同僚の親子と。②
さて、野菜を切り終えると、次はそれを炒めていく。
多くのキャンプ初心者がカレーを行く先々で作っては、無残なスープカレーを生み出してしまうと言う話はよく聞く。
それは何故か。
「所詮カレーだから笑 誰でも作れるやんな笑」
などとふざけた輩が!あまりにも多すぎるからだ!!
そのような奴らの流すデマのせいで、キャンプで作るカレーはスープカレーになりがち、などと言う根も葉もない噂が流れてしまうのだ。
この流れを根底から断つために、私は今ここに完璧な男カレーライスの作り方を提案させて頂きたい。
まず、野菜を一口サイズに切る。喰う者が男ならばでかいほど良い。見誤るな。
次に、それらをフライパンで油と炒める。ここでじっくりと野菜に火を通しておくのがコツだ。後から煮込む時に「まだ火、通ってないの?」と言ったあるある現象を避けることができる。
さぁ、やっとここで肉の登場だ。先程炒めた野菜類を一度他の皿に移し、油たっぷりのフライパンで豪快に炒める。この時、ほんの少しだけ下味をつけておいても良い。しかし、やりすぎるなよ、男共。味が濃過ぎるとすぐに胃もたれになる。存分に注意してもらいたい所だ。
ある程度火が通ったら、そこに先程の野菜達をもどし、水とローリエを適量入れる。ここで水の量を勘でやろうものなら、大失敗間違いなしだ。
しっかりと購入したルーのパックの裏面を読んで水を入れてほしい。
もしもちょっとだけコクを出したければ、ここで粉末のコンソメを適度に調節しながら入れるのもオススメだ。先ほども言った通り、やりすぎは厳禁だが。
さて、ある程度煮詰まったらば、そこにお待ちかねのルーを入れる。このとき、ルーの風味を消さないために火を少し落とすのを忘れずに。
そうだ。良くやったぞ。これでもうカレーは完成である。
ここにヨーグルトやチョコレートやプルーンなんかの隠し味を入れても美味しいが、キャンプではどストレートに行くのが私的ベストである。
△ △ △
どうやら米もうまく炊けたようだ。ホカホカなそれらをまずよそって、次にルーをかける。
「ねぇねぇ、おじさん!僕頑張って米、炊いたよ!」
よしよし、太郎よ。良くやった。この米は全くお前の成果だ。
私の思う最高の笑みで彼の頭を撫でてやった。
食卓が鮮やかに彩られた。いつのまにかハシモト嫁がサラダを作ってくれていた。シーザーサラダなんてオシャレなもの、いつぶりだろうか。どーんとのった焼きベーコンと目玉焼きが旨そうだった。
そろそろ、体調の事も考えていかねばならぬ年齢である。先月やった人間ドックも、あまり芳しい成績ではなかった。
そんなことを思い出しながら、家族が「いただきます」をするのを見届けた後にサラダから頂いた。なんでも、野菜から食べると血糖値が上がりにくいらしい。
うむ、シャキシャキのレタスに、卵とベーコン。それにドレッシングが良く絡んでいて美味い。これはいいものだ。今度、真似してみようか。
次に、カレーライスを食べてみた。やはり、美味い。このコクがあってこそカレーだ。今日はちびっ子がいるから中辛になっているが、それはそれでまた美味い。刺激の無さに飽きてきたらば、あとでこっそり持ってきたガラムマサラを入れよう。
△ △ △
なんとも平和な食事の時間を終えて、私とハシモト嫁は片付けを。ハシモトと2世はどこか釣り堀へ遊びに行ったようだった。
皿洗いは好きではない。そのため、私はハシモト家に紙の食器類を持ってくるように頼んでいた。ゴミとして嵩張ってしまうが、食器を持ってくるより遥かにいい。洗う手間も省ける。こういう細かな工夫が、キャンプをより楽しいものにするのだ。
とはいえ、鍋など洗うものは残っている。音楽を聴きながら作業をするのを好む私は、ハシモト嫁に許可をとり、イヤホンをしながらの皿洗いをした。聞いているのは勿論Led Zeppelinの4thアルバムだ。black dogから始まるあの名盤を、今の時代はこんな手軽に聞けるのだから本当に素晴らしい。
ちょうど二曲目に差し掛かろうと言うその時、ハシモト嫁が声をかけてきた。AirPodsのノイズキャンセリングは本当に優秀なので、最初は気づかなかったが、肩をトントンと叩かれてやっと振り向き、イヤホンを外した。
「あの、何聞いてるんですか?」
私は迷った。なにせ、私もまだ産まれていない年の音楽である。私よりも若い女性が知っているはずもない。だが、私は嘘をつくのがネプチューンキングの次に嫌いだ。それ故にありのままに伝えた。
「あ!知ってますよ!『天国への階段』が入ってるアルバムですよね!私も大好きで、家にレコード持ってます!ジミーペイジのあのギターソロ、ほんとにかっこいいんですよね!」
本当に、心の底から驚いた。こんなに若い女性が、あろうことがジミーペイジを語っている。音楽のおの字もしらないハシモトが、こんな素晴らしい女性を嫁にもらうなんて、本当にもったいない。
その後も2人で英ロックについて語り明かし、ついにはビートルズの解散理由についての討論を始めるほどだった。
すると、突然彼女は艶かしい声で尋ねてきた。
「ねぇ、イヤホン……片方貸してくれませんか?……一緒に聴きたいです」
彼女は人妻だ。勿論勘違いなどしない。私は、「音楽友達」として、イヤホンの片方を渡した。
私はクラプトンの Tears In Heavenを流し始めた。
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