第三十四話 独行其道な三元首

国際標準時 西暦2045年8月16日12時40分

機械帝国第4層

日仏連合第一機甲師団 師団本部 指揮戦闘車内




 日仏連合が中核となった機械帝国第四層の人類軍は、諸般の事情により第二次攻勢作戦の開始を13時00分に遅延させていた。

 日仏連合指導者、上野群馬は遅延して空いた時間で自由独立国家共同戦線指導者、シャルロット公女に対し追加ODAを有償供与。

 公女が持つ特典の能力により下僕妖精フワッフ6万体(MP600相当)の追加召喚を実施した。

 さらに第三世界諸国軍を再編し、下僕従者フワッフ軍団を第一~第四の4個軍団に分割し、各戦線に配分した。







 35式指揮戦闘車内に設置されている多様なディスプレイ。

 それらに表示されている情報は、麾下の部隊が次々と戦闘配置を完了させていっていることを示している。

 今日は高嶺嬢と白影を攻勢主力の第一機甲師団に集中配備し、機械帝国側の防衛線を一点突破してそのまま壁向こうの敵前線基地を落とす予定だ。

 防衛線に張り付いている24個中隊、おおよそ1個連隊規模の機械兵たちは、後背地を落として孤立させた後、まとめてヘイヘイニンニンすれば良い。


「グンマァ…… 各機甲旅団の重砲陣地は完成したようですわぁ。

 後背のMLRSも既に準備完了してますし、いつでも砲撃に移れますわねぇ……」


 酷く疲弊した様子のシャルロット公女が、重砲部隊の配置状況を報告してくれる。

 白影の臨時誕生日パーティーが終わった後、午前中の内にフワッフ6万体を召喚したのが相当応えたようだ。

 昨日も3万体を召喚した後は、相当疲れた様子だった。


 フワッフ100体召喚につき魔石1個とMP1の消費だから、昨日と今日合わせればMP換算で900もの消費となる。

 俺の今のMPは46だということを考えると、回復分を考慮しても到底2日でまかなえる消費ではない。

 MP特化のステータスだと考えても、同じく敏捷特化の白影の敏捷値が75なので、MP900消費にはまだ追いつかない。


 恐らく、何らかのMP貯蓄かMP回復系統のスキルによるものだろうか。

 特典による恩恵という線も考えられるが、流石に現状の情報でそこまでの特定は無理か。

 まあ、召喚後の疲労具合から見て、HPかSPをMPに変換してそうではあるが……


「各部隊はそのまま戦闘配置を維持。

 攻勢は予定通り1300ひとさんまるまるから開始する」


「分かりましたわぁ……

 砲弾の備蓄は継続しますわぁ……」


 うん、やっぱりある程度頭が回る相手だと、こちらが言わなくても良きに計らってくれるから楽なものだ。

 ウチの狂戦士とNINJAだと全部俺がやることになるからなぁ……

 その点、公女は俺と同じ後方支援タイプだから仕事がやりやすい。


 彼女の能力は俺やアレクセイ、顔面凶器と違って万能型と言って良い。

 器用貧乏とも言う。

 俺達3人の能力を足して3で割った感じだろうか?

 ただ、他人を引き付ける魅力というか、カリスマとでも言うのだろうか。

 それに関しては、それぞれが持つ軍事力や影響力、実績などを除けば、公女が一番秀でている気がしなくもない。


 もしかしたら、空想上の話ではあるけど、そう、もしも人類が結束できたのなら、その時の指導者は公女を頂くことになったのだろうか。

 俺は戦術特化で戦略も内政も顔面凶器やアレクセイには及ばないから、戦域司令官として実際の戦場の指揮統制。

 顔面凶器は戦術が駄目だし内政もそこまでじゃないから、参謀本部長として戦略担当だな。

 内部統制の鬼と化しているアレクセイは、内政官が定位置になる。

 そして、俺達3人を統制し、人類反撃の象徴は公女殿下か……


 まあ、夢物語だな。


 全ての国家が軍権と歳入を全て譲渡するなんて、公女が特典内容を開示して人類の敗北を文句のつけようがない程に明文化でもしない限りは、到底承諾なんてする訳がない。

 俺だって絶対にするつもりはない。

 やるにしても軍権と歳入の管理を俺に預けることが条件だな!


 だって、俺が一番、軍で戦わせたら強いしな!!


 敵同士の連携も無く、味方勢力が一本化できてるなら戦略なんて飾りですよ!

 内政なんざ、祖国に資源をたらふく送って、兵器を買いあさればそれで無敵皇軍の出来上がりってわけよ!

 楽勝だな、ガハハッ!







「———— うん? もしも人類勢力を一つにできたら?

 どうしたキモオタ、まだ夢でも見ているのか?」


 人類同盟指導者、顔面凶器ことエデルトルート・ヴァルブルグは、相棒の寝言を聞くと強面の顔を不快そうに歪ませた。


「そうではないエデルトルート。

 もしもの話だ。

 お前ならどうする?」


 ガンニョムパイロット、フレデリック・エルツベルガーはガチムチマッチョな外見に似合わないミジンコ染みた内心で恐い顔面にビビりつつ、気丈に言葉を繋いだ。


「そうだな…… あり得ないことではあるが、現状でそれを行うなら、軍権と歳入、それと外交権や人事権を全て私に預けることが勝利への唯一の道筋だろうな」


「ほう……」


「トモメ・コウズケはどうしても戦術を主軸に考える。全体を見通し、その先を見通すよりも足元に目が行きがちだ。

 アレクセイ・アンドレーエヴィチ・ヤメロスキーは典型的な内政屋だし、恐怖政治になりやすい。

 だったら私しかいないだろう。正しい戦略に基づけば、勝利には必ず辿り着ける。

 全体を把握し、先の先を見据えた戦略こそが勝利への唯一のカギだ。


 それができるのは、私しかいない」







「———— 人類の結束、か。

 軍権と歳入、外交権、人事権、そして魔石配分権と技術方針の決定権など全てを俺に任せるのなら、それも良いか。

 トモメも顔面凶器も結局のところ戦にしか目が行ってない。

 この戦争を勝利しても、残っているのが荒廃した地球では意味がない。

 強靭な国力と確固たる統制に基づけば強靭な軍隊なんていくらでも生み出せる。

 あの二人だと、内政畑を軽視しかねないぞ。

 その点、俺は違うがな」


 国際連合元首、アレクセイ・アンドレーエヴィチ・ヤメロスキーはそう言うと、冷酷な表情の中で口角を僅かに吊り上げた。

 国際連合に属する地域覇権国家の片割れたるブラジル連邦共和国の女性探索者ケイラ・デ・デボラ・ロドリゲスは、何も言わず困ったようにはにかんだ。







 みんな癖が強すぎますわ……

 疲労困憊の中、ふと3元首のことを思い浮かべた自由独立国家共同戦線指導者、シャルロット・アントーニア・アレクサンドラ・エリザべード・メアリー・ヴィレルミーヌ・ド・ナッソーは、気が重いとため息を吐くだけだった。




 日仏連合率いる人類軍が、機械帝国第四層にて第二次攻勢作戦を行うまで、残り5分を切っていた。

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