始まりは「あたしメリーさん…」と名乗る電話から

月之影心

始まりは「あたしメリーさん…」と名乗る電話から

 掌の中でマナーモードにしてあるスマホが振動している。




 【非通知着信】




 非通知は出ない事にしている人は多いと思う。

 僕も基本的に非通知は出ない。

 面倒な事に巻き込まれるとか色々あるからね。


 15秒程振動したスマホが簡易留守番電話モードに切り替わるが、1秒も経たない内に回線は切断される。

 人によっては留守番電話に声を残したり残さなかったりあるけど、残していなければ大した用では無かったのだろうと割り切る事にしている。


 そして1分も経たない内に再びスマホが振動する。

 画面には同じ【非通知着信】の文字。

 経験上、見知らぬ相手から繰り返し掛かってくる場合は間違い電話である場合が多い。

 けど、非通知で掛けてくるということは、自分の番号を相手に知らせたくない意図があるわけで、あまり良い印象を持てないのは僕だけだろうか。


 だが、ほぼ1分置きに何度も掛かってくるということは、余程急ぎか、若しくは何としても話がしたいということなのだろう。

 さすがの僕も段々とこの【非通知】の人が気の毒に思えてきて電話に出ていた。

 出てあげて『間違ってますよ』と伝えるのが親切というものだ。




『もしもし……』


 女の声だ。

 聞き覚えは有るような無いような。




*****ここで一つ雑学を*****


 皆さんは電話で話す声が実際に会って話す時の声と違うと言われた事や、逆に友達の声が電話と対面で別人みたいだと感じた事は無いだろうか?


 実はこれ……本当に違う人の声なのだ。


 音は空気の波の形で決まるが、世界中の人の声をこの『波の形』としてデータ化すると一つ一つが膨大なデータ量になり、それをそのまま送信したらあっという間に世界の通信はパンクしてしまう。

 そこで数千種類の合成音声をコードブックに登録し、マイクを通って届いた声にを選んで合成してスピーカーから流している。


 要するに『本人に限りなく似ているデータ音声』と思えば良い。


 最近の電話はナンバーディスプレイで誰から掛かって来た電話かが電話に出る前に分かり、その声が微妙に違う気がしても『こんな声だ』と脳が補正するので多少感じが違っても気にならない。


 つまり、非通知で掛かって来て相手が誰だか分からない場合は、聞き覚えのある声だったとしても脳が補正してくれず、いくら聞いても誰なのか分からないケースはあるのだ。


*****雑学おしまい*****




 雑学はいいとして、僕も例に漏れず【非通知】のお陰で相手が誰なのかさっぱり思い出せずに次の言葉を待っていた。








『あたし……メリーさん……今……えっと……桃太郎の像の前に居るの。』








「は?」




 メ、メリーさん?

 桃太郎の像?




『ちょっと、聞いてるの?』


 『メリーさん』と名乗った電話の相手が少し苛立ったような声で訊いてきた。


「え?あ~……聞こえてますよ……えっと……どちらへお掛けですか?」

『どちらって、あなた優斗ゆうとでしょ?優斗に掛けてるんだから優斗に決まってるの。』


 相手が誰だか分からないけど僕の名前を出している以上、僕への電話というのは間違い無さそうだ。

 にしても、『メリー』なんて名前の知り合いは居ないんだけど……。


「何で僕の名前を知ってるんですか?」

『そりゃメリーさんだもの。』

「メリーさんってあのメリーさん?」

『どのメリーさんを言ってるのか分からないけどあたしは一人しか居ないの。』

「はぁ、そうですか。てか、桃太郎の像って何です?」

『イヌとサルとキジをお供に連れた桃太郎知らないの?』

「いや、それは知ってますけど……そういう事じゃなくて……」

『まぁいいわ。取り敢えずあたしは今その桃太郎の像の前に居るの。それじゃ。」

「あ!ちょ、ちょっ……」


 話途中だというのに一方的に切られてしまった。


 しかしメリーさんって……本当にメリーさんなのだろうか?


 いや、あれは単なる都市伝説ってやつで実在しているわけじゃない。


 いやいや、実際に今さっき電話で話したし、もし本当にメリーさんが実在しているとしたら、電話があるたびに少しずつ近付いて来て、最後は僕の背後にまで来て、僕はコロされてしまう(※諸説あり)かもしれない。


 いやいやいや、そんなわけないじゃないか……そもそもメリーさんって元々は人形なわけで……


 いやいy……(以下略


 あーでもないこーでもないと考えているとメールが着信する。

 差出人は……ランダム文字列アカウントのヤ○ーアドレス。


 差出人:(テキトーアドレス)

 本文:もしもしあたしメリーさん。今すっごい長いトンネルに入ってるの。外が全然見えなくてつまんないの。


 メールなのに『もしもし』ってウケる。

 それよりメリーさんてメールもするんだ。

 メアド登録しとこう。


 ……って、すっごい長いトンネル?

 何処だそれ?

 何か移動してるみたいだな。

 ……て事は、本当に僕の所に来ようとしてる?

 マジでガチメリーさん?


 何となく、『会うのは怖いけど会ってみたい』みたいなヘンなテンションになってきた。

 そうなると、もし本当にコロされる(※諸説あり)のだとしたら、一人暮らししてるマンションの部屋では大家さんや隣部屋の人に迷惑が掛かる。

 外で会うにしてもメリーさんが何処を移動しているかによって場所を考えなければならない。

 『桃太郎の像』に『長いトンネル』かぁ……メールで訊くのが早いかな。


 宛先:メリーさん

 本文:こっちに向かってるんですよね?ちょっとうちで何かあるのは困るので迎えに行こうと思うんですけど何処かで待ち合わせしませんか?何処がいいです?


 僕はそう送ってから外出の為に着替える事にした。

 さすがに部屋着で街中に出て行けるほどメンタルは強くない。

 着替えて髭を剃って顔を洗い、髪型を整えていつでも出掛けられる格好にしてからスマホを確認すると、メリーさんから返信が来ていた。


 差出人:メリーさん

 本文:待ち合わせって……デートじゃないの(照れ絵文字)じゃなくて!あたしメリーさんなの!怖くないの?


 メリーさんも絵文字使うんだ。

 なんて思っているといきなり電話が振動した。


「もしもし。」

『もしもしあたしメリーさん。やっとトンネル抜けたから電話したんだけど、あたしと待ち合わせしたいって馬鹿なの?あたしに会ったらどうなるか知らないの?』

「僕が聞いているのは、メリーさんに会ったらコロされる……という事ですけど、諸説が多過ぎて本当のところ分からないんですよ。会うのは怖いですけど会ってみたい気持ちもあります。」

『あ、呆れた……ホント優斗は昔から変わらないの。』


 ん?

 昔から?

 そんな前から僕の事知ってる人なの?


『取り敢えずそろそろ駅に着くから一旦電話切るの。それじゃ。』

「あ、ちょっ……」


 また一方的に切られた。

 駅って何処の駅だよ?

 待ち合わせ場所決まってないじゃん。

 このまま出ても会えず仕舞いになりそうだしなぁ。

 メールしてみるか。


 宛先:メリーさん

 本文:それで何処で待ち合わせます?そちらが着いてからうちを出るとなると場所によってはだいぶ待ってもらわないといけなくなるかもしれないので。


 まずは場所を決めないとね。

 そこまで行くのにどれくらい時間掛かるか分からないし。


 程無くして返信が届く


 差出人:メリーさん

 本文:本気で言ってるの?まぁ、別にあたしも優斗をどうかしようなんて思ってないからいいの。えっと今着いたのは新大阪駅なの。これから梅田まで行くの。


 大阪かよ。

 て事は『桃太郎の像』って岡山駅前のアレかな?

 んで『長いトンネル』は新神戸駅過ぎてすぐの六甲トンネルか。

 しかし梅田で待ち合わせって、僕も梅田はあんまり知らないから難しいな。

 さてどうしたものか……と思っているうちにスマホが震えているのに気付く。


『もしもしあたしメリーさん。今梅田駅にいるの。てか何ここ?迷宮?全然分かんないの……』


 新大阪から来たんなら御堂筋線だろうから阪神梅田の方だろうか。

 と言うかメリーさん早いな。


「えーっと……今何階に居るかって……分かんないですよね……取り敢えず地上目指しましょう。それで駅から出たら目の前の建物を教えてください。」

『わ、分かったの……』

「僕はこれから家を出るので、多分梅田の辺りには30分以上掛かります。」

『えぇ?そんなに掛かるのぉ?』

「上手くいけばなので下手をすれば1時間近く掛かります。」

『上手く来て欲しいの。』

「祈っててください。あとバイクで行くので暫く電話もメールも出来なくなりますから。」

『分かったの……』


 僕は財布をポケットに押し込んでヘルメットを掴んで部屋を出る。

 1階まで降りて駐輪場でバイクを引っ張り出して出発した。


 時間は昼の3時少し手前。

 道中は比較的混雑も無く、スムーズに駅前までやって来れたのだが、何処でも好き勝手に駐輪出来ないのが都会の嫌なところ。

 バイクで30分程しか離れていないのに、うちの周りとは大違いだ。

 仕方なく梅田駅の北側へと回り、駐輪場を探して停める事にした。


 バイクを停めてスマホを取り出すと電話やらメールやらの着信が入りまくっていた。

 電話は全て非通知だが、恐らくメリーさんからだろう。

 メールに一通り目を通して返信する事にした。


 宛先:メリーさん

 本文:今到着しました。何処に居ます?


 送信して1分経たずに返信が届く。


 差出人:メリーさん

 本文:今お好み焼き食べてるの!やっぱ本場は違うの!ホント美味しいのっ!


 何しに来たんだよ。

 仕方ない。

 僕も小腹空いてるし適当にその辺で何か食べよう。

 腹が減っては戦は出来ぬ……ってね。


 宛先:メリーさん

 本文:何処のお好み焼き屋さんですか?お店の名前とか分かります?


 僕はメールを送信してから目の前のコンビニに入ってお茶とおにぎりを買うと、停めたバイクの所に戻ってバイクに跨り、そこで軽いおやつタイムにした。

 お茶を飲んでいるとスマホが震えた。


『もしもしあたしメリーさん。お腹いっぱいになったの。それで何処に行けばいいの?』


 幸せそうだなおい。


「えっと現在位置を教えてもらえます?何か看板とか目に付くものでもいいですけど。」

『んっとね……電信柱に曽根崎って書いてあるの。』


 駅挟んで反対側じゃねぇか。


「あ~っと……多分ここから一番離れた場所になると思います。両方が動いたら絶対に会えないと思うので、メリーさんはそこで動かないでください。」

『えぇ~……暇なのぉ。』


 うるせぇ。


「暇でもです。迷子になりたくなければそこで待っててください。」

『はぁいなの……』


 拗ねたように電話が切られる。

 僕は取り敢えず駅の構内を抜けて南口を目指した。

 しかしこの駅……作ったやつさえ迷子になりそうな造りしてるな。

 一つ間違ったら全然関係ない場所に行きそうだ。


 多分、直線距離で300m程の筈なんだけど、昼間とは言え人の多い事と迷宮化している中を迷わず抜けていくのはなかなか至難の業だった。

 それでも何とか空が見える場所に辿り着き、そのまま東へ向かって曽根崎という地域を目指していると、またスマホが振動していた。


『もしもしあたしメリーさん。今ヒ○トンホテル前に居るの。初めて見たけどすっごいの!』


 だから何で動いた?


「いや、あの、メリーさん?」

『ん?』

「僕、動かないでって言いましたよね?」

『だって折角大阪に来たのにあちこち見てみたいじゃないの。』


 観光で来たの?


「それじゃいつまで経っても会えませんよ?」

『あぁ……そうだったの。ごめんなさいなの。もう動かないから許して欲しいの。』

「はぁ……分かりました。今ヒ○トンホテルの前なんですね?すぐ傍にファ○リーマートがあるのでそこで待っててください。」

『怒ってるの?』

「怒ってませんから待っててください。」


 僕は電話を切ると来た道を引き返し、再び駅の構内をくぐってヒ○トンホテル側へと足を速めた。

 駅を抜けると正面にドデカい高層建築物が飛び込んでくる。

 玄関から真っ直ぐ南東側にファ○リーマートがある。


(いよいよ……だな……)


 少し緊張しつつ、ゆっくりとコンビニへと向かう。

 心臓の音が耳に届いてくるようだ。


 だが、コンビニに入ろうとした時、再びスマホが振動する。


「もしもし?」

『もしもしあたしメリーさん。この辺りってファ○リーマートいっぱいあるの。さすが都会なの。』

「え?いや……ヒ○トンの前にファ○マは1つだけしか……」


 嫌な予感がしてグー○ルマップを開く。


 あぁそうだね。

 いっぱいあるね。

 ファ○マもセ○ンイレ○ンもいっぱいあるよね。


「いやいや!普通ヒ○トンのすぐ前って言ったら此処だけですよ?何でいっぱいある方に行っちゃうんですかね?」

『だってあたしの住んでる辺りなんかコンビニって言ったらロー○ンくらいしかないから珍しくて……なの……』


 このままでは住んでいる地域が違うとは言え、地元で遭難しかねない状況に陥ってしまう。


「メリーさん、電話番号教えて貰えますか?毎回非通知なのでこちらから掛けられないんですよ。」

『あぁ……でもメリーさんの電話は……メリーさん掛けるものであって、メリーさん掛けるなんて聞いた事が無い……の……』

「でも毎回メリーさんからしか掛けられないと電話代大変でしょ?」

『あ~それは大丈夫なの。定額プランだからいくら掛けても関係ないの。』

「じゃあ会えるまでこのまm……」

『でもMAX3分までしか繋げたままに出来n……』


 切れた。

 3分しか繋がっていられないなんて……公衆電話10円分かよ……って最近の若い子は知らないか。

 溜息を吐いた直後に着信。


『もしもしあたしメリーさん。途中で切れちゃってごめんねなの。』

「あ~いいですよ。それで今何処のファ○マに居るんですか?」

『今はデイリーヤ○ザキに居るの。』

「なんでコンビニ巡りなんか始めちゃったんですかね?」

『だって……珍しいもの……』

「はいはい分かりました。この辺りのデイリーヤ○ザキならあそこしか無いですのでもう動かないでくださいね。」

『分かったの……もうここから動かないの……』


 僕は一体、御堂筋通りを何回往復しなきゃいけないんだ。

 と言うか、何でこんなに必死になってメリーさんと会おうとしてるのか分からなくなってきた。


 息を切らしつつ、僕はようやく電話でメリーさんの言っていたデイリーヤ○ザキに到着した。

 肩を上下させながら店の外から店内を伺っていた時、左手の中のスマホが振動した。


「もしもし?」

『もしもしあたしメリーさん……今……あなたの後ろにいるの……』


 背後に人の気配を感じる。

 だが振り向いて良いものなのか。

 都市伝説では、後ろにいると言われて振り向くと同時に命を奪われる(※諸説あり)と言われている。


「やっと……会えた……のかこれ?」


 僕は取り敢えず都市伝説を信じて振り向かないまま口を開いた。


「うん。でも、まだ振り向かないでね。」


 それは電話から聞こえるメリーさんの声では無く、直接耳に入り込んで来るメリーさんの生の声だった。


 あれ?

 この声……やっぱり聞き覚えがある……。

 メリーさんの正体が知りたくて振り向こうとした僕の背中をメリーさんがぐっと押さえて振り向けないようにした。


「あっち行こうよ。」


 メリーさんは僕が来た方向に体を向けさせると、背中を軽く押すようにして歩くように促してきた。

 が、数歩歩いた所で両腕を外側から掴み、左へ体の向きを変えさせた。


「ん?ここ?」


 目の前には凡そ周囲の店舗が立ち並ぶのとは様相の違う空間……見たまんま『神社』があった。

 確かこの前を通って来た筈だったのに全く気付かなかった。


 『露天つゆのてん神社』


 4段程の石の階段を上がるとそこは既に神社の境内だった。


「此処に来るなら優斗と一緒に来たかったんだ。」


 僕の名前の呼び方に、突如記憶の中に現れた女性が居た。

 その女性は、僕が実家で居た頃に隣の家に住んでいた二つ年上のお姉さん。

 僕が物心付いた頃から高校1年の頃まで何かと面倒を見てくれていた。

 そんなお姉さんに恋心を抱くのは思春期の男子としては極自然な事だったと思っている。

 お姉さんが高校を卒業し、家を離れてしまうと知った時、その恋心が弾けて告白してしまったのだが、『優斗が大学生になったらね』と満面の笑みと共に受け流されていた。


万里まり……さん……?」


 僕は視線を真っ直ぐ置いたまま、その懐かしい幼馴染のお姉さんの名前を口にした。


「正解っ!」


 僕の右側にぴょんっと飛び出してきた万里さんは、昔と変わらない可愛らしい笑顔で僕の顔を見上げてきた。

 僕は何故だか分からないけど、万里さんの顔を見た瞬間に目頭が一気に熱くなり、意図せず涙が零れ落ちてしまっていた。


「えっ?な、何で泣いちゃうの?ど、どうしたの優斗?」


 慌てふためく万里さんに、僕は涙を流しながら笑顔を返した。


「いや……もう何か……色々……驚いたのとほっとしたのと嬉しかったのと……色々で涙出てきちゃいました……」


 万里さんは少し困ったような顔をしていたけど、僕に腕を絡ませて境内の奥へと引っ張った。

 何だかよく分からず万里さんに促されるままお参りをし、さして広くはない境内をゆっくり回っていた。


「でも……何で『メリーさん』ってひと昔前の都市伝説なんか持ち出したりしたんですか?」

「ん~……普通に『万里だよ』って言ってもつまらないでしょ?ちょうど私の名前を英語で書くと『Mari』だし、メリーさんは『Mary』って一文字違いだからと思って。」


 それだけ?


「それで、何でこの神社なんです?街中にぽつんと建ってる小さな神社ってだけですけど何かあるんですか?」


 万里さんはふふっと微笑んで僕の腕に頭をくっつけて来た。


「ここは『恋愛成就』の神様が居るんだって。あの『曽根崎心中』の本当にあった場所でもあるんだよ。」


 僕はそういう迷信みたいなのはあまり興味が無かったし、『曽根崎心中って何?』ってなものだったけど、少し頬を染めて僕の顔を見上げている万里さんを見ていて嬉しさがこみ上げて来る衝動を抑えきれなくなってきていた。


「ま、万里さん……そ、それって……」

「優斗が大学生になって、それでもまだ私の事を好きで居てくれてるなら……って思ってたのよ。」

「で、でも……何で大学生になってからじゃないとダメだったの?」

「別に大学生に拘ったわけじゃないのよ。人の想いって余程の強さが無いと何年も続かないの。優斗が告白してくれたのが3年前で、それから変わってないならずっと一緒に居てくれると思ってるだけ。」


 僕は万里さんの手を取り、きゅっと握った。


「僕の想いはそんな簡単に変わりませんよ。」


 万里さんが僕の手を握り返してくる。


「まぁ、そう思ってたからこうして突然再会する事になっても色々楽しめたんだけどね。」


 自信有り気な万里さんの笑顔に、僕は完全にヤラレてしまっていた。

 と、万里さんは手を解いて僕の背後にくるっと回り込み、背中にもたれかかって何やらごそごそしていたかと思うと同時に、僕のスマホが振動しだした。


 【非通知着信】ではなく、【万里】と表示されている。


 僕はスマホを耳に当てた。








『もしもしあたしメリーさん……これからは、あなたの後ろにずっと居るの……』








 振り返った僕は、万里さんの背中をぎゅっと抱き締めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

始まりは「あたしメリーさん…」と名乗る電話から 月之影心 @tsuki_kage_32

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ