あなたは安心して幸せになっていいのよ
それから、私は何度も彼女を探そうとしたが、結局一度も見つけられなかった。
そして、私は今日も一人、本を読み続けている。
私の青春は、灰色のまま終わってしまうのだろうか?私は、小説家になるのを諦めるべきなのだろうか……? 私はある日、不思議な夢を見た。
そこには、見知らぬ女性と幼い男の子がいた。
二人は私に語りかけてきた。
お前は強い人間になりたいのかと。
私は迷わずはいと答えた。
すると、女性は微笑みながら去っていった。
私はその時、初めてこの人は誰だろうと考えた。
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
目が覚めると、私は泣いていた。
あの夢のせいだろうか? それとも……。
放課後、私はエベレスト先生に出会った。
エベレスト先生はチョモランマ拳法の達人だという。
私はエベレスト先生に弟子入りして、拳法を習うことにした。
先生と過ごす毎日はとても楽しかった。
でも、楽しい時間ほど早く過ぎていくもので、私はもうすぐ卒業を迎えようとしていた。
そんな時、私は夢の中にいるもう一人の私と出会った。
私は私ではない私に問い詰められた。
どうして強くなりたいと願ったの? あなたは弱いままでよかったのに。
あなたは幸せでいるべきなのに。
あなたはエベレスト先生を不幸にしたのに。
それでもあなたはエベレスト先生の弟子でい続けたかったの? 本当に? エベレスト先生はあなたのことを愛していたのに? あなたはエベレスト先生に何を求めていたの?エベレスト先生はあなたに何を望んでいたの? エベレスト先生がいなくなった後、私は必死に努力した。
エベレスト先生が与えてくれたものを無駄にしたくないと思ったからだ。
でも、どれだけ頑張ってもエベレスト先生には追いつけなかった。
そして、とうとう卒業式の日に、エベレスト先生は姿を消した。
最後に一言だけ残して。
ごめんなさい。
それが、最後の言葉だった。
あれから十年経った今も、私は彼女を失った悲しみから抜け出せていない。
今でも時々思うんだ。
もし、私に勇気があったなら、私たちの関係は変わっていたんじゃないかって。
でも、今更後悔しても遅いんだよな。
だって、沙世子はもういないんだから。
だから、もう一度やり直すよ。
今度は絶対に間違えたりしない。
沙世子が死ぬ前の世界に戻れたなら、きっとまた、彼女と出会えるはずだ。
今度は絶対に失敗しない。
沙世子が死ぬ前の世界に戻れたなら、私は絶対に守るよ。
沙世子が幸せになるために、私ができる全てを尽くすつもりだ。
そのためならば、どんな代償を支払ってもいいとさえ思っている。
沙世子に何かあればすぐに助けに向かうつもりでいるけれど、正直あまり期待はしていない。
何故なら、あの時の状況を考えれば、おそらく沙世子が助かる見込みはほとんどなかっただろうから。
あの子は優しい子だったから、もし仮に私と同じ立場になっていれば、同じように身を投げ出してあの子を助けたはずなのだから。
つまり、沙世子には生きなければならない義務などなかったということだ。
ただの自己満足にすぎないと分かっているのだけれども、沙世子のためだと言い聞かせることで私は自分を誤魔化している。
でも、それも今日までだ。
明日は卒業式が控えているからな。
私がすべきことはもう終わった。
私は今まで以上に努力をした。
沙世子がいなくなった後でも、一人でエベレスト先生を師と仰ぎ続けたのだ。
全ては沙世子と出会う前の自分に還るためだ。
私はエベレスト先生からチョモランマ拳法の手解きを受けることにした。
その道程は決して平坦ではなかったが、私は諦めずに励み続けた結果、遂にエベレスト先生からお墨付きを頂けるレベルまで到達した。
今なら、エベレスト先生にも勝てる気がする。
いやいや、調子に乗るんじゃないよと自分自身を戒めつつ私は決意を新たにした。
必ずやり遂げてみせるよと私は胸に誓いながら眠りについた。
卒業式当日になった。
今日という日を迎えるまでに色んなことがあったが、とにかく無事終わってくれればいいと私は思った。
いよいよ最後の授業となるHRが終わり次第、教室は騒がしくなっていた。
みんな思い残すことがないように会話しているようだった。
沙世子のところにも何人か人が来ていたが、どうも沙世子が素っ気ない態度を取っているようで、みんな諦めたように去っていくのを繰り返していた。
そういえば、沙世子のお母さんの姿も見かけなかったが、もしかしたら卒業式自体に出席していないのかもしれないと思った。
私は自分の席に腰掛けてぼんやりと窓の外の景色を見つめるばかりだった。
私は結局最後まで沙世子を助けることができなかったなと思い、唇を強く噛み締めるのだった。
するとそこに沙世子が現れて、私の方へと歩み寄ってきた。
私と二人きりになりたいということだった。
そうして沙世子に促されるがままに私たちは体育館の裏手へと向かった。
「話ってなんだよ」
と私は聞いたが、なんとなく内容は分かっていた。
恐らく告白か何かだろうと思っていた。
だが、そんな私を裏切るかのように彼女は衝撃的な言葉を告げてきたのだ
「私は、死ぬ」と唐突に切り出されて私の思考は停止したまるで夢の中にいるような気分だった。
「え?」と私の口を突いて出たのはたったこれだけの言葉だけだった。
でも仕方ないだろう。
だって突然死ぬなんて言われても納得できないのだから。
それでも私は彼女に尋ねた「冗談はやめてくれよ。
そんな笑えないジョー……クス……」私は彼女の顔をじっと見ながら言おうとした。
でもできなかったんだ。
彼女の顔を見て、言葉を失ったのだ。
彼女があまりに美しくて息が止まってしまったのだった。
彼女が私を見つめる目は真剣そのものでとても嘘をついているようには見えなかったんだ。
彼女は続ける。
「私はもうすぐ死ぬの」私は彼女の言葉を理解するのに時間がかかった。
彼女が死ぬ?もうすぐ?私は頭の中が真っ白になりそうになった。
そして、少し落ち着いてきた私はようやく声を発することができたのだったが、それでも私は彼女に聞き返すことしかできなかったんだ。
すると、「うん。
だからね……お願いがあるの。
聞いてくれる?」と聞かれてしまったのだ。
「お願いって何だよ?聞くだけはタダだし言ってみてくれないかな」と私は答えたのだが、本当は何となくだが何となくだけど予想がついていた。
そして、それは見事に的中してしまったのだった。
「あのね、あなたに生きていてほしいの。
でもね、私は死んでしまうから。
私にはもう時間が残されていないの。
でも大丈夫、私がいなくなってもちゃんと私が生きているから。
だからあなたは安心して幸せになっていいのよ」
「ちょっと待ってくれ。
何の話をしているんだ。
君は死ぬって言い出すし、私が生きるだのなんだのわけが分からないぞ。
そもそも君が私なんかを好きだと言う時点でおかしなことになっているんだよ。
君のことは嫌いじゃないけど、でもそういう問題じゃあなくてだな……。
ああもう一体どういうつもりなんだ。
全く何が起きているっていうんだよ。
私に理解できる言葉で話してほしいんだけど」私はもう自分でも自分が何を言っているのか理解していなかった。
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