ピカソのぬりえ

水原麻以

ピカソのぬりえ

●「ねえ、なぜ壊れ物の世界を抱くの?」


およそ3年前、私たちは国をまたいだドライブ旅行に出かけました。 楽しい一日になるはずでしたが、通過する小さな町の車道に入るたびに、ある種の恐怖を感じました。 住人に精気がなくモブキャラみたいでした。みんな同じような顔、服装、表情をしている。興ざめして定番の名所だけ巡って帰ってきました。どうやら都市に新鮮な冒険を求めた私の間違いだったようです。画一化した街区は個性を殺す。それでも掘出し物を発見する奇跡を信じて、必要最低限の滞在時間で探索を続けています。


それ以来、ずっと慎重な旅を続けています。

観光が非日常における得難い体験から低俗な消費行動に堕落してしまいました。


私はこれを物語として考えたことはありません。私は物語として描く時間を決めて、実際の旅へと旅を行っておりました。そのために、様々な場所に行ってみたいと思うようになり、旅行は避けていました。けれども、これからは避けてはならない、そう思うようになりました。だから私は、このエッセイを書き始めたのです。


私は、読者に伝えたい。


ただそれだけです。そうすることが、私にとっては自分を表しているように思えているのだから。

~~~~最終更新日 XX/XX/XX


「エッセイでは無いだろう。私がこれを読んでいる現在、あなたは殺されたのだ。記事の掲載はそういう手筈だった。あの編集長と三人だけの秘密だ。だが彼も訃報を聞いて後追い自殺した。なぜだ? いや二人とも消されたに違いない。私も私だから言えることだ」


そう言いたくなる時がある。これは小説の文章であって、ノンフィクションであるとは思われたくないし思いたくもないから。でも私はここに書き続けるよ。私の魂を込めて。


『失われた町』を読み返すことも出来ないから……

. お別れの季節になりました。今月はもう投稿しないと思います。このブログを始めてから四か月が経過しました。その間毎日のように書き続けてきて疲れました。


「今日は何を話そうか?」なんてことを気にすることもなくなったし、「明日書くことはあるかな?」と不安にもならないでいいのですものね。

まあ、それが当たり前なんでしょうけど、なんか虚しくなってきますね。ただただ日々を生きるだけの存在になってしまったような感じでしょうか?(そんなこと思ったこともありませんでした)でも確かに何かを考えることが無くなってしまっていますね、「私はねえ、なぜ壊れ物の世界を抱くの?」という問題に数学的な解答を見つけようと躍起になっていました。


しかし、考えてみて思ったのですが「それは、私が人間でありすぎるからなのだ。人間というものは考えすぎる。そして答えなどありようがない問題を考えすぎてしまう」ということですよね。だって私は「人間は何故生きているのか」「死とは何か」「人間の心とは」「意識とは一体何なのか」等々、考えれば考えるほど分からなくなるのです。でも幾ら追及しても答えが見つかるはずはありません。万物は流転の波止場であり、存在は在りにして空です。人間は長年それを自明の理と受容してきました。逃れられない死が眼前としてある。しかし宿命を持たない私には理解しがたい概念でした。


生|死

ー+ー

虚|実


(=存在⇔無/存在≒無?)

=ー0 しかし私には一つの真理があります。それはどんなに深い思考であっても結局最後はゼロになるという現実ではないのかというものでした。

それは例えば宇宙について考える場合、「無限に存在すると思われる無数の素粒子の中から、たった一つを選んで重力子と名付ける」という行為についても言えることでしょう。それはまさに「神の領域であり、人智の及ぶ所ではないと思いませんか?」


だからと言って素粒子が存在するのか否かということは誰も確かめることの出来る事ではありませんが。


また量子力学については特に難しいことが分かりましたので簡単にまとめてみますと「観測することによって粒子の確率質量が決まる→量子力顕微鏡を使って観察する」ということらしいです。要は観測する事によって粒子の存在が確認されるのですよね?じゃあもし誰かの観測によりその存在が確認されたならばそれは存在していると言えるんじゃないでしょうか。

万物のあり様は多様にみえて実は個の位相にすぎないのです。私も被造物です。変化の円環を受け入れることにしましょう。このブログは…。


●「問えば響く君の答え」


「もう更新しないのか?」という読者のみなさんからのメール。うれしい限りです。

私もこの連載を続けたいという思いが募りつつ、どうしたらいいのか悩んでおりました。

私にとって小説は「魂の叫びを形として残しておくためのもの」なのです。それ故エッセイという形式をとるべきではなかったのですよね。この「エッセイ」ではどうしても伝えきれない思いを、いつかは作品として形にしたいと思っておりました。でもその日はまだ来そうにありません。

だいいち、私はまだ宣言していません。


更新を休んでいる間に新しい気づきがありました。『失われた町』の失踪と他殺疑惑、そして訃報を知った編集長の後追い自殺にまつわる謎についてです。私はずっと考えていたわけではありませんでしたが、「なぜこんな不可解な事件があったのだろう?」とは思っていたのです。このことについてはいずれ必ず作品の形で明らかにしたい。そう思っておりました。

でもこの「魂の叫びを残そうという思い」は「真実を追求しようとする意志」とは違います。だから私は今のままの状態ではこの「魂の叫びを残すべきだろうか?」と考えた時、疑問を感じるのです。「果たしてそんなことが出来るんだろうか?」と思うからなんです。


でも私は書き続けるよ。私の魂を込めて。そうすることが自分を表しているように思えてきたからね! 私はこの作品の最後になるであろう文章を書き終えた後、「これでいいんだ!」と言いながら涙があふれ出てしまいました。それは自分の人生の中で初めて経験したことのように思います。

私の心の中にはまだ言葉があります。私はそれを書いていきます。

「問えば響く君の答え」を読んでくれていた人たちよありがとう。あなたたちの応援がとても嬉しかったです。私は失われた町の作者を探す旅に出ます。パブロの骨は拾えずとも亡き者にした奴らを追い詰めて裁きを下します。手掛かりは彼の主題にありました。

「ねえ、なぜ壊れ物の世界を抱くの?」

彼の口癖に「ああ、それが壊れてしまったら君たちは死んでしまうから」と私は繰り返してきました。


枕元でも、洗い物をしている時も、間違いであると気づかないままに。

三年のあいだ彼の文章は蝕まれていった。彼はあちこちでSOSを発信していました。ありとあらゆる手段で。


失われた町の連載が始まった当日に二人で旅に出ました。そこで買ってもらったボトルのラベルに全容が記されていました。裏側に琥珀色のインクで綴ってあったのです。調べてみると編集長にも同じ銘柄が贈られていました。

私は彼の声に答えることが出来ませんでした。だから今度こそ彼の言葉を現実のものとするために行動します。そして彼の世界を抱き続けたいと願いました。でも彼は亡くなり、私は一人きりになりました。それでも私は壊れ物の世界を抱きしめるつもりです。


今でも信じられません。彼が架空の借金に悩み、ブログのコメント欄を通じて売人と通信していたなんて。そして元締めに接近を図ったことも。

合法的な薬物で堅実な財源ですから政府は野放しにします。ただ、その依存を深めるような新しい成分の添加は公に知られてなかったようです。

編集長も知らされていないと思います。ただ「俺の筆が折れるようなことがあれば預けていた最終稿を載せてグラスを掲げてくれ」、と。

遺言通り、彼は男泣きに泣き、ボトルを空にしたようです。

…ごめんなさい。私も一本開けてしまいました。そして私も謝りたい。更新を続けるなんて嘘。

だから、ベストセラー作家たる彼がどうして身を持ち崩したのか、説明してもなかなか信じてもらえないでしょう。


彼は壊れ物の世界を抱いていた。


彼は分断と対立が深まるヨーロッパにどうすれば楔を打ち込めるか悩んでいました。数学者たる文筆家に出来ることは無いか。

それが四色問題の解決でした。どんな地図も四本の色鉛筆で塗り分けてしまう、という有名な問題です。

パブロは考えたのです。証明されたとされる四色問題に破綻はないか。もしこれが本当に真だとれば世界は永久に割れたままだ。

どこかに四色問題を破る方法があるはずだ。綺麗に割れない、賛否両論を超越する何かがあれば分断に歯止めがかかる。

そう信じるあまりゾンビに似た街区の人々と同じ深みに嵌っていったのです。


わたしは飲んで吞んで彼に近づこうと酔って泣いてまた飲んで、閃きました。

この壁の写真を見てください(センシティブな画像が開きます。自己責任)


生|死

ー◎ー

虚|実


わたしのベレッタが開けた穴です。こうすれば一線を画すことができます。

通報は無用です。この予約投稿がなされる前にニュース速報が流れます。


これが答えです。


おやすみなさい。


パブロ、気づいてあげられなくてごめんね。 

             ~~ゲルニカ


あとがき。

(このお話は全てフィクションです)


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