陽キャ大学生と。
私はキャンプが好きだ。
そう、最近流行っているだろう?そのキャンプだ。
ゆっくりと焚き火を眺めながら、旨い飯を食らう。静寂の中にある圧倒的安らぎ。
そうだ。キャンプは素晴らしいのだ。
中でも私は、1人で行く所謂ソロキャンプが大好きなのだ。孤独を愛すが故に、未だに独身である。
今回は、そんな孤高の私が遭遇してしまった、あるキャンプでの出来事を話そう。
△ △ △
あれは太陽がカンカンに照り散らしていた夏のある1日。キャンプシーズンということもあり、私が行ったキャンプ場も混み合っていた。
そこはテントサイトといろいろなアクティビティが一体となった場所だったため、同じ季節の他の所よりも混んでいた。特に、ファミリー層となんらかの大学生のサークル団体が多かったと思う。
その時点で、私にとってはもう既に大失敗である。
冒頭でも触れたが、私は孤高の虎である。よく知らん他人と触れ合うためにわざわざ遠いところから足を運んだ訳ではないのだ。
しかし幸か不幸か、私が予約したサイトはそのキャンプ場で最高ランクの場所だったため、ファミリー向けのエリアからは離れて孤立していた。
正確には、最高ランクエリアにはテントサイト2つが纏まっていて、それがファミリーエリアから離れた場所にある、という事である。
相方のサイトを誰かが使っていることは確認済みであるため、どんな輩が使っているのか、不安でならない。
とりあえず私は駐車場に相棒のninja1000を止め、そのサイトへ向かった。
△ △ △
嫌な予感というのは総じて的中する物である。
私がサイトに着くと、その時には既にもう片方のサイトに客が入っていた。
しかもあろうことか、陽キャ大学生グループである。
私がキャンプで鉢合わせたくないランキングの堂々の3位だ。因みに1位は上司。
4人組の全員が髪を染めていて、それになんだかチャラチャラとした服装をしていた。私が若かった頃はだな……。と、危ない。これだから老◯予備軍などと言われるのだ。いやはや、世知辛い。
奴等はギャーギャーワイワイとさぞかし楽しそうにテントの組み立てをしていた。4人がかりにも関わらず、私が組み終わっても奴等のはまだ組み上がる様子はない。
話し声に耳を傾けると、またそれがどうしようも無い話題ばかりが聴こえてくる。詳しくは聴こえなかったが、多分そうだろう。
しかも、4秒に1回は爆発した様に大きな笑い声が聞こえる。くそぅ、気になって全くキャンプに集中できない。
その日は紛れもなく夏、な1日だった。それ故に本当に暑い。暑さと大声とが混ざり合って不協和音を成していた。
Colemanの椅子に座り、コーヒーを飲みながらため息をつく。
はぁ、折角の休日が。この様子では楽しもうにも楽しめない。
どうしたものかと空を仰いでいた時、奴らのうちの1人が声をかけてきた。
「すみませーん、ちょっと、テント張るの手伝ってもらって良いですか?どうしても上手く出来なくてですね……」
何故私が。
……と一瞬思ったが、ここで断るのも野暮である。それに炭治郎だったらこんな時、絶対にそうするはずだ。
最近私は鬼滅にハマっている。それで感銘を受け、人のために生きようと思ったのだ。映画は5回くらい見た。勿論1人で。
そうだ、これは炭治郎への第一歩だと考えよう。
こうして私は彼等の手伝いをする事にした。
△ △ △
彼等のテントは5人用の大型の物だった。アルミ製のポールだったため、それをうまく扱えなかった様だ。
このタイプのはあまり設営の経験が無かったが、流石は私と言ったところか。簡単に組むことができた。
フフフ。奴等の羨望の眼差しを感じる。キャンプの呼吸、一の型、テント張りだ。見たか、若造よ。
「おぉ!すげぇ!まじでありがとうございます!」
今日もまた一歩、炭治郎に近づくことができた。感謝されるのは、やはりどんな時でも気分の良い物である。
「あの、良かったら飯、一緒に食いませんか?我々料理同好会なんですよ!」
「ちょっと料理の腕には自信があるんで、良ければ、どうすか?」
テントに戻ろうとしたその時、彼等がそう言って声をかけてきた。
今日は特に飯を作る予定はなく、カップラーメンで済ませようと思っていたのでちょうど良い。折角だし、混ざってみるか。
「よし、じゃあちょっと作り始めるんで、ゆっくりしててください!出来たら呼びますね」
話をしてみると、きちんと敬語も使えるし、性根から腐ってる訳ではない様だった。見た目だけで色々と偏見を持ってしまったのは、些か反省である。
彼等が机とガスコンロを並べて、いざ料理を始めようとした瞬間、場の空気が変わった。
4人全員が押し黙ったまま、それぞれ作業を始めた。
その光景は、まさに圧巻であった。先程までのチャラチャラ大学生とは思えないほどに、ガチである。
あんまり見過ぎても楽しみが減りそうだと思い、私は大人しくテントの中で執筆作業を進めた。その日は召喚された主人公がキャンプ飯をパーティの仲間たちに振る舞う話を書いた。
△ △ △
「おーい!出来ましたよ!」
どうやら完成した様である。なんだか良い匂いがする。
彼等のテーブルに向かうと、先ずその品数に驚かされた。恐らく1時間程度しか経っていないはずなのだが、机はパエリアや、アーリオオーリオ等様々な料理でいっぱいだった。
「さぁ、食べますか!」
彼らのうちの1人が音頭を取った。
「えーっと、それでは!我が料理同好会の初キャンプ開催を祝って、あとは手伝ってくれたお隣さんに感謝して!乾杯!!」
「かんぱーい!!」
声にこそ出さなかったが、私もビールでいっぱいのグラスを掲げた。
クゥッ。やはり、外で飲むビールは旨い。
さぁ、お手並み拝見といこう。
まずは、大量に大皿に盛られたパエリアを頂く。見た目はとても綺麗だが、料理は旨くてなんぼだ。さて、いかに。
グ……ッ!
う、旨い。これは、かなり旨いぞ。最近よくスーパーで見かける様なレトルトのパエリアなんかでは決してない。本格的に魚介の出汁をとって作られているのだろう。
よく味の染み込んだ米に、具の海老やらイカやらのシーフードが完璧にマッチしている。お互いが決してぶつかり合う事なく、だがしかしそれでいて不干渉すぎず、まさしくハーモニーを奏でていた。
これはビールが進む。
次にアーリオオーリオを頂く。ブロッコリーやらタコやら色々な具材が入っている。私は手始めにタコ足を食べてみた。
鼻腔に直接届くようなニンニクの香りに、タコ足の絶妙な弾力。オリーブの風味がそれら全体をまとめ上げている。
つまり、旨い。
添えられていたバゲットをオイルに浸して食してみる。
これはこれは……。
言葉にもならないとは、まさにこの事。なんでもこのバゲットも自家製だという。
同好会、などと言うから適当なサークルか何かかだろう、とも思ったが、侮る勿れ。かなりのハイクオリティである。
他の料理達も全て絶品だった。
初めの方、ただの五月蝿い陽キャ大学生集団だとレッテルを貼ってしまった事を、深く反省した。人は見た目によらない。何か素晴らしい特技や特徴を持っている人間は、それだけで輝いているのだ。
食事中、彼等がある話をしてきた。
「自分ら、プロの料理人目指してるんす。まだ全然そんな実力は無いんですが、それでも、夢持って頑張ってみてます。今後また、会えるかどうかはわかりませんが、もし良ければ俺らのこと、応援してくれると嬉しいです」
あぁ、勿論である。
最初はどうなることかと思ったが、その日は本当に素晴らしい1日になった。なにより、人として大事な事を多く学べたと思う。それもこれも炭治郎のおかげだ。
別れ際、彼等に手を振って自分のテントへ戻った。
その時の彼等の笑顔は、本当に輝いていた。
若者よ。その調子だ。
努力した者が全て報われるとは限らん。しかし、成功した者は皆すべからく努力しておるのである。
うむ、今日もカッコよく決まったな。
△ △ △
さぁ、今回の話は終わりだ。早く次の話に進むか、グローブを買ってサンドバッグを打ち込め!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます