第11話 マナルキッシュ
彼女は今、目の前で戦うアインダークを見ている事しか出来なかった。
どうしてこんな事になったのか・・・
ビリーは本当に自分達を恨んでいるんだろうか・・・
マナルキッシュは両手を体の前で祈るように合わせ、アインダークをじっと見つめていた。
アインダークはマナルキッシュを殆ど意識すること無く、夢中になって
マナルキッシュはその背中にいつかのビリーを少し、重ねていた。
========
マナルキッシュは孤児だった。
愛の女神・エルデリンの教会で育ち、治療魔術を覚えて女神からの加護を受け、いずれは迷宮の奥にある
そして、長い修練を経て正式な巫女となり、どこかのパーティに入ることが決まった。
教会の巫女、迷宮に入れる体力があり、
人類の悲願である、迷宮の
その為には巫女という存在は絶対に必要だ。
だが、条件の揃った巫女は数が多くない、だから優秀なパーティでなければ巫女の加入は許されない。
優秀なパーティとは、Cクラス以上で尚且つ、迷宮の奥地にいる守護魔獣を打ち倒した実績のあるパーティだ。
守護魔獣の依代を持ち帰ってギルドに納品する事が出来たパーティだけに巫女を加入させることが出来る。
マナルキッシュの加入が決まったのはパーティでは無く単独で迷宮に潜っている男だった。
それは前例のない話。
最初、教会側はソロの冒険者に巫女を預ける事を渋った。
だが、冒険者ギルドがその男はソロで2体の守護魔獣の依代を納品した実績がある。
間違いなく大丈夫だ。
そう言われた、そして、その男の元へと行くことになったのが巫女には珍しいハーフエルフのマナルキッシュ。
自分はハーフエルフだから、死んでも良いと思われてソロの冒険者に入れられたんだ。
最初、マナルキッシュはそう考えていた。
実際、教会側にそういう意図もあっただろう。
亜人種と呼ばれるエルフやドワーフは風当たりが強い、彼女はハーフだが、それでも一目で人間ではないと分かる。
亜人種、つまり、人間では無い知能の高い者達。
エルフ、ドワーフ、妖精族、多様な存在がいるがこの世で争いを好む人間や魔物、魔族等と違い争いを好まない種族。
人間と魔族が戦争に明け暮れている間も自分達の領地である森や山を犯されない限り戦おうとはしなかった。
銀聖剣の勇者、アリス・ヴァンデルフが魔神を打ち倒し、永きに渡った魔族との闘争を終わらせた時。
人間は何もせずに平和を謳歌する彼等を亜人種と蔑んだ。
ハーフエルフであるマナルキッシュも例外では無い、教会という神聖な場所で育った彼女ですらも差別を受けていた。
パーティ加入が決まり、初めて冒険者に会うその日。
マナルキッシュは怯えていた。
彼女にとって冒険者は"荒くれ者"というイメージしか無かった。
不安でいっぱいの、そんな彼女の前に現れたのがビリーだった。
彼は差別的な目でマナルキッシュを見ることなく、彼女を迎え入れた。
彼はマナルキッシュを見てこう言った
「僕は1人だけど、必ず君を護ると約束するよ」
マナルキッシュに向けたビリーは朗らかな、見ているとほっとするような笑顔だった。
そして、その言葉通り、彼は身を呈して常にマナルキッシュを護った。
次第に彼女はその背中に惹かれていった。
迷宮へと足を踏み入れるようになって数年が経ち、Bクラスに上がって少しした頃。
アインダークがビリーにしつこくパーティに勧誘していた。
アインダークはマナルキッシュにも一切偏見の目を向けなかった、それに、マナルキッシュもビリーを認めるアインダークが嫌いでは無かった。
思えばその頃から、アインダークのビリーに対する態度が次第に良くないものへと変わっていった。
実際、アインダークはその頃、ビリーへの劣等感を払拭する様にひたすらに剣を振っていた。
ビリーへの態度は嫌だったが、ビリーに勝とうとするアインダークには嫌な感情よりも好感すら持てた。
男というのはそういう物なのかな、と。
苦手に思ったのはクーリーンだ。
最初の頃はあまり対人関係に積極的でないマナルキッシュに快活な性格のクーリーンがグイグイと話しかけるという関係だった。
マナルキッシュもそんなさっぱりとしたクーリーンに引っ張られるように接していたが、いつの間にかクーリーンはマナルキッシュに何処かよそよそしくなり。
ビリーに対しても冷たく当たるようになった。
何故そんなことになったのか、閉鎖的な環境で育ち、差別を受けて育ったマナルキッシュにはクーリーンが何を考えているのかサッパリ分からなかった。
教会で一緒に育った同年代の同性に冷たくあしらわれた過去のあるマナルキッシュは苦い思い出が蘇り、クーリーンには苦手意識しか抱けなかったのだ。
バラックはそんな状況も、黙して何も言わない。
クラマリオは思うところはあるようだが、苦い顔で傍観するだけ。
いつの間にか、パーティには纏まりが薄れ、子供が作った泥団子のように崩れていくのをマナルキッシュは感じていた。
嫌な予感は思いがけない所で噴出した。
ビリーがいなくなった。
あの、いつも自分を大きな背中で護ってくれていたビリーがいなくなったのだ。
=======
その、ビリーの背中がアインダークの背中と重なって見えた。
そんな連想をした自分が少し嫌になる。
アインダークに失礼な気がしたし、ビリーを裏切っているような気分にもなった。
それでも、今は目の前で戦うアインダークの無事を見守るしかマナルキッシュには出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます