第十八話 必殺技ゲージ

『報告! 暴虐龍カラドリウス、即死!』



 満を持して投入した決戦兵器は呆気なく散った。



『報告! 敵陣地へ攻勢中の第31魔剣師団、損耗率2割を突破!』



 魔界軍に残された兵力も半壊した。



『閣下、もはやまともな反攻兵力は残っておりません』


『閣下、要塞内への敵の逆撃を許しました』


『閣下、第24重装師団の残存部隊が抗戦開始しました』



 畏れ多くも魔王陛下より己が預かった兵共が次々と討ち取られてゆく。


 予想はしていたが…… いや、予想を遥かに超えた高みに敵がいるということか。

 波状攻撃と遅滞戦闘により敵の消耗と戦闘の長期化を狙ったのだがな。

 まさか暴虐龍ですら半日も持たずに滅殺されるとは思わなんだ。


『—— もはやここまでか』


『閣下……っ』


 もはや打てる手は無し。

 己の低能ぶりと敵の強大さに嫌になる。


 だが、こうなってしまっては決断せねばなるまい。

 周囲の配下も我の言葉に覚悟を決める。


 元より我らは決死隊だったのだ。


『全ての大型魔獣を召喚せよ』


『ッ!!』


 ならばこそ、全身全霊で一人でも多くの猿共を道連れにするのみ。

 彼奴等には最後に一つ、付き合って貰うとしよう。


『決戦である』







『プギィィィィ!』



 俺の世間体を生贄にして倒したと思ったコアラが復活した。

 キモ可愛おっさんフェイスは相変わらず健在だ。



『ンメ“ェェェェ!』



 ついでにパンダも汚ねえ濁声だみごえをあげて湧いてきやがった。

 初めてパンダの鳴き声聞いたけど汚ねえな!



『カンガルゥ!』

『カンガルゥゥ!!』

『カンガルゥゥゥ!!!』



 元気一杯なカンガルーはまとめて3体出現した。

 カンガルーの鳴き声ってカンガルゥなのか…… 知らなかった。


「ヘイヘーイ!

 気分はオーストラリアですねー!」


 先程俺に羞恥プレイを強いた高嶺嬢が、目を輝かせて珍獣どもを眺めている。

 彼女はパンダが豪州大陸に生息していると思っているのだろうか。

 

 まあいい。

 それよりも高嶺嬢の必殺技で瞬殺したとはいえ、日本が誇る重砲群の効力射を食らっても落ちなかった巨大生物が同時に5体出現か。

 見た目は最初のコアラ同様に小山を思わせるほどの巨体だ。

 戦闘力も個体差はあれど同程度と考えられる。


 一方、こちらは重砲群こそ稼働しているものの、多脚戦車の過半は未だ整備中であり、初戦に比べ軍戦力は半減していると言って良いだろう。

 端的に言って非常にまずい。

 すぐに重砲陣地に配置した美少年と美少女に砲撃の指示をだす。

 測距は既に済んでいるので、数秒後には砲声が大気を揺るがした。



ドドドドゥゥゥゥゥゥンンンン



 幾百もの爆炎が珍獣5体を包む。

 しかし、姿こそ黒煙で隠れているが奴らは健在であり、その歩みを止めることはなかった。


「そういえば白影が要塞内に逆侵攻しているけど、あっちは大丈夫なのか?」


 白影は最初のコアラ出現と同時に攻勢に出た魔物集団を焼き尽くした後、その勢いのまま洞窟内に突入していた。

 NINJAだし何とかなりそうな気もするが、あれでも元は世界屈指の深窓の令嬢だったし、万一があれば俺の戦後が焼け野原状態になりかねん。

 

「へいへーい、ぐんまちゃーん!

 黒いののことだし、きっと平気ですよー!」


 高嶺嬢がすかさず口をはさんできた。

 日本国総理大臣御令孫はフランス共和国貴族令嬢を謀殺したいのか?

 日仏連合崩壊の足音が聞こえてきたぜ!


「俺も白影の戦力に不安はないが、流石に後詰めは必要だろう」


 白影が近くにいない為、今はフランス国民の目が無い。

 とはいえ、あからさまに白影の戦力を不安視するわけにもいかない。

 俺はそれとなく彼女にフォローを入れつつ、整備が完了していた無人戦車1個連隊に従者ロボ2体をつけて洞窟内に突入させる。


「むー、ぐんまちゃんは心配性ですねー」


 高嶺嬢が不満げに口先を尖らせた。

 はいはい、かわいいかわいい。


 これで稼働可能な俺の手持ち戦力は残り無人車両1個連隊と1個航空旅団、従者ロボ10体程度と言ったところか。

 まあ、必殺技持ちの高嶺嬢がいる以上、大型魔獣といえどただの木偶の坊にすぎない。

 最初のコアラも開きにしてやったし、今回も高嶺嬢の一之太刀とかいう意味不明な斬撃により珍獣の開きが5枚できあがるだけだろう。


 パンダっておいしいのかな?

 カンガルーは地元で食べられているらしい。

 コアラはどうだろう?


 パンダの開きと、カンガルーの開きと、コアラの開き。

 みんなちがって、みんないい。


 どれも初めて食べるなー。

 いや、冷静に考えると全部マズそうだ。


「高嶺嬢」


「なんですかー?」


「また必殺技、いけるかな?」


「えっ」


 高嶺嬢はハトが豆鉄砲食らったかのような表情で俺を見つめる。

 なんだその顔は。


「また代償が必要かい?」


「えっ」


 とっくに戦闘モードの筈の高嶺嬢が先程から語尾を伸ばさず、えっしか言わない。

 あれ、様子がおかしいな。


「…… 必殺技、何したらうってくれる?」


「えっ」


 なんだこのループ。

 嫌な予感がしてきた。

 ちなみにこの間にも大型魔獣たちはゆっくりと、しかし着実にこちらとの距離を詰めている。

 不思議と冷や汗が出てきた。


「高嶺嬢、えっ?」


「ぐんまちゃんっ、えっ」


 依然としてハトが豆鉄砲食らったかのような表情の高嶺嬢。

 いい加減、その顔止めて欲しいのだが。


「もしかして、うてないの?」


「えっ、必殺技ゲージが溜まるのって2時間じゃないですかっ」


 知らんわ、そんなこと。


 そっかー、高嶺嬢の必殺技ってゲージ制なのかー。




「こりゃあ、日仏連合壊滅の危機ですな」


 ヤバい、ヤバイヤー、ヤバエスト。

 ヤバいの三段活用が唸りを上げた!

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