第4話 美しき青きドライブ
前評判では誰もがポルシェの圧勝を予想した。だが少々体調を崩しているらしい。予選の結果は、意外にもプリンス・スカイラインGTが首位となった。それはプリンスの実力と努力が、並みのクルマ娘ではない事を示す確かな証拠でもあったのだ。
それでも決勝のレースでは、30人揃った娘達の気合いの入り方が違う。
プリンスの緊張は最高潮に達し、それに伴う集中力は、鈴鹿の観客席から聞こえてくる大歓声をも意識から遠退かせた。
アスファルトの路面から漂ってくる靴底の焼けたゴムの香り……何だか今日は晴れがましく、誇らしく感じた……自分は選ばれた末に、ここに立てた事を。あのポルシェと一緒に大舞台で走れる事を。
コースやや内側に並んだポルシェ904の方をチラリと見ると、スタートラインを前に力を漲らせている様子が分かった。涼やかな印象の内に秘めた闘志が伝わり、プリンスにクルマ娘としての走る本能を刺激してくる。それは無上の喜びでもあった。
「スタート!」
シグナルランプが黄色から青に変わり、チェッカーフラッグが振られる。はっと我に返ったプリンスは、やや出遅れた。だがサーキットを15周以上も走り続けるGTⅡレースにおいて、気に病むレベルのミスではなかったのだ。
先頭に躍り出たのは、やはりポルシェ904だった。凄まじい加速とスタミナは、クルマ娘というより走る怪物。全身をバネのようにしてコースを疾走する姿は意気揚々として、他のクルマ娘の追随を許さなかったのだ。
「さすがね、カレラ! でも私だって、この日のために毎日トレーニングを積み重ねてきたんだから!」
プリンス・スカイラインGTは、ポルシェ904が見せる怒濤のごとき走りに必死に追い付き、追い越そうとしていた。レースを見物にやって来た観客は、プリンスの予想外の健闘に大いに盛り上がったのは言うまでもない。
「フフ……! プリンス、いいデスネ! それでこそ、私の一番の友達デス!」
後ろの様子をチラ見したポルシェ904は、高揚感に包まれた笑顔を送ると、より一層の鋭い走りを見せ付けたのだ。
――もう何周目に入ったのだろう……。
相変わらずプリンスはポルシェの後塵を拝していたが、決して諦める事も、ペースを落とす事もなく食らい付いていた。これにはピットで水分補給の準備をしていたスタッフも驚かされた。
五十鈴ベレットGTは、感動して思わず涙ぐむ。
「すごい、すごいよ、プリンス。あのポルシェさんの走りに、決して負けてない」
彼女をずっと指導してきたドライバーも、ストップウオッチを握り締めながら言う。
「ああ、正直ここまで食い下がるとは思わなかったけどな」
「行っけぇーっ! プリンスー! このままトップを狙っちゃえー!」
メインスタンド前でプラカードのサインを送る五十鈴ベレットGTだったが、声援は大いなる歓声に掻き消されていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます