第3話 来訪者・後編

 一瞬の沈黙の後、彼女は決意の表情を見せ、何かを考えるようにその場に座り込んでしまった。

 私も彼女の近くで座位し、言葉を発するまで静かに待った。


「すみません中島さん。一人で考え込んでしまい、お恥ずかしい所を」


 私は軽く相槌を打ち、彼女は続けて話し始めた。


「私が今からお話する事は信じられないかもしれませんが、聞いてください。実は私はこの世界の人間では無いのです」


「異世界の人間…」


 私は一瞬言葉に詰まったが、神様も別の世界があるという事を話していたし、既に自分が体験している事を思えば、疑う余地など何処にも無かった。


「私が探している物。それは“異物”と呼ばれている、この世界には本来存在しない物質の事です。しかしその前に、私自身の事もお話せねばなりませんね」


 彼女は私の目の前に両手をかざし、呪文? のような言葉を唱えた。

 すると彼女の周りが薄っすらと白い膜のようなもので覆われた。


「これは…」


 疑問の声を上げると、彼女は続いて答えてくれた。


「これは私の世界では魔法と呼ばれるものです。今、私の周りで展開しているのは防御魔法の一種で、自分の身を守るために使います」


「なるほど、防御魔法の。という事は他にも魔法がある。もしくは他の魔法も使えるという事ですね」


「はい、しかしそのお話は本題と外れてしまうのでまたの機会にご説明させて頂きます。話を続けますね。私たちは、こういった魔法を駆使し、異物を回収する使命を持っているのですが、それには、私たちの命を狙おうとする者たちが存在するのです」


 私は彼女の話に耳を傾ける。


「次に、なぜ異世界の人間の命が狙われているのかと申しますと、それは私たちの目的が、彼らの邪魔になるからです」


 彼女の話を聞いて少しずつ理解してきた。


「目的……。つまり“異物を回収されると困る人たちがいる”と?」


「そうです。私たちの目的は、異世界よりこちらの世界に紛れ込んできた異物を回収する事です。その異物が人の手に渡ってしまうと、手にした人間は不思議な力を手に入れてしまうのです。そして、その中には“異物によって得た能力で犯罪に手を染める集団や組織が存在する”という事です。その犯罪組織は異世界人を敵と見なしているので、刺客を送り込んできたりする場合もあります」


「いくつか質問をさせてください。先ほど村瀬さんはと仰いましたね。それはつまり、村瀬さんの他にも異物を回収している人。つまり、異世界人が他にもいると考えてよろしいですか?」


「はい。私たちも異物を回収する組織で動いております。そして、私たちがいるこの地域に異物がある事は判明しています」


「2つ目の質問です。『この地域に異物がある』と言うのはどのように発見したのですか?」


「魔法の一種に探知魔法と呼ばれる魔法があり、大まかな位置までは特定できます」


「なるほど。つまりその異物が、敵である犯罪者集団に渡らないように、先に回収するのも役目ということですね」


「そういう事です。今回の場合ですと、異物を回収するだけのはずなので、敵と出くわすなどのような危険性は無いと思いますが」


「敵……。異物によって能力に目覚めた者たちですか」


「彼らは異物と共鳴することで力を得ていますが、異物を回収し、共鳴出来なくなるまで距離を離してしまえば能力を使えなくなるのです。なので、私たちは転移魔法と呼ばれる特殊な魔法を使って、異世界に対して異物を送り返す手段を持っています。異世界に転移魔法で送り返してしまえば、異物との共鳴がすぐさま途切れ、彼らは力(能力)を失うのです」


「なるほど…」


「それとですね。ここに来る前、中島さんに電話した時に私はひとつ嘘を言いました。近くに住んでいるというのは嘘なんです。嘘をついてすみません。行動するための仮宿はあるんですが」


「あー。なるほど、話をややこしくしないためですよね。その辺に関しては理解しました」


「な・の・で……」


「ん?」


「ここに住まわせて頂いてもよろしいですか?」


「ほぇ!?」


 イカン。変な声が出た。


「ダメですか?」


「いや! ダメとかでは無くてですね!?」


「先ほど『何かお力になれませんか?』と仰いましたよね?」


「いえ! はい! それはですね?」


「勿論、ちゃんと理由があります。一緒に行動していたほうが都合が良いからです」


「それは、そうかもしれませんが!?」


「それに、何か話をする時は、外で聞かれては不味い会話のほうがほとんどですし…。中島さんの能力についても、詳しくお話を聞かせて頂こうかと」


 断れない雰囲気を察し、私は現実を受け入れることにした。

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