第七十五話 塩辛いスープ

「ぐんまちゃーん、朝ですよー」


 俺の爽やかな朝は、いつも通り高嶺嬢の呼び声で始まる。


「ぐーんーまーちゃーん、あーさーでーすーよー!」


 だんだんボルテージが上がっていく高嶺嬢の声をBGMにして身嗜みを整える。

 ダンジョンに行くときは改めて装備品を身に着けるから、今の服装はTシャツとズボンだけだ。


「ぐぅぅんぅぅまぁぁちゃぁぁぁぁん! あぁぁさぁぁでぇぇすぅぅよぉぉぉぉ!!」


 最後に姿見で全身チェック。

 扉を開けた瞬間から、全国民生放送が開始されるので油断はできない。

 襟が立っていようものなら、立ち襟の群馬とスレで馬鹿にされちゃう!


「ぐぅぅぅぅぅぅんぅぅぅぅぅぅぅまぁぁぁぁ―――――」

「おはよう、今日も素敵な朝だな、高嶺嬢」


 扉を開けると目を血走らせた高嶺嬢が出迎えてくれる。

 日常の光景だ。




「――今日のスープ、少しお塩が多かったんじゃないですか?」

「はぁ?

 いつも通りだけど……

 文句あるなら食べなくて良いよ」

「なんでそういうこと言うんですか?

 私が言いたいのはそういうことじゃなくて……」

「そっちこそ朝から小姑みたいなこと言わないでよ……

 朝食くらい黙って食べれないの?

 そもそもさ……」


 昨日の空中要塞攻略で無理をさせてしまったのか、高嶺嬢と白影が普段よりもピリついてる……

 ちなみに俺の舌ではスープの塩加減の違いは全く分からない。

 今日も美味しいです。

 俺が介入すると地獄絵図になりそうなので気配を消して白影が作ってくれた朝食を味わいつつ、端末を操作して今日のミッションを確認する。


『ミッション 【上出来な朝食】

 頑張って作った朝食を褒めましょう

報酬 エアバスA-620大型旅客機 12機

依頼主:フランス共和国外務大臣 クレモン・ル・フレム

コメント;フランスでは滅茶苦茶上出来な部類です!』


『ミッション 【我が国の存在感】

 高度魔法世界第4層で日本の存在感を刻み付けましょう

報酬 超大型自動車運搬船 東名丸級 4隻

依頼主:日本国厚生労働大臣 田中正栄

コメント;久々にガツンと行きたいね!』


 ふむ、フランスは換金額120億円が12機分で1440憶円、日本はどうせ今回も自動車満載で1000憶円が4隻分で4000憶円か。

 俺のポケットに入るお金は売却で半額になった2720憶円。

 小国の国家予算を超える金額を毎日ポンポン払えるなんて、経済大国って本当にすごいね!

 まあ、前回の末期世界第4層で溶かした戦費は4兆7500憶円だったんだけどね……

 現代戦、特に航空戦はお金がかかって大変だよ……


「――それを言うなら昨日のピクルスなんて、塩分多すぎて塩辛かったんだけど……!」

「ピクルスじゃないです!

 お漬物です!

 西洋かぶれはやめてください!」

「はあ!?

 かぶれてないよっ!

 生まれも育ちも西洋だよ!?」


 さて、どうやってこれに介入して朝食を褒めようかな……?

 別のテーブルで食事をしている従者ロボに目を向ける。

 おっ、美少女1号と目が合った!

 視線で助力を求めるが、奴は鼻で笑って食事を再開しやがった。

 しかも美少年1号のおかずをさり気なく奪ってやがるだと……!?




「――おや、お買い物ですか、ぐんまちゃん?」


 武器屋の扉に手をかけようとしたとき、後ろから声がかかった。


「高嶺嬢か……」

「はい。

 高嶺嬢ですよ、ぐんまちゃん」


 振り向けばまだ戦闘用の装備を着込んでいない私服状態の高嶺嬢がいた。

 朝食を終え、装備を整えるために食堂から私室へ戻る途中だったので、おそらく彼女は食堂を出た時から付いてきていたのだろう。

 白影は朝食の片付けがあるためか姿は見えない。


「まあ、うん。

 次のダンジョンはまた地上戦が主体になるらしいからね。

 もう少し地上戦力を増強しようかなと思って」

「そうなんですか!

 それなら次は私も活躍できそうですね。

 私、ぐんまちゃんに良い所、見せちゃいます!」


 そう言って高嶺嬢はウインクしながら可愛らしいガッツポーズを決めた。

 あたかも前回の末期世界第4層ではほとんど活躍できてないみたいな言い方だけど、忘れてはいけない。

 彼女は前回のダンジョンボスを開幕数秒で瞬殺しているという事実を。


「いやいや、高嶺嬢はいつでもすごいよ。

 どこでも猛威ふりまいちゃってるよ」

「ふふっ、もう!

 私を猛獣みたいに言わないでくださいよぉ」


 俺の言葉を冗談と捉えた高嶺嬢が口に手を当てながら上品に笑った。

 高嶺嬢は俺に猛獣のような扱いをされたと思っているのだろうが、残念ながら俺は高嶺嬢と猛獣を同一視していない。

 俺にとって猛獣は高嶺嬢と比べたらハムスター枠だ。

 最低でも宇宙的恐怖レベルでないと同じ土俵にすら上がれないだろう。


「さあ、早くお買い物を済ませてダンジョンに向かいましょう!」


 いつの間にか武器屋の扉を開けていた高嶺嬢が、俺の手を掴んで中に誘った。




2045年8月30日 ぐんまちゃんのお買い物

・『召喚』 追加従者ロボ2体分×2回(10億+20億)=60億円

・35式無人多脚戦車対機甲型(6億)×216=1296億円

・35式無人多脚戦車対人型(6億)×108=648億円

・35式無人多脚戦車砲撃型(7億)×108=756億円

・35式無人多脚戦車MLRS型(8億)×108=864億円

・35式無人多脚戦車対空型(6億)×216=1296億円

・35式無人多脚戦車輸送型(5.5億)×216=1188億円

・35式無人多脚戦車用整備システム1式=3900億円

・各種燃料弾薬(2000億円)×3会戦分=6000億円


 合計1兆6008億円也。

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