第7話 人工肛門になったお話 1

 昨年1月、入院病棟で苦しんでいると見たことない青年外科医が来て言いました。


「バーバラさん、今から人工肛門を作ります。」

「嫌です。」


「命に関わるんですよ。」

「‥‥。」


「あの、3ヶ月以降に元に戻せます‥。」

「あー、それなら手術してください。」


 大腸ポリープを取った翌日、腸に小さな穴が出来て腹膜炎を起こし激痛に苦しんでいる時の医師との会話です。


 亡くなった舅が90才で永久人工肛門になりましたので知識はありました。

 義姉と一緒に医師の説明を聞き、夫の実家に行った時は風呂上がりにお世話をしたこともあります。


 ずっと舅から

「ここまでして長生きしたくない。面倒くさい。」と会う度に聞かされていました。


 生まれてからずっと人工肛門ならば当たり前だと思えますが、急に人工肛門になって、「もう治りません。」

 と言われたらショックです。


 私は舅がわりと臭かった記憶があり、人工肛門にしたらピアノの先生は出来なくなると思いました。


 狭い防音室でお腹に便を溜める袋を付けて生活するのです。(イメージがわかない方は調べて写真などを見てください)

※実際は匂いませんでした。


 4泊5日の入院の予定が緊急外科手術になりましたので、レッスンをお休みするためにピアノの生徒全員に連絡をしなくてはいけません。


 私は入院前に自分が死んだ場合を想定して『連絡先』をまとめていました。

 それが役立つ時が来ました。


 とりあえず、夫と5分面会が許可されましたので(コロナ禍なので)『連絡先』のコピーを頼みました。


 手術が無事に済めば自分で連絡し、目が覚めなかったりした場合、夫に連絡してもらうのです。


 夫は看護師詰所に行ってコピーを頼みました。

 A4の『連絡先』を広げて詰所にいた男性に渡すと

「あ、僕がコピーしましょう。」と

 実は大腸の手術をしてくれた先生で、コピーを引き受けてくれました。

 これが良かったのだと思います。


『連絡先』の中に生徒の保護者、森美森(もりみもり)さんがいました。このシンメトリーな名前は結婚して出来上がったそうです。(仮名です)


 実はこの大腸の先生はピアノの生徒のお母さんと元同僚でした。

 この名前が珍しいし、目に付き易いので大腸の手術した先生も気が付いたようです。


 手術後に何度もベッドに様子を見に来てくれて知り合いの知り合いだとバレたので


「よくも私の腸に穴を開けたわね!ミスしたんじゃないの?手が滑ったんじゃない?弁護士に相談するわよ!」


 との言葉を飲み込むことが出来ました。


 一応、大腸の手術をする際に穴が開く可能性についての説明もあり納得していたのですが、まさか自分がなるとは思ってもみないことでした。


 知り合いの知り合いじゃなければ病室で騒ぎを起こすところでしたよ。


                つづく

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