最強のモブ
教祖
一章
モブとはなんたるか
「君を文化祭執行部長に任命します」
「僕まだ1年なんですけど……」
とっさに返してしまったが本質はそこじゃない。
そもそも、この場で目の前の人物が僕に言葉を掛けていることが異常なのだ。
肩甲骨近くまで伸びた長い黒髪をポニーテールにまとめ上げた、スポーティーな様相。細身で160後半の高身長。女性にモテる女性というやつだ。
その人が3年間勤めあげようとしているのが、いま彼女の口から発せられた文化祭執行部長という肩書である。
ちなみに学生最後のイベントとなる人間もおり、3年生が主体となる文化祭において、1年生でその運営トップに立候補した度胸も、僅かではない不平不満を受け流すメンタルも、なによりその全てを黙らせるだけの圧倒的大成功を収めたその手腕も、歴代最強と謳われる所以だ。
さて、本題に戻るがそんな人物がこの卒業式後の玄関前のど真ん中――――一時の気の迷いで周囲に向けて一芸でも披露しようとするものが毎年数人は発生する、最も人の往来が多い場所。
そんなところでこの僕――――
言っておくが面識は皆無だ。
校内ですれ違うこともほとんどなく、今まで直接話したことなどない。
一方的にこちらが認知しているだけだと思っていたが、この状況を見る限り向こうもこちらを認識してくれていたらしい。
「こんな状況で申し訳ないんですが、人違いだったりしませんか。いままでお話したことないっすよね」
「佐藤 清。10月10日生まれ、てんびん座。血液型A型。人違いだったかな?」
「っ!? いえ、失礼しました」
あまりの即答にこちらも同じ速度で返してしまった。軍人のやり取りのようだった。サーイエッサー。
「まあ、無理もないよね。こちらも急に話しかけて大変失礼しました」
おどけるように軽く頭を下げる三枝先輩。このフランクさ、茶目っ気が人を引き付けるんだろう。
だからこそ、疑問でしかない。
目の前の人気者は、なぜ僕のような日陰者に接触してきたのか。
接点などない。いや、あったのかもしれないが《あれ》は、そのうちに入るものではない。
それは承知の上で――――ね。
そう前置きをして、三枝先輩は再びこちらに向き直る。
内なる疑問に向けていた意識を外へと戻す。
その顔には先程までのおどけた様子はなく、どこまでも真っすぐな瞳が射貫くように向けられた。
「あえて、もう一度言うね。君に文化祭執行部長――――この学校の一番の祭りの立役者として、仕事をお願いしたい。去年の秋、私を助けてくれたあの手腕をこの学校のために揮って欲しい」
気が付けば辺りには人だかりができており、そこから感嘆の声が漏れた。
だが、そんな声よりも言葉にならない声を漏らしたのは、他でもないこの僕だった。
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