バイクについてのエトセトラ
詩川貴彦
第1話 バイク前夜
「バイク前夜」(昭和49年~昭和50年)
はじめてバイクに興味を持ったのが中三のときです。
お盆に田舎のおばあちゃんのところに行っていたときに、従兄がヤマハのカブの後ろに乗せてくれたことがきっかけだったと思います。
それから田んぼのあぜ道で少しだけ運転もさせてくれました。自転車に毛が生えたようなものでしたから運転そのものはなんちゅうことなくできました。クラッチレスのATみたいな3速ミッションでしたし。
びっくりしたのは自転車のようにえっちらおっちらペダルを漕がなくても前に進むことでした。右手のひとひねりでどんどん走っていく。坂道でもぐんぐん上がっていく。ワシはこんなすごいものがこの世にあったのかと感心しました。
そんときは夕方で暗くなりかけていましたけど、ヘッドライトが明るくて田舎道を遠くまで照らしくれる。そんなことにも文明の利器を感じました。
これはもう自転車の比じゃあないぞと。自転車なんか乗っている場合じゃあないぞと。それからすっかりバイクというものにはまっていったのでした。
お盆終わって家に帰って、次の日の自転車漕いで本屋にダッシュしました。
「バイク」の本を買うためです。「モーターサイクリスト」と「オートバイ」という同じような厚さと値段の本がありました。なしてか知りませんが「モーターサイクリスト」は右開き(国語の教科書と一緒)「オートバイ」は左開き(数学の教科書と一緒)になっていました。ワシはそんときは気分で「モーターサイクリスト」の方を買いました。
これ、半分以上広告でしたがとても面白かった。記事も特集も広告さえも面白くて、ワシは教科書よりもじっくりと丁寧に楽しみながら隅々まで読みました。何度も何度も読みました。読者の投稿した「ツーリング記」みたいな記事が3本ぐらい載っていました。それがどんな読み物よりも面白くて面白くてワシを見知らぬ旅に誘ってくれました。
そうしているうちに本屋で見つけたのがB6ぐらいの大きさの分厚い「オートバイの百科」的な500円ぐらいした(と思う)英和辞典みたいな本でした。白黒写真でしたが当時国内で販売されていたすべてのオートバイの簡単な紹介とスペックが載っていました。
しかも「免許の種類と取り方」「売買の仕方や手続き」「ツーリングの方法」「メカニズムとパーツの詳細説明」「事故の対処」「警察のこと」等々何でも載っていたとても中身の濃い本でした。ワシは毎日毎晩、むさぼるようにこの本を読みました。気がついたら「オートバイ」に関する大体の知識が頭に入っていました。
「漢字」「英単語」「方程式」など勉強に関することは相当頑張っても頭に入らんのに。やはり人間「興味関心」があると勉強できるものだと自分で感心したことを憶えています。ワシはそのとき、法令や社会の仕組みというものがなんとなくわかりました。ワシは教科書ではなく「オートバイ」を通して、「オートバイ」を窓口にして勉強できたのだと思います。
それから立ち読みしたり、ときどき小遣いを貯めては「モーターサイクリスト」を買っては読み。読んでは夢を膨らませては、オートバイに乗って「岬めぐり」のような景色を走っている自分の姿を想像して空想して妄想していました。
それが中3の夏から冬にかけてのことでした。ワシは来年16歳になったらすぐにバイクの免許を取りに行こうと決めていました。そんなときですが、愕然とするようなニュースが聞こえてきたのでした。
それは「免許制度の改正」でした。来年(昭和50年)の夏頃に「免許制度」が改正されて「大型(401cc以上)」「中型(126cc~400cc)」「小型(~125cc)」という3段階になるというのです。しかも「大型」は試験場で一発免許のみ。一本橋が追加されるなど難易度が飛躍的に上がってしまうというのでした。ワシの誕生日は11月でしたので間に合わない。たった3か月に合わない。なしてこんなことをするのかと、それからもう少し早く生んでほしかったと切実に思ったのですがもうどうしようもない。
それまではバイクの免許は小型と大型のみで、自動車の免許におまけについてきたようなゆるい時代でした。ワシは「大型免許」は不可能だと思いました。当時から自分の実力だけは」よく知っていましたから。「大型」に乗るのは絶対に無理でした。でもワシが当時欲しかったバイクはホンダの「CB350four」という4気筒4本マフラーの大柄なバイクでした。すでに生産中止になっていたと後で知りましたが、よく行く自転車屋さん兼バイク屋さんの壁に貼ってあった色あせたポスターを見て好きになっていました。
「350cc」なので中型で何とかなりそうです。ワシは高校生になって11月の誕生日を迎えたらすぐに「中型免許」を取りに行こうと決めました。もちろん一発免で。それからというもの、「早く16歳になりたい。」「早く免許が欲しい。」「早くオートバイに乗りたい。」と毎日考えていました。でも時間の経つのが遅くて仕方がない。(還暦過ぎた今では時間がものすごく早く過ぎていくのでやれんのですが)
ワシはそういう目的もあって、密かにオートバイの運転の練習をしていました。オートバイはお父ちゃんのバイクを借りて練習しました。「スズキK125」というビジネスモデルでしたが、ちゃんとクラッチもついていてロータリー式の4速ミッションで2スト単気筒でしたがなぜかマフラーは2本出ている大柄なバイクでした。しかも一年後に一発免許を受けた際の試験車が同型のバイクでびっくりしました。
家の敷地や河原で、あくまで「合法的」に練習したのです。もし「無免許」で捕まったら、一生免許が取れないと聞いていたし、それを全面的に信じて疑わなかったのです。しょせん中ボーでしたからね。
そうして高校入試が迫る中でもコツコツ努力を続けてきた甲斐あって、高校に上がるころには、運動音痴で定評があったこのワシがですね、なんと「アクセルターン」ができるようになってしまったというすごい落ちまでついていたのでした。
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