちゃん……泣かないで……夢の中に入って抱きしめてあげられたらいいのに」


 そっと涙を拭えば、ゆっくりと目が開いて、驚いたような唯華ちゃんに見つめられた。


「あさひ……?」

「起こしちゃってごめんなさい。お風呂まだだったよな、って思って……」

「あぁ、寝ちゃってたか……助かる。ありがと……っ!?」


 泣いていたなんて思わせない笑顔でお礼を言ってくれた唯華ちゃんが愛しくて、2人を起こさないようにそっと起き上がった唯華ちゃんを抱きしめていた。


 付き合っていた時も、歳下の私には弱いところなんて見せてくれなかったよね。今なら、ちゃんと支えられると思うんだ。


「唯華ちゃん、私、あの頃よりは大人になったよ。今なら支えられると思うから、頼ってね」

「……ありがとう」

「……突然ごめんなさい。じゃあ、おやすみなさい」


 腕の中の唯華ちゃんに手を出してしまいそうな気持ちを抑えて、ゆっくり離れた。


「旭、もし良ければ、お茶入れるからリビングでゆっくりしてて?」

「えっ、いいんですか!?」


 もう少し一緒にいたいな、と思っていたから嬉しい。



「唯華さん、髪濡れてますよ」

「うん、後で乾かす」


 お風呂から出た唯華ちゃんは濡れ髪のまま冷蔵庫を開けて麦茶を取りだした。すっぴんの唯華ちゃん、幼くて可愛い……


「旭も飲む?」

「えっ、いや、大丈夫です」

「そっか」


 見すぎたらしい。髪、乾かしたいって言ったらウザがられるかな……次に2階に呼んでもらえるのがいつになるか分からないし、この機会を逃したら次は無いんじゃないか、なんてぐるぐる考えてしまう。


「……なに??」

「いや、その、髪……」

「……髪?」

「かっ、かわっ……あ、いや、なんでもないです」


 首を傾げる唯華ちゃんの可愛さに思わず声が出た。反則でしょ。可愛い。


「かわ?? 旭は明日休み?」

「はい。明日まで休みです」

「そっか。あのさ、敬語やめない?」

「え、いいんですか?」

「うん。昔はタメ口だったじゃん。それに、ちゃん付けにタメ口に戻ってた時あったし、これから一緒に住むんだし」


 あれは気持ちが昂ったというか……心の中ではずっと唯華ちゃんって呼んでたけどね。


「じゃあ……唯華ちゃん」

「うん」

「へへ」

「なんで照れるのよ」

「いや、なんか嬉しくて?」


 手を伸ばせば触れられる距離にいて、呆れたような視線すら嬉しい。

 誰よりも傍で支えて、頼って貰えるようになれたらいいな。傍にいさせて貰えれば充分、という気持ちに嘘はないけど、少しは意識してもらいたい、という気持ちもあって。


 好き、なんて言えなかった昔の私とは違うから覚悟していてね?

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