第九十一話 同盟軍、攻城突撃用意

国際標準時 西暦2045年9月5日14時24分

高度魔法世界第4層

北部戦線 

人類同盟 大韓民国 朴敘俊パク・ソジュン



 大地が噴火している。

 その光景は正にそうとしか言いようがなかった。

 4機のガンニョムと数千名の敵軍が籠城する敵の前線基地を取り囲んだ人類同盟主力。

 攻城突撃の梅雨払いとして行われている事前砲撃と空爆は、十数kmの敵防衛線を等しく鉄と火で覆い尽くしていた。

 1000門近い野戦砲群と300両を超えるMLRS(多連装ロケット発射システム)群は、毎分数千発の榴弾とロケット弾を敵陣地に叩き込む。

 空を覆い尽くさんばかりの爆撃機の群れが、腹に抱えた爆弾を途切れることなく投下していく。

 10機を超える大型地上攻撃機が、その機体から突き出した無数の砲身で絶え間ない対地砲火を撃ち続ける。

 人類同盟の巨大な国力に裏打ちされた暴力の嵐が、敵の防衛陣地を噴火地帯へと変貌させていた。


「……フッ、哀れなものだ。

 同情すら覚えるよ。

 だが、情けはかけるまい。

 恨んでくれるなよ……?

 この戦いは人類とお前達との生存競争、俺達の間には争う以外、道はない。

 今はただ、死の恐怖怯え、自らの選択を悔いるが良い。

 しかし、諦観などという興醒めは許さない。

 運命の女神は冷酷だ。

 諦観せし者にわざわざ慈悲をくれてやることはないだろう」


 大韓民国の探索者である朴敘俊パク・ソジュンは、攻城突撃の命令を待つ無人戦車の上に立ちながら、目を瞑ったまま語っていた。

 ちなみに彼の近くには誰もおらず、彼の言葉は傍から見たらただの独り言である。

 こんな彼にも最初の頃はなんだかんだ付き合ってくれる友人がいたのだが、その彼も魔界2層で戦死してしまった。

 彼が単独行動する理由には、独特の感性ゆえに周囲から距離を置かれているという以外にも、そのことが関係していなくもない。

 そしてこの光景を生中継されている彼の祖国では、ネット掲示板やSNSで日課の如く話題になっていることだろう。

 朴には中学生の妹がいるのだが、兄の独り言を同級生と見せられている彼女の心内は推して知るべし。


『こちら司令部、全ての探索者へ。

 予定通り5分後の1430に攻城突撃を行う。

 各自準備されたし』


 後方のコロンビア級戦略原潜2番艦に設置された司令部から通信が入る。

 同時に砲爆撃の着弾ラインが敵陣地の奥へと移動し始めた。

 味方への誤射を避けつつ敵への制圧砲爆撃を継続するためだ。

 

「……フッ、仕事の時間か。

 やれやれ最低限は働いてやるかな」


 朴はそう言って両手にガンブレードを構える。

 銃身が刃と融合している異形のリボルバーライフル、第70304世界で伝説的な鍛冶師とガンスミスが酒の勢いで制作した珍品『反逆者のガンブレード』。

 二日酔いへの反逆の意思、その具現化が鈍く黒光りした。

 

バララララララララッ


 攻城突撃を支援するため、無人攻撃ヘリコプターが多数の編隊を組んで前線に進出してくる。

 それに連動して、地上でも数千両の無人装甲車両が重厚な稼働音と共に動き出す。

 ドイツ連邦共和国フレデリック・エルツベルガーが搭乗するガンニョムが、大型シールドとレーザーライフルを構えて突撃姿勢へと移行する。

 全環境対応型歩兵用装甲が、全兵装の最終確認シークエンスを始動する。

 乗艦である戦略原潜から降りた米軍海兵が慣れない地上兵装を握りしめ、突撃の時を緊張の糸を張り詰めながら静かに待つ。

 水筒のおまけでついてきた美少女達が、各々の担当戦域で煮えたぎった闘争心を研ぎ澄ます。

 数十名の探索者達が、莫大な費用が投じられた装備に身を包んで、各自の戦闘用スキルを発動する。


「お前達、出番だ」


 朴も自身のスキル『呪術(死霊)』『魔術(影)』を発動させ、影に格納していた呪術で支配している己の眷属を展開する。

 今までに経験したダンジョンで朴が地道に収集してきた敵の亡骸が、無言のままに列をなす。

 魔界2層の魔物、末期世界2層の天使、機械帝国3層の機械兵、そして高度魔法世界4層の戦闘車両。

 総数60体の軍団が瞬く間に形成される。


「さあ、蹂躙を始めよう」


 奇抜な言動に騙されがちだが、特典持ちを除けば同盟屈指の戦闘力を秘めた探索者、朴敘俊の戦闘準備が完了した。


国際標準時 西暦2045年9月5日14時30分


 人類同盟、敵前線基地への攻城突撃を開始。

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