第37話 作戦決行!?
闘技場の舞台の上で、女王はにこやかにベルジュと対峙していた。
横にいる女王付きの近衛長が目録のようなものを持ち、女王の反対側にいる魔法局長が金で作ったメダルを掲げていた。
司会者が朗々とベルジュの雄姿を讃え、会場中が拍手喝さいに包まれた。
派手さはないが、圧倒的な勝利には違いない。
第一回闘技会はこうして、穏やかに終わろうとしている。
それをやや離れた王族の席から眺めながら、ラナウィは今か今かと時が動くのを待ち構えていたが、ハウテンスから聞いていた合図はまだない。
女王は一声かけて彼の手に目録とメダルをそれぞれ渡していく。
ベルジュはそれを受け取り、言葉を返した。
感謝の言葉でないことは明白だ。
左右にいた近衛長と魔法局長の顔色が瞬時に変わった。
そして、母の様子も一変する。
にこやかな表情から一転、ごっそりと表情が抜け落ちた。
呪いをかけられたのだと、理解する。
横にいた二人が動くよりも先に、ラナウィは立ち上がって舞台上に静かに近づいた。
「私、感動いたしましたわ!」
「ひ、姫様!?」
無邪気を装って、舞台に駆けあがれば近衛長と魔法局長がそれぞれ別の意味で驚いた顔をする。
普段物静かで、落ち着いた物腰のラナウィが興奮したように舞台にあがってくれば何事かと慌てたのだろう。
けれど、母の表情は動かない。呪いをかけられて操られているからかもしれない。
「近づいてはなりません、その男は……っ」
ラナウィを制止する近衛長に向かってわかっているというように頷いて見せた。
何か考えがあると伝わったのか、それ以上行動を止められることもない。
ベルジュに近づき下から顔を覗き込むように微笑みかけた。
実際には怒りしか湧かないけれど。
バルセロンダのみならず、母にまで手を出した。心底、ラナウィは怒りを感じていたのだ。
「いとも容易く相手を倒してしまう、そんな素晴らしいボーチ卿の技量に感服いたしました。ぜひともそのお力を教えてほしいわ。ボーチ卿は騎士ですけれど、魔法もお得意なんですの?」
「姫様……」
「そう簡単に教えられないというのなら、絶対に秘密にしますから」
ベルジュはなぜか凪いだ瞳をラナウィに向けていた。
何も知らないような落ち着いた光を讃えた目は、けれど女王に向けられた途端に激しく灯る。ほの暗く、そして憎悪に満ちていた。
「陛下に進言したいことがありまして、『話せ』」
息をつく間もなく、ベルジュは呪いを乗せた言葉を吐いた。
虚ろな目をした母がゆっくりと唇を動かす。
たとえ呪いで操られていたとしても、大衆の目の前で女王が吐いた言葉を簡単に撤回できるわけがない。そもそも敵国に呪われていたなどと、他国に自国の脆弱性を露見させてしまう事態だ。
なんとしても、この場で、母が話す前に呪いを止める必要がある。
けれど、この場でベルジュを弑することも難しい。バルセロンダの一撃に耐えるほどの技量はある男だ。十分に腕は立つ。
ヌイトゥーラたちはまだだろうか。
焦りの中で、祈るように会場の端に目をやったとき、光る物体が突如視界の端に掠めた。
「な、なんだあれ!?」
「わあ、に、逃げろっ」
会場のそこかしこで混乱した声が上がる。
ハウテンスがすでに手配して、観客たちを誘導するように騎士たちを動かしているはずだが、会場中は大混乱だ。
「姫様、すぐにお逃げください!」
女王をかばったまま後退した近衛長が叫ぶ。
魔法局長は杖を構えて、攻撃に備えている。
会場の端に突如現れたとぐろを巻いた巨大な蛇がゆっくりとその鎌首をもたげた。金色の鱗に、深みのある紅玉の瞳は獲物を見つけて爛々と輝いている。
しゅるっと音をたてて首を伸ばしただけで、すでに目の前にいた。
ぱかりと開いた口を目の前に感じて、ラナウィは心の中で絶叫した。
これ、本当にヌイトの仕業なの!?
ハウテンスが考えた作戦が決行されたのか。どうなのか。
もし違っていたら、命はないほどの身の危険を感じたのだった。
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