第27話 初代闘技会チャンピオン
さすがに『箱庭』に出入りしている全員で向かえば、『剣闘王』の後継者が誰かはすぐに推察されてしまうということで、ヌイトゥーラとサンチュリが残ることになった。ついてきてくれたのはハウテンスだ。
待ち合わせ場所に二人で向かえば、目当ての人物はすでに中庭への出入口で所在なさげに立っていた。
「こんにちは、ネワック卿。お待たせしてしまいましたか?」
「は、はあ? 申し訳ありません、初対面ですよね。ええと、姫様からのご紹介の……?」
ラナウィは今、幻術をかけてもらっているので髪色は金色、瞳も緑とこの国の一般的な色彩をしているらしい。
セルム・ホムクル・ネワックは、困惑げに揺らしてラナウィをしげしげと見つめて、隣に立つハウテンスに視線を止めた。
「紋章付き? まさか――『大賢者』の後継者様……?」
頬に紋章をもつハウテンスは有名だ。
目立つ場所にあるので隠しようもない。まだ十歳という年齢のため社交界など大人の世界には立ち入れないため顔は知られていないけれど、こうして出会えば誰であるかはすぐに判明する。
対して、ハウテンスは王城に出入りしている者の顔と名前をすべて覚えているのだ。
それこそ下級女官だけでなく、出入の業者まですべからくである。
脳が混乱しないかと思うけれど、彼にとっては呼吸をするほどに簡単なことであるらしい。
「はじめまして、ネワック卿。まさか、ラナウィの知り合いが彼だとは思わなったな」
「大切なお友達ですわよ」
心の同士と呼ばせてもらっている。
なぜなら、彼は初めてバルセロンダを見かけたときに、言いがかりをつけていた相手であるからだ。
あの時に芽生えた共感は、大きくなった今でも忘れることはない。
「え、ひ、姫様……?」
「はい、今日はよろしくお願いしますね」
「え、え、え!?」
「魔法で少し大きくなってもらって髪色とかも変えているんだ。ほら、闘技会って年齢制限があるでしょう」
「え、そんな魔法があるのですか?」
「そこは『魔道王』の後継者の力を借りれば、この通りだよ」
「なるほど……? ん、ということは姫様が闘技会に参加されるのですか!?」
頓狂な声をあげたセルムに、ラナウィはまたもや共感する。
さすがは心の友である。同意しかない。
「ですよね、無茶な計画だと思いますよね」
「だから、大丈夫だって。無名の女剣士が初代闘技会チャンピオンだなんて格好よすぎじゃない?」
「それは物語みたいで格好いいと思うけれど、私、剣など扱ったこともないのよ」
「だから、こうして騎士の訓練に参加させてくれってお願いしているんじゃないか」
「はあああ!!??」
セルムの魂からの叫びに、ラナウィも一緒に叫びたくなったのは当然である。というか、すでにハウテンスには無理だと言ってある。
いくらヌイトゥーラに魔法をかけてもらっても、優勝できるほど強くなれるわけがない。それができれば、最強の剣士など量産し放題になってしまう。
ヌイトゥーラが天才といえども、そんなことができるわけがない。
だが、なんど説明してもハウテンスは納得せず、今日という日を迎えてしまったのだ。
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