第13話
初めて人の脚を舐めることになった日から数日が経った。
学校の中ではもうすぐ夏休みということもあって、みんなも暑いはずなのに、活気でさらに熱苦しくしている。
あの日の後、凛は少しの間タイツを履いてきていた。
勘のいい潮汐さんに首の赤いのどうしたの、とニヤニヤしながら訊かれると、慌てて蚊に噛まれたと誤魔化していたようだ。
多分バレているだろう。
今日の日ももう後半戦に差し掛かり、昼休憩の時間になっていた。
「でさ〜あの漫画、エロが入ってなければみんなに布教するんだけど、エロが入ってるからなぁ……でもエロがないと成り立たないと言うか……そういうの最高じゃね?」
友人達といつものノリで馬鹿なことを話す。
教室の一角で本当はいけない事を話すのがたまらなく楽しい。
「わかりみが深い」
「その漫画のヒロインちっぱいなんだが……いいんだよ……これが……!」
「今度その漫画教えろ」
「なんかで送っとくわ」
ふと、教室を見渡す。
ぐるっと一周視線を動かすと、最後に行き着いたのは教室の真ん中の方。
凛の席だった
「あーいつかエロ漫画描きてぇ……!」
「あ、ああ」
凛に気を取られて徐々に会話が頭に入ってこなくなる。
彼女は俺たちの方を見て不快そうな顔をするでもなく、輪に入ってくるでもなく、ただ微笑んで見守るようにしていた。
「なぁ、どこまでいってるの?」
「ん、あ……え? なんて……?」
「お前さぁ……」
友人の一人が呆れたような声を上げる。
そして、俺のさっきまでの視線の先にあるものを確認すると、ニヤっとした。
「ほーん……なるほど? 彼女さんに夢中で自分らの話を聞いていなかったわけだ……」
「そ、そういうわけじゃ……」
俺の弁明は奴らの歓声で消し去られる。
「いいなぁ! お熱くてうらやましいなぁっ!」
「くぅっ! ちくしょう!」
彼らに髪をがしがしとかかれ、小突かれてる様子を凛は静かに微笑んで見ていた。
「でよ、まぁ熱いのはいい事なんだが、勉学が疎かになってたり……」
「いや、コイツ、疎かになるほど勉強してねぇから!」
「そうだったわ!」
俺をイジっては友人達が大笑いする。
楽しんでくれて結構。
二人の邪魔さえしなければ。
「で、さ、どこまで進んでるんですか?」
取り巻きの一人がそんな事を聞いた。
「え、なにが?」
「そりゃぁキスとかさ!」
「え゛」
こんなこと聞くなんてデリカシーとかなさすぎだろ。
本人いるんだぞ。
「ほら、言ってみ?」
「ほら、言っちゃえよ! さん にー いち ぜろ ゼロ 零
ASMRのカウトダウンやめい。
男が言っても誰得なんだって。
俺は助けを求めて凛に視線を向ける。
彼女は立ち上がるわけでもなく、何か言葉を発する訳でもなく、手を軽く振って微笑んでいた。
「なぁ、本当はどこまでやったんだ?」
「いや、なにもやってねぇよ……」
俺はなんとかしてバレないように言葉を選ぶ。
だが、奴らの追及を
「キスは?」
「やってるわけないだろ……」
嘘をつくしかここを乗り切れる気がしない。
「俺がキスできる度胸あると思うか?」
「そうだよな! 飴井にはそんな度胸ねぇよなぁ!」
そう言ってみんなが納得しかけた、その時だった。
「いや、これは嘘かもしれん」
と、メガネの友人が言い出した。
君のような勘と頭が良いガキは嫌いだよ。
「確かに……」
友人達はさらに俺をこの羞恥心の拷問にかけようと質問を浴びせ始めた。
「じゃあ、嘘と仮定して。 それ以上が期待できる」
「では、キス以上とは何か」
「それはエッチだろう」
嘘と勝手に仮定するな。嘘だけど。
それにキス以上でエッチは安直すぎないか。
俺も前までそう思ってたけど。
「というわけで、エッチはしたのか?」
奇妙な論を展開され、一気に話が飛躍する。
「ああ、もう! そんなに気になるなら凛に訊けばいいだろ! お前らに訊ける度胸があるとは思わんけど!」
俺がそう叫ぶと、彼らは何かを納得したような表情になった。
「ほう」
「ほほう」
「下の名前呼びとな?」
彼らはもう一度俺の頭をぐしゃぐしゃにし、小突き回す。
そして、その中の一人が凛の方へと寄っていった。
「世凪さん」
「なに?」
彼の後に続いて数人が凛を取り囲むように集まった。
「とても訊きにくいことなんだけど……」
彼らが急にしどろもどろになる。
まぁ女子耐性がないからだろう。
「なに? 早く言って?」
「飴井とどこまでやってるんですか!?」
「セックスまでしてますか!?」
かなりの直線的な質問に彼女も目を丸くする。
奥の方でたむろしている女子達からの視線があまりに痛い。
「じゃあ逆に訊いていい?」
凛は落ち着いた口調で尋ね返す。
「私と海斗がエッチしてたらどうする?」
柔く微笑んでいる彼女の方が男子軍団より上だった。
黙り込んでしまい、ただ俺に、
「うらやましいなぁ、おい」
「もう爆発しろ」
などと妬みを散々言ってくる。
ようやく俺は友人達のウザ絡みから解放された。
程なくして、昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り、俺は席へと戻る。
そこから見える凛の姿はなぜか格好良く見え、俺はどこか悔しさを感じていた。
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