第46話 不穏な気配
夕暮れ時に辿りついた離宮は、荘厳だ。
以前に王都であったときに使われていた城の隣に建てられていて、迎賓館として使われていた。もちろん管理人がいて、今回の滞在に合わせて使用人や兵士を在中させているけれど。
広大な庭の向こうに見える白亜の外壁は神話の神々が精緻に飾られ、趣向を凝らした彫像がそこかしこに置かれている。天を突かんばかりの塔も向こうに見えるし、入口の扉は贅を凝らした重工なものでとても大きい。
中に入れば、大理石の磨かれた床が艶やかに出迎えてくれる。外観だけでも圧巻だが、内装も凄まじい。
かつての王族の権勢を物語っているかのように派手だ。金がふんだんに使われた取っ手や額縁、装飾の数々に、壁に埋め込まれた絵画に、天井に輝くシャンデリアのクリスタルが煌めく。
正直、目が痛い。
初めて訪れた場所だが、ラナウィの美的センスはかつての王族とは少し異なるようだった。
「元迎賓館だから、他国に自国の権力を示すには効果的だろ」
思わず立ち止まったラナウィの横で、ハウテンスが説明してくれた。
なるほど、と納得しつつも、もっと目に優しい部屋に行きたいと願ってしまう。
与えられた部屋に通されると、思わずため息が出た。
正直、部屋の中も多少の控えめになった程度で落ち着かない。慣れないきらびやかさは、ごりごりと精神を削るらしい。両親もそんなに派手好きではないことを感謝しつつ、『箱庭』の小さな屋敷が恋しくなった。
なんとか部屋にあるソファで座っていると、ハウテンスとヌイトゥーラがやってきた。
「疲れてるとこ申し訳ないけど、ちょっといい?」
「どうしたの?」
二人の表情はどちらかと言えば浮かないような顔をしている。
ラナウィは自然と背筋が伸びた。
二人に向かいに座るように促せば、すぐにハウテンスが口を開いた。
「明日の早朝に神殿に行くだろ。そのあとはここに戻ってくるだけだけれど、何かを仕掛けてくるには絶好の機会だと思うんだよね。ラナウィは城からほとんど外に出ないじゃないか。だからこそ、狙っていたというか」
「そうね。だからこそ、こうして護衛を連れてきているわけだし」
「僕もテンスに言われていろいろと防御の魔道具を作ったりはしたんだけど、相手がどうくるかわからないからラーナには十分注意してもらおうと思って」
ハウテンスの横でヌイトゥーラが神妙な顔で頷いた。
「そろそろ限界らしいよ。相当焦っていると聞いている」
ラウラン公国の後継者争いは、結局第一公子と第二公子で争い合っている。大公が後継を指名しないためだ。
だが、ここにきて大公に病気が発覚し、公務を二人の公子が担うようになっていた。体調は落ち着いているが、引退真近だと言われている。
そのため両陣営とも、決定的な何かを欲している状態だ。それがあラナウィの加護の力なのだろう。
「このまま大人しくしてくれるか、諦めてくれればいいのに」
「そうもいかないでしょ。完全に相手を潰しておかないといつ寝首をかかれるかわかったもんじゃないしね。その気があるとかないとかでなく、存在自体が目障りなんでしょ」
「だから警備の強化をお願いしてあるけれど、油断しないに越したことはないからね」
「バルセロンダには話してあるのかしら」
ふと、護衛長であるバルセロンダが気になってハウテンスに尋ねてみる。
「今回の護衛の隊長だしもちろん話しているよ。ま、勘のいいバルスがいれば大丈夫だとは思うんだけどさ。なりふり構わないやつって何をするかわからない怖さがあるからね」
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