君にだけ洗脳が効かない

団子

第1話 地球侵略の依頼

 この宇宙の隅っこの隅っこの隅っこに、非常に美しい星があるという。あるとき、お偉いさんが『その星を手に入れたい!』と言い出した。

 この度私の元に舞い込んできた依頼は、そのわがままを発端とした〝惑星侵略〟だった。



 この星には若く美しく、そして有能な、惑星侵略のスペシャリストと言っても過言ではない天才生命体がいる。そう、もちろん私のことである。

 専門機関での侵略学は好成績を叩き出して卒業したし、これまでにいくつかの星を侵略して異文化や異星人を好む様々な生命体に売ってきた。今を時めく惑星侵略者だ。


 そんな私に任されたのは、惑星コード▽✕□、通称地球。

 海の青と雲の白のコントラストが見惚れるほど素晴らしく、時折垣間見える緑の大地がオシャレな星なのだとか。

 人気惑星のようで過去何度も侵略を試られていたが、宇宙の隅っこにあってそもそも辿り着けなかったり、やっとこさ辿り着いたが全土凍っていて侵略どころではなかったり、地球人同士で戦っていてむやみに近付けなかったりと、誰も侵略できなかった物件なのである。



 昔の偉大な生命体たちですらできなかった地球侵略。その依頼を、私は家族や親類がこれから百代以上は悠々と豪遊できる額の前払金と引き換えに請け負った。

 前払金は任務に成功して生還すれば報酬に、死により帰還不能となれば遺族への慰謝料とされる。

 さらに今回の私の依頼契約では、生きて任務に失敗した場合は、前払金没収ののち依頼者の奴隷となる決まりになっている。これは実質、死だ。


 ハイリスクハイリターンの職業、それが惑星侵略。

 だから私は、何が何でも、地球侵略を成功させなければならない。




 我が星の生命体は顔や体型を自由自在に変えられる。

 だから私は、地球に降り立つ前に地球人が最も好む顔になった。黄金比とかいう比率で構成された完璧な美を体現する顔と体だ。


 目と耳、腕、足は二つずつ。一方、頭と口、胴体は一つずつで、触覚は無し。細長いシルエットの変な体だ。

 凹凸のある顔立ちにし、髪は輝き燃える太陽の色、瞳は柔らかくきらめく海の色にした。


 この姿は太陽系の星域に入った途端、変えられなくなった。我が星との連絡もできなくなった。

 何らかの防衛措置を取っている星ではいくつかの制御がかけられていることもあるけど、これはやや強力だ。



 砂漠という枯れた大地に降り立って、私はこの星でできることを確認してみた。

 浮遊、不可能。念動力、不可能。瞬間移動、不可能。地球の小生命体の使役、可能。地球人の使役、可能。物理は我が星とは異なるようだが、精神への干渉はすんなりとできた。

 ふむ。ならば、地球侵略に最も有効な手段は、私が最も得意とする洗脳術だろう。


 地球人の実態はあまり解明されていないが、脳の構造や骨の組織、遺伝子はほとんど同じだという研究報告を読んだことがある。

 当初の計画ではアメリカなる場所からじわじわと手を広げていくつもりだったけど、これなら全員まるごと洗脳させてしまうほうが早い。


 あと単に、その星の文明を破壊せず残したまま征服すると、なぜか星の売価が跳ね上がるのだ。惑星コレクターたちの考えることはよくわからないけど、地球人を生かしておいて依頼主に追加報酬をせびろう。

 私は砂漠を中心に、この星を覆い尽くす洗脳術をかけることにした。




 そうして、強力な洗脳術を発動させ、全地球人がかかったか確認の念波を飛ばした結果。

 ……おかしい。たった一人だけ、洗脳が効いていないやつがいる!


 洗脳術のかけ方が均一ではなかったのか。いや、私はどこも等しくなるよう術を組み立てたはず。

 その後、私は何度か洗脳術をかけたが、だんだん疲れてきた。考え悩み、少しずつ術式を変えたり、東アジアという地域に特化にしてみたりしたけれど、どれも効果なし。

 いつの間にやら、大量に持ってきていた栄養剤は尽きかけていた。もう砂漠での活動は潮時なのかもしれない。


 私は重たい腰を上げた。仕方ない、直接洗脳しに行こう。

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