第63回 教育
「「「「「おい、そこ――あ、どうぞお入りくださいっ!」」」」」
規制線が張られた病院ダンジョン前にて、警官らが厳めしい表情で整列していたが、とある集団を前にして敬礼するとともにその場を離れた。
それは、なんとも気怠そうな表情を浮かべた中年の男を筆頭とする、十名ほどの小規模な集団だった。
彼らが警官たちに見せていたのはスレイヤーの名刺で、先頭にいる中年の男がヘラヘラと笑いながら後ろの集団に向かって振り返った。
「えー、俺はな、蔵見ってやつが病欠ってことで、急遽お前たち突入班の指揮を任された班長なわけだが、最近入ったばかりの新人でもあるからここで自己紹介させてもらうぞ。俺の名前は
スレイヤーたちからはなんの反応もなかったが、館野という男は特に気にする素振りもなく、苦笑いを浮かべるだけであった。
「おいおい……あのおっさん、新人のくせに班長だってよ。知ってたか?」
「……知らない。てか、なんであんな頼りなさそうなやつがいきなり班長なんだ?」
「さあ、よくわからないけど、実力があるんじゃない?」
「いやいや、どうせコネでしょ」
「しょーもな。館野ってやつは大ハズレだな」
「あーあ。いつも通り、蔵見さんが班長ならよかったのになぁ」
それはもう総スカンといってもいいもので、誰もが不信感を隠すこともなく、堂々と聞こえるように悪口を言い合っていた。
「おーい、聞こえてるぞー? それじゃ、お前たち、そろそろダンジョンへ入るとしようか?」
班員たちは返答すらせず、館野のすぐ脇を通って素早く病院へと入っていく。
「……はあ」
一人置き去りにされる格好となった館野は溜め息を吐いたのち、頭を掻きながら班員たちのあとを追った。
「おーい、待ってくれぇー、お前たちいぃっ――おっとっとぉ!」
「「「「「アハハッ!」」」」」
待ち伏せしていた班員の一人に足をかけられ、派手に横転する館野。これでもかと失笑を浴びるものの、それでも気にする様子もなく、やはりヘラヘラと笑いながら立ち上がる。
「イタタッ……ひっでえことしやがるなぁ。ここはダンジョン内だから、こっちも遠慮なくいかせてもらうぞ。これからは俺のことをボスと呼べ、お前たち――」
「――あぁ? おい、ふざけんじゃねえよ。何がボスだ。てめえなんかが俺らに指図するなってんだ。ぶっ殺すぞ、おっさん」
班員の一人である強面のスレイヤーが、館野に顔を近づけて威圧したときだった。
「ゔ ぉっ……!?」
その顔が至極間抜けなものに変わったのも当然で、館野が強面の男の口元を片手で掴んだからだ。さらにそのまま反対側の壁に変顔を叩きつけると、それまでヘラヘラしていた中年の男は一転して鬼の形相となった。
「いいか……俺の良治っていう名前はな、良く治めるって書くんだ。それがかなわないやつは必ずこの手で息の根を止めてやるから、よく覚えておけ……」
「……あっ、あがっ……」
それに対して何度もうなずく強面の男。その顔が見る見る青ざめるとともに、下半身はじゅっくりと濡れていた。
館野はヘラヘラとした顔に戻ると、呆然とする班員たちのほうを見やった。
「えー、見苦しいところを見せてしまって申し訳ない。クエストだけではわからないこの病院ダンジョンの注意事項をこれからお前たちに話そうと思う。それはな、杜崎教授についてだ……って、聞いているか?」
「「「「「は、はいっ……」」」」」
すっかりしおらしくなった班員たちを前に、苦笑いを浮かべつつ頭を掻く館野。
「あれでも怒ったつもりなんてまったくなかったが、ちょっと怖がらせちゃったな。えー、話の続きだが、杜崎教授はスレイヤー協会のスカウトをやっておられる方だが、教育係も兼ねている。これは自身が敵として立ち塞がることで、スレイヤーたちの心身を限界まで鍛えるためだという」
「「「「「……」」」」」
「なので、もし彼に遭遇した場合、絶対者クエストというものが表示されると思う。これは、レベル1以上の者が、レベル差が大きく離れている相手に100%の殺意を持たれた場合のみ、一度だけ発生する特殊なクエストだ。万が一これが発生した場合、ひたすら逃げることでしか身を守る術はないと思え。もし捕まったら生きたまま食われるから自害しろ。以上だ」
「「「「「了解っ、ボスッ……!」」」」」
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