雪ん子の想い出

青山獣炭

Part 1

 わたしは、ある想い出を抱えて悩んでいた。いや、想い出といえるのだろうか。わたしの心の中に、いつの間にか宿っていたある場面……。白日夢とか妄想とかとは、あきらかに違う確かなもの。


 それは幼いころの想い出。の、はずだ。


 わたしは、父さんと母さんの間にはさまれて雪の坂道を歩いている。三人の息が白い煙のようになって、冷たい空気に混じってゆく。坂道をのぼりきると、視界はパッとひらける。


 白い野辺。見渡す限り雪が積もっている。人は誰もいない。野辺はまるで、ふたを開けた時の大きなカップアイスのようだ。わたしはうれしくなって、かけだす。すぐに雪に足を取られてころぶ。コートやらスカートやら、長めの靴下が、びしょ濡れになったのがわかる。冷たくて、痛い。ゆっくり上半身だけ起こすと――そこに、雪ん子が立っている。腰まである藁ぼうしをかぶり、赤い半てんに、わらで作った長い靴。

 雪ん子は手まねきをして、わたしをどこかに誘う。


 どうしてか、ついさっきまで降っていなかったはずの雪が舞っている。静かに……。まわりの音を吸いとりながら落ちて、地面に消えてゆく。

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