どっちが好きだったの?

食連星

第1話

おじいちゃん.

麺が好きだった.

「赤いきつね」「緑のたぬき」

どちらが好きだったんだろう.

大好きなおじいちゃん.

もう,どこを探してもいない.


沢山の時間を一緒に過ごしたようで,

知らない事ばかりが残った.


私ちゃんが土手を髪をなびかせて走る所が

もう可愛くてなぁ.

そこから長い.

話半分に聞く癖がついてた.

生返事をしてやり過ごした日々すら,

もう戻って来ない.

今の時代の話ではないと思うが

初めての内孫で,

かなり可愛がってもらった.


おじいちゃん.

面白い人だった.

いや,ハードルを自分で上げたい訳では無い.

私にとって面白い人だったのだ.

両親とは違う感性を持った,

人生を達観したような人.


「私ちゃん,エアコンつけても寒いんよ.」

言いながら冬場にクーラーをつけてた.

パセリが好きという話を聞き,

孫一同のパセリをおじいちゃんに喜々として山盛りあげた.

私たちは食べられなかったから.

『か』と言うと入れ歯が外れるのが面白くて,

何度も『か』と言わせて入れ歯をカパッと外させた.

「もう言わない.」と言うおじいちゃんに,

『お母さん』と言ってとせがむと,

やっぱり『か』の所で入れ歯が外れてた.

遊びに行くと養命酒をのませてくれたり,

毛生え薬をつけて後頭部を櫛でコンコンしてあげた.


結構早くにパソコンを購入し使ってた.

四角く大きな箱のようなパソコン.

起動の時に英字が表示される.

おそらく,出始めかなり高かったはず.

遊びに行くとゲームをさせてくれた.

もっぱら弟の独壇場で,

観戦しかしなかったけど.


初めてクリスマスに

アイスケーキなるものを贈ってくれたのも,

おじいちゃん.


本人には聞いた事は無いが,

大人の会話の中から,

呉服店を営んだ時は羽振りが良く,

お手伝いさんを雇うほどだったと.

でも,

沢山の借金を抱えて倒産してしまったらしい.

それからは,

看板屋さん.

おじいちゃんちは,

いつもペンキのニオイと,

白い大きな板が端寄せされていた.

高校の時は,

自転車に名前を書いてくれた.

さすがプロだった.

間違いようのない

個人情報駄々洩れの私の自転車だった.


記憶に齟齬があるかもしれない.

その辺は先に謝りたい.


おじいちゃんの家には物がたくさんあって,

行くと決まって,家族6人でスペースがいっぱいになる.

部屋は居間の隣が行ってはいけない仕事場と,

荷物で塞がれた上がれない2階もあった.

久しぶりに上がると,

蛇がとぐろを巻いていたと笑い話として聞いた.

開いた窓から入っていたらしいと.

担がれたのかは不明.


ルーツは東北の人だが,

いつかまた行きたいと,

言葉を練習していた.

何か話してとせがむと,

挨拶のみで

いつも決まって同じ言葉しか答えてくれなかった.

同じ教本が決まって置かれていて,

最初のページまでしか開いた跡がなかった.


旅に出る事の無いまま,

病室で癌に負けた.

肺癌が進行してしまっていた.

胃癌で胃も切除していたらしい.

そういえば,すらっと長身でスリムだった.


そして,最期のお別れで

私は病室に入られなかった.

怖かったのだ.

なぜ入らなかったのだろうと

後悔だけを残した.

最期は誰が誰とか分かっていなかったよという

父さんの言葉を免罪符のように思えば良いのだろうか.


私と一緒に住む家族では,

「赤いきつね」と「緑のたぬき」

派閥的に2:2だ.

ちょうど半分半分.

些細な事も話そうとする.

生きてるから.

分かり合いたいから.

後悔を残したくないから.


あなたは,

あなたの大事な人は,

「赤いきつね」「緑のたぬき」

どちらが好きですか?





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どっちが好きだったの? 食連星 @kakumi

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