第42話 鉄の森、蒸気の霧 - 7
「それで師匠、その工房に行ってどうするんです?というか何やってるところなんです?」
「何をやっているかってところは答えられないけれど、これに詳しいかもしれないってことでね」
そう言ってファイブセブン、銃をルスカに見せるも。
「なんですか、それ」
ルスカは銃を知らなかった。
考えてみれば魔獣か野獣との戦闘が中心の農村では銃の優先順位はそれほど高くないので知らないのは当然だし、傭兵だって銃を主力武器にするには維持費と補給の面から選択肢に入れにくい。
イネちゃんがそれを可能にしているのは勇者の力による部分が地盤になっているし、勇者の力がなかった時期ですら補給面を考慮して冒険者ギルドの転送インフラが使える範囲での活動を中心に進めていたのだから当然だったか。
「銃。この街でそれなりに普及しているのは今でも確認できる……けれど基本外には見せないものではあるかな」
「見せない装備?」
「遠距離からの武器だし、かなり簡単な操作で十分に人を殺せるだけの威力がそこそこの回数出来ちゃうからね」
「武器……ですか」
「そう武器。イネちゃん自身のついでにルスカのも見繕う予定だから希望があったら遠慮せずに言いなよ」
「いやでも金がないですって」
「イネちゃんの財布がそんな寂しいって心配してるの?必要があるのなら傭兵団をひと月くらい雇い続けられる程度には余裕があるから心配しないでいいよ。足りなくなったら稼ぐだけだし」
村長から支払われたお金はイネちゃんの想定よりも多かったからね、絶対ルスカの意思を汲んだ村長と自警団長がルスカの路銀含めて上乗せしてる。
それに村の保存食も相応にいただいているので直近で路銀を稼ぐのはそれを売れば十分な金額を確保できるのは確実なのでイネちゃんの言葉は本心しかないが……どうにもルスカにはあまり伝わっていないのはコミュニケーションの難しさってのを感じてしまうね。
「この街の技術水準を観察してるけど、銃以外にもこういうものも作ってもらえるかもしれないからね」
ルスカに仕込み籠手を見せながらテンション上げ目の声で言う。
この籠手なら村でも盾を展開したりワイヤー飛ばしたり巻き上げたりしているのでルスカも知っているイネちゃんの装備だし、この籠手なら素材以外はこの街でも作れるかもしれない。
正直これほど多機能に出来なくても籠手ベースで小盾展開か、ワイヤー機能くらいは付けれるかもしれない……ワイヤーに関しては結構スペース取るし重量にもなるからルスカ向けではないけど。
強度は落ちるけれど仕込み槍みたいな武器ならルスカにも向いているし、携帯性も確保できるからルスカが悩むようならイネちゃんから提案してみるか。
「そういうからくりってそんな簡単に作れるもんなんですか?」
「簡単ではないけれど、作れなきゃイネちゃんも使えないからなぁ」
「あぁいえ、そんなどこでもって意味です」
「少なくともこの街の職人、その上澄みなら問題なく機能再現は出来ると思うけどね」
オートマチック機構の銃を量産できる環境である以上、仕込み籠手の盾展開くらいなら割と再現余裕だろうけれど……まぁルスカにこれから会うだろう職人さんへの敬意を持ってもらうために多少盛り気味でもいいだろう。
問題になりそうなのは素材だろうし……魔法もあるこの世界での職人技巧という部分はイネちゃんにとっても未知の部分なので説明できないし、個人的な楽しみとして余分な情報を入れたくないという感情と状況でマッチしてない複雑なところ。
ともあれそんな感じにギルドから10分程度、ゆっくりと歩いた辺りでその工房は姿を現す。
看板にはこの世界の文字でサラマンダー工房と隠れるように提示されている辺り、ここの工房主であるルーインさんの人柄をある程度推察することが出来る……絶対面倒な人だこれ。
一応工房とは言え店舗も兼ねている場合が殆どとのことらしいのでノック等はせずに工房に入るも……。
「やってねぇぞ」
蒸気で動く旋盤らしきものの前に立つ中年男性が1人、扉が開く音に対し脊髄反射で言葉が飛んでくる。
「ギルドの方で聞いたらここに行けと言われたので。こいつの整備や弾なんかのことも聞きたいですし」
「あん?」
ファイブセブンを見せながら、工房の中には大きく入らずに職人が近づいてくるのを待つ。
ルスカもイネちゃんがそうしているのだからという感覚なのか工房の中には入らずに待機しているので不慮の事態にはならないだろうし、これが安牌。
「……テメェ、こいつをどこで手に入れた」
「パラススさん」
「隠居してる賢者か?まさかマシナリー方面にも知識がありやがったのか」
うん、この世界だとやっぱり便利ワードだなぁパラススさんの名前。
これだけでも協力としてはかなりのものだし……ただこれだけの影響があるなら今後の多用は控えた方がいいかもしれないなぁ、絶対パラススさんに取り次いでくれって人間出てくるし。
「ふん、とりあえず入れ」
「失礼します」
失礼するなら帰れまで言われるかなとも思ったけれど、問題なく工房の中に入ることが出来た。
「見してみろ、分解してもいいんだよな」
「問題ないです」
ファイブセブンに関しては改造していない純正品、敢えてしているとするならマガジン延長くらいで装弾数を上げているだけなので問題ない。
技術的な面で言っても準ライフル弾を運用できる以外はオートマチック銃の基本系なので、既にこの世界に存在している技術を高レベルで作られている程度ではあるので技術的な面での興味で済んでくれる……はず。
「ミリ単位どころじゃねぇな」
単位はミリセンチなのかと一瞬思ったものの、こちらの想定していた内容を返してくれる。
「言っちゃ悪いが整備に関しては普段使ってるあんたさんのが上手くやるだろうな、弾に関してはこんなでけぇ口径を量産する目途が立たん、別を当たれ」
「作れはするけど量産は無理と」
「弾の製造なんざ個人工房がやるには供給が追い付かねぇからな、本体の方は多少本体がでかくなる前提でならやってやれないこともねぇ」
「珍しくはあるけれど挑戦するレベルではないわけですか」
「そういうことだ、精度って点では賢者の魔法がありゃ出来るんだろうとしか思わねぇしな。職人が作るにしても1個作るのに時間がかかりすぎる……弟子連中にパーツ毎専属させて作らせれば出来なくはないが、やる価値はないな」
貫通力の高いファイブセブンの評価としてはちょっと低いように感じる。
対魔獣であるのなら近接なら有効打を与えられる能力をファイブセブンは備えている以上価値はそれなりに高いだろうと踏んでいたのでこれは以外。
「それでは今優先しているものは……見せてもらっても?」
「……ちょっと考えさせろ」
本来なら秘密にすべき部分だろうし、即追い返されても仕方ない質問をしながら考えてもらっている辺りファイブセブンとパラススさんの名前は十分効いている。
となると現状この世界で必要とされているだろう銃火器となれば……。
「いいだろう、賢者から銃を渡されるってんなら俺に足りてない部分を考え付くかもしれねぇからな」
そう言って旋盤から取り出したのは少し長いバレル。
「超長距離なんざ魔法に任せればいい、魔獣相手に中距離で有効な武器ってことで考えているんだがな」
イネちゃんが予想したように、今この職人さんが優先しているものはライフル銃ということだ。
内部にライフリング構造も見られるし、この街での流行りや最先端を考えるとオートマチック……ガス動作式や電動式なんかも想定したアサルトライフルと考えて問題なさそう。
「そうですね……協力できるかもしれないです」
「そうか!出来るできないは聞かなきゃわからねぇが、客として受け入れるぜ」
なんともまぁ……大変面倒くさいタイプの職人さんというのも正解だったようで。
ともあれ無事に?サラマンダー工房の客として認められたようでひとまず安心したのだった。
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