第2話

 数年前の世界中の人々を驚かせる出来事が起きた。

 魔法使いを名乗る人物の登場である。

 その人物は多数の奇跡を実現させ、現代の常識を覆してみせた。

 雨を降らせ、花を咲かせ、空を飛んだ。

 その人物は告げた。

 「まもなく私の寿命は尽きる。私は後継者を見つけるために表舞台に出てきたのだ。」

 魔法使いは世界中を回った。

 疑う者、助けを求める者、裕福な者、テレビ関係者、個人の取材、研究機関、政府関係者、誰からの要望にも答え、目前であらゆる神の御技を再現して見せた。

 数多くの人々が奇跡の「タネ」を解き明かそうとしたが、誰もその奇跡の正体を解明することはできなかった。

 なぜ、その現象が発生しているのか理由がわからない。まさに奇跡。魔法。数々の機関、組織、団体がその原因を究明しようとして、失敗をした。

 そして、数ヶ月後には魔法使いの奇跡を疑う者はいなくなった。

 

 魔法使いは世界を巡礼するが如く回ったが、決して世の中を積極的変えようとはしなかった。

 世の中のあらゆる問題を解決し、救済する力がありながらも、自身の力を見せつけるだけの存在。

 対処不能の危険分子をされる一方で、大技を見せてくれる大道芸人のような扱いもされる正体不明の人物。

 魔法使いは後継者を探しているらしい。条件はなんなのか。何を引き継ぐのか。どんな運命が待っているのか。魔法使いの話題は尽きることなかった。

 そんなある日。あっけなく魔法使いは死んだ。

 話がややこしくなったのは、そこからだ。

 後継者が現れたのだ。ただし、一人ではない。

 魔法を使う人間が、世界中に多数出現した。

 


 魔法は多岐多様であり、老若男女、ありとあらゆる場所で不思議な力に目覚めた人間が出現した。その法則性は予測不能であった。魔法使いにあったことのない人物も大勢いた。そして、誰が、どんな魔法を使えるのか、知る術はなかった。

 

 世の中は当然混乱した。一時はこれは人類史が終焉を迎える前触れだと囁かれた。このまま秩序が崩壊し、世紀末が訪れると。事実、それだけの衝撃を与える奇跡を操る人物もいた。

 だが、その説は杞憂で終わることになる。

 多少の変化はあったものの、魔法というイレギュラーを取り入れてなお、現代社会はかたちを保ったまま、月日は流れた。

 魔法がらみの事件があった。犯罪もあったし、社会運動も起きた。だが、結局は既存の枠組みの中での出来事。

 火の使い方を知ったように、金属を加工できるようになったように、電気が街を明るくしたように、一つの変化であり、それを取り込んだだけで人の世は続いた。

 

 時間が経つにつれ、魔法について段々と判明していった。

 まず、魔法を使えるようになった者はそこまで多くはいないらしい、ということ。らしい、というのは未だに魔法を使えるか否か確かめる手段が明確になっていないからである。

 空を飛べる、などの超常現象なら話は早い。だが、例えば、足が速い人物がいたからと言って、その人物が果たして身体的に足が速いのか、不思議な力が働いているのか、現代科学で明確に区別をつけることは出来なかった。

 規則性として判断基準をあげるとすれば、魔法を使える人間には左手にアザらしきものがあるということだけ。

 

 次に魔法を継承した者の中に複数の魔法を使う者はいないということ。 

 魔法使いは数多の奇跡を使ったが、それを再現できる人物は一人としていなかった。皆一様に一つずつの魔法を使った。

 また、魔法は受け取ることを拒否することが出来ず、使うことがデメリットになろうと、自ら放棄する手段を人々は知らなかった。

 触ったものを金に変えてしまう魔法があったとしたら、その魔法に一生振り回されることになる。

 それ故に魔法を受け継いだものを「魔法使い」と呼ぶ者は少なく様々な蔑称が生まれたが、「使い手」という呼び方が定着した。

 

 最後に、魔法は受け取った人物が死んだ時、その魔法は他の誰かに引き継がれるということ。

 そこには法則性があった。次に魔法を継承する人物は、生前その人物と深く関わった人物であること。

 親子、親友なら分かりやすいが、顔も見たことのない文通相手、遠く離れた恋人ということもある。

 故人が最期の瞬間に考えた人物、だが決して任意で選べるわけではない。心の底から想った人物が魔法を継承する。というのが魔法に対する法則性であった。

 

  

 「使い手」の一例として先ほどのハルを挙げる。 

 ハルは赤い色から赤い色へと瞬間移動ができる。

 距離は関係ない。

 色がついているものの条件もない。赤いインク、赤い布、赤いネオン看板、なんであろうと赤色という条件さえ満たしていればどこにだっていける。

 自身だけでなく、物資の搬送もできる。

 ただし、月が赤色に見えたとしても、それは月面が赤く染まっているわけではないので、月に行くことは出来ない。

 使用頻度に制限はない。

 疲労を感じたり、時間の流れが変化したり、別の場所で何かが消費されたり、といった現象は確認されていない。

 

 

 ハルのような「使い手」は世界中にいた。

 当然、その未知の力を利己的に使い、「ずる」をする者もいた。

 

 それらを取り締まりは、新たに制定された法の元、「捜査機関」によって行われた。

 

 

 

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