幸せまであと何歩?

『』

12月23日 21:04

 12月23日、大阪。

 21時を少し回った頃、急ぎ足で寒空の下を帰る。足元でヒールがうるさく鳴る。

 明日はクリスマスイヴ、彼との約束の日。何とか一日休みをもぎ取れたのだ。だから今日は早く家に帰って明日のために準備をする予定だったが、思ったより残業してしまった。

 急いで私の住むマンションのエレベーターに乗り込む。今日は一段と寒い。そう言えば朝の天気予報で日付が変わる頃に雪が降るかも、と言っていたような気がする。


『ただいま〜。あー、ほんま今日寒いわぁ。』


 扉の鍵を開け、家の中が真っ暗でも続けているただいまの挨拶。ひとまず小さな玄関に鞄を置き、靴を脱ぐとスマホが鳴った。


〈ごめん。やっぱ、明日仕事入った。ほんとにごめん。〉

〈少しでもいいからちゃんと会いたい。頑張って合わせるからまた予定教えて。〉


『え、』


 彼とはもう両手で数えるくらいの付き合いだ。お互いの仕事のことも理解しているし、24日は仕事が入るかもと言っていたので覚悟は出来ていた。けれど、数年猛威を奮っている感染症予防のため頻繁に会えないためいつも電話越しでの会話、その上彼は年明けに少し大きなプロジェクトを抱え忙しいようで、最後に会ったのも一か月前。それも帰宅途中、たまたま駅のホームでただばったり会い、ほんの数分話しただけだった。明日は久しぶりにゆっくり会える予定だった。流石に辛いものがある。

 それに駅のホームで会った時も、最後に電話した時も、どこかよそよそしかった。目は合わない、話をしてもどこか上の空だった。

 彼の仕事の忙しさ、それを理由に会えないことを疑いたくないけれど、これだけ会えないことも初めてで。彼のことは好きで、将来一緒になることも考えていたけれど、もう、この関係も終わりなのかもしれない。

 そんなことを考えると視界がぼやけてきた。目からこぼれた涙を拭きながら、部屋に入り、ベッドに腰掛け、横になった。


 彼と別れることや、これからどうしようとか色々考えると余計に涙が止まらず、鼻水も出てきて、落ち着いたのはゴミ箱にテッシュの山ができた頃。落ち着くと、途端にお腹がすいた。

 鼻をスンスン言わせながらキッチンへ行き、少し背の低い冷蔵庫の上にある、インスタントやレトルトを入れている箱を漁る。カレーはご飯をチンするのがめんどくさい、ラーメンはなんとなく気分じゃない、とか色々考えていると、赤色のカップ麺が目に入った。


『赤いきつね...きつねうどん...』


 ジュワッと唾液が出てきた。私の体は完全にきつねうどんを食べる用意ができたみたいだ。

 そのままお湯を沸かして、容器に入れ、待つこと数分。蓋をペリペリとめくると大きな油揚げと出汁の匂い。


『いただきます。』


 まずは熱い出汁を飲む。冷えてる体に染み渡る。その後に油揚げに大きな口でかぶりつく。そしてうどんを啜り、また油揚げにかぶりつく。そして出汁を飲む。

 気づけば中身は空っぽになっていた。体はぽかぽかになり、少しだけ元気が出た。空っぽの容器やお箸は流しに置いて水につけ、化粧を落としてお風呂に入り、寝ることにした。皿洗いは明日の私がするだろう。


 寝る前にスマホを見つめる。まだ彼に返信をしていなかった。

 ひとまず、彼と別れるとかそういうことは置いておこう。彼の迷惑にならないように簡単に連絡を入れ、その日は電気を消した。




 明日の夜、いきなり部屋に来た彼にプロポーズされることなんて知らずに。

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