自然体へ進む関係
シヨゥ
第1話
「お前たちってカップル感がまったくないよな」
共通の友人と食事をしている時にそんなことを言われて彼女と顔を見合わせる。
「どんなところが?」
「なんというか……自然体? 取り繕っていない感じがするって言えばいいのかな。俺の彼女なんて頑張って化粧して、俺の好みに合わせようと頑張っているんだけどさ」
「良い子を彼女にしたな」
「俺もそれに見合うよう努力は続けているんだけれども。まぁ俺たちの話は良いよ。お前たちの話だよ」
「自然体で」
「取り繕っていないか」
彼女と顔を合わせて首を捻る。
「あえて理由を挙げるなら早々同棲したことじゃないかな」
「そうだね。きっとそれが大きい」
「同棲したことがカップル感を削ぐのか?」
「削ぐっていうよりは進化かな。カップルというよりは夫婦に近づくんだと思うんだ。恋愛している途中ってお互いにちょっと特殊な状況にあるわけじゃん。好かれよう、好きでいようって頑張るわけじゃない」
「そうだな」
「頑張るってほんの一瞬だからできることなんだよね。私も最初は彼に好かれようと思っていろいろ頑張ったもん」
「僕もよく見られたいし、楽しんでもらいたいからって頑張った」
「でも四六時中一緒に居るってなるとそんなの無理なわけ。頑張っている特殊な状況が終わって、自然体な普通の状況に戻るのね」
「それが今の状態ってこと?」
「そういうことだな。僕らは自然体な状況でも互いを好きでいられる。それを理解したから力を抜いているんだ」
「だからカップル感がないのか。なるほど」
「カップル感がなくて繋がっていられるのは互いに信頼し合っている証拠かもね。こうやって隣合えていることにちょっとした安心感を感じるし」
「あーもー唐突にカップル感を出してこなくていいから」
しなだれかかってくる彼女の姿に友達は苦い顔をした。
「俺も頑張らないで好きだって言ってもらえるのかな」
「それは彼女次第だよ。お前も背伸びしない彼女を好きって言えるかな?」
「言って見せる! とは言うものの実際に見てみないことには何とも言えんな。とりあえず同棲にこぎつけるところから頑張ってみるよ」
「それだけ彼女とのこと真剣なんだね」
「もちろんよ。とりあえずなんか勉強になった。ありがとうな」
話しの区切りが良いこともありここで食事会はお開きとなった。僕らと別れ彼は独り帰っていく。その足取りの重さが決意した男のもののようで、心の底から応援したくなるのだった。
自然体へ進む関係 シヨゥ @Shiyoxu
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