第49回 謀
俺たちが人間同士で争いを繰り広げる中、既にデスマスクは喜の顔から楽の顔のフェーズに入っていて、さらに攻撃のカウントダウンも始まっていた。残り56秒だ。
「風間さん、これでよくわかったでしょう。羽田のやつは放置するしかないんですよ」
「……う、う、うむっ……」
真っ二つになった大剣のほうを見ながら、風間は何度もうなずいてみせた。自分がもしあのまま向かっていったらどうなっていたか、嫌でも想像してしまうくらい恐怖に支配されてそうだ。
となると、しばらく俺がなんとかするしかない状況になるな。羽田がいつ持ち直すかわからないし、こうなると間接的に攻撃できるってことでボスのターンが待ち遠しい。次は確か炎のブレスによる全体攻撃で、対処方法は無の境地になることだったか。
この場面は当然、目を瞑ることで極力雑念を消し去り、ひたすらじっとしているしかない窮屈な状況が続くわけだが、羽田を火葬してくれるならお釣りが来るレベルだな――
「――はっ……」
そこで俺はとあることに気付いた。いや、それじゃダメだ。羽田は瀕死状態ってことで、ある意味無の境地にいるじゃないか。これではやつの体に炎が通らないかもしれない。
よーし……それなら挑発するのがよさそうだが、普通に罵倒するようでは性格の歪んだ虐殺者にとってはノーダメージどころか、逆に励ましてしまう結果になる恐れもあるし、相手に読まれないような行動を取って心をかき乱してやったほうがいいだろう。
ただ、やつは想像を絶するほどに巧みな念力の使い手だし、下手に刺激すると危険だから、ボスの攻撃が始まる直前に挑発するべきだ。
◆◆◆
(フンッ、やつらめ、こちらの様子をちらっと覗いてきたが、まさか秘密を告白すると見せかけて、あの爺に奇襲でもさせるつもりかぁ……? しかし、この私に対してそんな単純すぎる手法を使うものだろうか……)
「フシュウウウゥゥッ……」
宙に浮く羽田は余裕の表情を見せていたが、まもなくボスの吐息とともに佐嶋が風間の剣の後ろに隠れるのを見て、片方の眉をひそめた。
「羽田京志郎……! これからとっておきの秘密を打ち明けてやるから、俺が言うことをよく聞いてほしい――!」
(――なんだ、やけに素直に吐き始めたぞ……って、な、なんだと……?)
佐嶋の話に耳を傾けるうち、段々と顔に赤みが帯びていく羽田。その間にも、周囲にはボスの高笑いが響き渡っていた。
「ワシャシャシャシャッ!」
「がっ、がはぁっ……!?」
両目をカッと見開いたかと思うと、両手をだらりと下げて転落していく羽田京志郎。
「……ぐぅ、ぐぐっ……」
屋上でうつ伏せに倒れた彼の視界は、闇に包まれた状況であってもなおグルグルと回り続けていた。
(……ま、まさか、これは、超音波のようなものか。おのれ、佐嶋めえぇぇ……。やつはあの笑い声が数十秒後に来るのを知ってて先延ばししたのかあぁ……!)
羽田は沈みゆく意識の中、歯軋りしつつ念力による結界を入念に展開する。
(……ま、まだだ……まだ終わらんぞ……。さあ、早くこっちへ来い、佐嶋……私の念力によってあの世をたっぷりと意識させたのち、唯一無二の死体を作り上げてみせる……)
だが、そこで飛び掛かってきたのは佐嶋ではなく、スレイヤーの風間のほうであった。
(……なんだ、あの爺のほうか……まあいい。おまけとして死体に変えてやる……)
羽田は対象をぎろりと睨みながらその瞬間を待つ。それから僅かなときを挟んで降ってきたのは、風間が握っていた大剣のみであった。
(……な、何故、回避できた……? 大人しくバラバラにされればいいものを……これも勘の鋭い佐嶋の入れ知恵かぁ……? い、いかん、意識が今にも引きちぎられそうだあぁ……)
忌々し気な顔から虚ろな表情に切り替わる羽田。その顔つきになってからは当分なんの変化もなかったが、はっとした顔に変わるまでそう時間はかからなかった。
(……き、来たか、佐嶋……いや、なんだ、この奇妙な動きはぁ……)
佐嶋が近付いてくる気配は確かにあったものの、そのたびにすぐ消失するということの繰り返しが行われていた。
(……こ、これは、一体なんのつもりだ、佐嶋あぁぁっ――!?)
羽田が心の中で吠えてからおよそ数秒後、彼の視界は見渡す限りの赤色で埋め尽くされることになるのであった。
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