第16話 嵐の前の静けさ・前編

 今日はなんだか、忙しい日になりそうだ。

 私こと中島義行は、引っ越しが終わったばかりだというのにせわしなく部屋の荷物整理をしていた。


 村瀬さん曰く、”異世界と連絡通信を行う通信施設の移転許可が下りた”そうで、「今まではわざわざ指定の場所まで行かなければ通信できなかったのが、自宅で通信を行う事ができるようになった」と教えてくれた。


 通信を行うには通信を補助する設備が必要。そのために、自宅の一室を通信室として使うことができるように、部屋の荷物整理をしているのである。


 更に、自宅で通信が行えるようになった代わりに、”活動地域の支部長に任命されてしまった”とのことで、時たま、他の異世界人たちも来訪してここでしかできない会話や、活動方針の取り決めやら、色々やらないといけない事が増えたのでになったと言っていた。

 今回のドタバタの切っ掛けが、まさにその一言に集約されていた。

 そんなこともあり、部屋の荷物整理は終了し、引っ越し業者によって通信用機材が梱包された状態で運ばれてくる。こうして只のダンボールに包まれている状態をみているだけでは、普通の荷物にしか見えないが、中身となる機材は現実世界の物ではない。

 私たちは荷物を開封し、通信施設として使えるように機材やら何やらを設置していく。細かい所は分からないので、村瀬さんとマリに任せて、あっちからこっちから、準備を進めていく。途中、他の異世界人たちの来訪もあり、作業は順調に進められていった。

 その中でひとり、私たちの活動に密接に関わることになる新たな仲間が加わった。

 森繁未央もりしげみおさんという女性の方で、この方も例にもれず異世界人。

 通信室の管理を行ってくれるそうで、通信設備の移転に合わせて、近所に引っ越してきたと言っていた。

 ちなみに、村瀬さんに魔法の手ほどきをしたのは森繁さんらしい。

 若くて綺麗な人だなと思っていたけど、彼女はエルフと呼ばれる種族だというから驚きである。

 その存在は、予予かねがね伺っていたが、こうして目の前にする日が来るとは。

 それで魔法の先生だというのも納得。


 そうこうしている内に、通信施設の設置が完了した。

 手始めに、異世界との通信テストが行われる。

 モニターに電源が入れられ、音声が入力される。異世界との通信が始まった。


 こうして、異世界の風景を見る機会がこようとは思ってもいなかった。(画面越しではあるが)

 神様が言っていた”転生する事ができる異世界”は、今繋がっている世界とは違う世界だと思うが、もはやそれを確認するすべはない。


 画面の向こう側が映し出され、人の風袋ふうたいが見て取れる。


 男性のようだ。


「あーあー。聞こえるかな?」


 村瀬さんが応答する。


「はい、しっかりと。見えてもいますよ」


「それは良かった。これで通信設備の移転は完了だな。支部長」


「やっぱり、私が支部長なんですね」


 村瀬さんは半ば諦め顔で答えた。


「うむ。では村瀬支部長。さっそくで悪いが、この間の異物が魔法でコーティングされていた案件についてだ。その犯罪組織は無視できない故、掃討作戦が決まった」


 砕けた雰囲気から一転、室内は緊張した雰囲気に包まれた。

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