第45話 眠れぬ夜
成人した王族は、始まりの地である旧王都にある神殿に詣でることになっている。
現在ある王都からは一日ほど移動した距離にある高原だ。
湖沼地帯の真ん中に神殿だけが建っている。
護衛としてバルセロンダとサンチュリ、ハウテンスとヌイトゥーラもついてくる。
早朝に出掛けて近くにある離宮に滞在して、次の日の昼に詣でるという計画だ。
二泊三日も王都を離れたことのないラナウィにとっては初めての小旅行となる。
実は生まれた際に洗礼式をその神殿で行ったそうだが、もちろん覚えていないので、今回が初としている。
母と数人の家臣たちに見送られて馬車に揺られてゆったりと進む。同乗しているのはラナウィ付きの侍女であるルニアだ。
馬車と並行して走る馬にバルセロンダとサンチュリの姿が見えた。後続の馬車にハウテンスとヌイトゥーラが乗っていて、さらに護衛の騎士が馬で続く。
成人の宴の時、庭でバルセロンダの腕の中で褒められた。
なぜそんなことになったのか聞いてみたら、彼は末っ子の弟によくねだられるそうだ。つまり兄が弟を褒める構図らしい。
そんなこと兄弟でするのかどうか一人っ子のラナウィにはわからなかったけれど、バルセロンダの弟が心底うらやましくなった。それと同時に、やはりまったく女扱いされていない現状に絶望した。
不毛な恋なんてもうやめて次に進むべきだ。
頭ではわかっているのに、心が納得しない。
結局、悶々とした夜を過ごし、今日も馬車に揺られている。
顔色の悪い主人を心配してルニアは顔を曇らせている。ラナウィの目の下にはくっきりと隈が浮かんでいて、それを化粧で誤魔化しているのだから。それを施してくれたのはルニアなので、化粧の下の状態はわかっている。だが、ラナウィは眠れない夜を過ごす原因を決して話さなかった。
話せるわけもないが。
主人の覚悟を感じ取ってルニアも何も言わない。ただ、心配げに口を閉じているだけだ。
恋に振り回される愚かな主人。
本来あるべき時期女王としての威厳なんて少しもない。今までの努力がすべて無になる。一体なんのために頑張ってきたというのか。
愛して導いてくれている両親にも、信じてくれている国民にも、申し訳ない。
成人したのだから、いい加減終わらせるべきだ。
だというのに、あの夜を、抱きしめられたぬくもりを、力強さを思い返して、少しだけでも甘さがあるんじゃないかと勝手に期待してしまう。
もしラナウィの気持ちに少しでも寄り添うような感情が彼の中にあってみたら、大変なことになるというのに。
結局、もうこれ以上何も求めないと己を律するしかない。
近づかず、護衛と主としての適切な距離を保つのだ。
ラナウィはすっと背筋を伸ばして、毅然とした顔を窓の外へと向けるのだった。
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