第七十三話 アレクセイとの気まずい擦れ違い

バララララララッ


 目の前でゆっくり着陸した国際連合が誇る世界最大のヘリコプターMi-26T4。

 後部のドアハッチが開かれると、救助された探索者達がぞろぞろと降りてきた。

 彼らの姿に傷を負った様子はなく、救助の際、潤沢に使用されたポーションで全ての負傷が癒えたようだ。

 国際連合に工作を行って戦場へ侵入した彼らだが、迷惑をかけたはずの国際連合に命すら助けられた形になる。

 普段、国際連合などの大国を批判している彼らだが、そんな大国が恩人となった今の彼らの心境は推して知るべし。

 

「…………」


 俺の隣で彼らを出迎える公女が、ヘリが起こす風圧でドリルをはためかせながら言いようのない複雑な表情で彼らを見ている。

 彼らを統率すべき組織の長として、独断専行に走った彼らを咎める気持ちと純粋に彼らの無事を喜ぶ気持ち、国際連合に救助の役目をまんまとかすめ取られた気持ち、様々な気持ちが心の中で綯交ないまぜになっているのだろう。

 本来、俺のプランでは空中要塞攻略後、白影に彼らのもとへポーションを届けて貰ってから救助のヘリを派遣する予定だった。

 空中要塞を早期に攻略するためには、全ての戦力を動員するしかなく、救助部隊を編成する余裕がなかったのだ。

 おそらくアレクセイ達国際連合は、俺達日仏連合が空中要塞を早期に攻略することを予想していたのだろう。

 どう考えても空中要塞攻略が確定後に離陸しても間に合わないタイミングで、国際連合の救助ヘリが取り残された探索者と合流している。

 今回、俺達は空中要塞を攻略してダンジョンボスを単独討伐した代わりに、国際連合による公女派閥取り崩しをまた一歩進めてしまった。

 公女派閥を成長させたい俺としては忌々しいことだ。


「行ってあげると良いよ」


 ヘリから降りてきたばつの悪そうな彼ら、そんな彼らに公女が一歩踏み出せずにいるのを見かねた白影が、そっと八十子姫はとこひめの背中を押した。


「えっ」

「今彼らの無事を喜んであげなきゃ……ね、シャル?」


 それでもなお躊躇う公女を優しく見守るNINJA白影こと貴族令嬢アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィー。

 まさか数時間前まで戦場を汚物で消毒していた人物と同一人物だとは思えない。

 

「ぅぅ……そうです、わね」


 そう言って公女は一歩踏み出し、救助された探索者達に歩み寄っていった。

彼らの間でどんな会話が交わされるのか、ヘリの音でかき消されて聞くことはできないけれど、それを聞こうとするのも野暮だろう。


「――トモメ、今回もダンジョンボス討伐をお前達にまんまと取られてしまったな。

 いやあ、参ったよ」

「アレクセイ……」


 いつの間にか俺の隣にアレクセイが並んでいた。

 なかなか白々しいことを言ってくれるなぁ……

 おそらくこの階層を攻略中、公女派閥のほとんど全ての探索者に国際連合から接触があったはずだ。

 流石に即乗り換えを決断した探索者はいないだろうけど、公女派閥切り崩しの種は植え付けられた。

 そして今回、結果的に取り残された30名は国際連合が救助したことになってしまった。

救助された30名からは、国際連合はどのように見えただろうか。

 どうせ今回居残っていた3名にも国際連合の手は伸びているはずだ。

 この階層ではラテンアメリカ統合連合と凡アルプス=ヒマラヤ共同体を公女派閥に取り込めれたら良いな、と考えていたけれど、取り込むどころか取り崩されそうになってしまうとは……


「なあトモメ、この階層にお前が来た時にした質問、もう一度言おう。

 この戦争、お前はどう見る」


 思わずアレクセイへ顔を向けた。

 そこには普段の冷淡に見えてどこか隙のある彼ではない、どこまでも冷酷で合理的な国際連合元首アレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキーがいた。

 質問に関してはふわふわし過ぎてて何について聞きたいのか理解できないが、それを聞くのも憚られる雰囲気だ。

 たぶん、前に聞いてたダンジョン戦争の黒幕云々うんぬんについてじゃないよね?

 

「…………」


 アレクセイが俺の答えを待っている。

 人類同盟と国際連合の派閥争いのことかなー?

 それとも戦後の第4次世界大戦についてかなー?

 えー、どうしよう、これ……


「…………」


 何時まで経っても俺が答えないからか、アレクセイが心配そうにチラチラこっちを見始めちゃった……

 さっきまでの威厳が台無しだ。

 いつものアレクセイに戻っちゃってるよ……

 何か答えなきゃ……!


「ふか――」

「トモ――」


 被ったぁぁぁぁぁぁぁ!?

 俺の言葉とアレクセイの言葉がまさかの被ったぁぁぁぁ!?

 気まずっっ!

 アレクセイもあまりの格好のつかなさに悲しそうな顔し始めちゃったよ!

 ど、どうしよう、この雰囲気……


「……トモメ殿、そろそろ回収された魔石の処理をする時間ですぞ」

「あっ、もうそんな時間?

 じゃあ、アレクセイ、会話の続きはまた今度ということで……」

「えっ、あっ……おう!」


 見かねた白影の気遣いにより、俺達は大火傷を負う前に会話を打ち切ることができた。

 アレクセイも助かったと言わんばかりに、元気良く少年の様な返事をしちゃってる。

 いやぁ流石は欧州が誇る青い血の中の青い血、シュバリィー伯爵家ご令嬢は違いますねぇ!

 さて、次は人類同盟が攻略中の高度魔法世界第4層!

 頑張るぞい!

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